お隣さんと始める節約生活。 電気代のために一緒の部屋で過ごしませんか?【スマートニュース連載版】/くろい

著:くろい/イラスト:U35/ファンタジア文庫

【第1回】お隣の女子高生と、一緒の部屋で過ごすことになりました。

 台所でフライパンを振るうやまさんが話しかけてくる。


みや君。お皿を用意して~」

「はい、分かりました」


 まるでどうせい生活かのようなやり取りだが別に同棲生活を繰り広げているわけではない。

 もう一度言う。俺こと間宮てつろうとお隣さんである山野さんは同棲しているわけではない。

 なぜ、このような同棲生活の様にしか見えない日常を繰り広げる関係になったのかは少し時間をさかのぼる必要がある。

 そう、あれは山野さんが家の鍵を無くした次の日。

なんだかんだで、鍵を無くした山野さんは俺にも色々と迷惑を掛けたという訳で、事のてんまつを伝えに来た山野さんと立ち話しをしていた時の事だ。


==========


「で、話はこれからなんだよ。間宮君」


 しんみような面持ちで俺の目を見てくる。

 何を話されるのかとつばをごくりと飲み込み待ち受ける。


「な、なんですか?」

「単純計算で、電気代が半分になる画期的な方法があると言ったら?」


 興味を引かれた。

 電気代が半分? 節約の情報がっていたサイトではせいぜい3円とかみみっちい金額しか節約できていないのに?

 一体、そんな節約方法は本当に存在するのか?


「教えてください」

「一人よりも二人。簡単に言うと、一部屋を二人で使えば良いんだよ」


 なるほど、同じ部屋に二人で居れば、冷房を動かすのは一台で良いし、照明も一つ付ければいい。

 シンプルで単純な節約方法だ。


「それってつまり、俺か山野さん、どちらかの部屋で二人いつしよに過ごすって事ですよね?」

「そうだよ。正直に言うと、私もこれを言うかすごくなやんだ。でもね、一晩めてくれた間宮君があまりにもしん的だったからこそ、言えると思ったんだよ。それに、一番電気代が掛かる昼間だけ、夜はちゃんと自分の部屋にもどるつもりだから安心して?」


==========


 とまあ、山野さんの提案を受け入れ、俺と山野さんは電気代のために一緒の部屋で過ごすことになったというのが、まるで今の同棲生活かのような生活のほったんだ。

 そして、その同棲生活かのような生活の発端の発端は、確か……俺がアパートのないけんに来た時が始まりだったっけか?




   * * *




 高校生になり一人暮らしをすることになった。

 家はそこそこの田舎いなか、通える高校はあったが……残念な所ばかりなのが理由である。

 そんな俺は不動産屋の人とアパートの内見に来ていた。

 通う予定の高校はすぐそば。近くにはコンビニ。駅までは歩いて15分。スーパーへは20分。何とも言えないみよう感がただよう立地。

 そのせいか、家賃は良い具合である。

 部屋を見させてもらう間際、不動産屋の人が電話で少し席を外す。

 これから見させて貰う予定の部屋の前で待ちぼうけしているとおとなりげんかんが開いた。

 出てきたのは大学生? くらいの女性。そんな彼女は俺の存在に気が付き声をける。


「もしかして、お隣に住む人? もしそうだったら、よろしくね」

「え、あ、はい」


 まだ決まってはいないがつい生返事をしてしまう。


「そっか。じゃあ、私はこれで」


 と言って去って行くお隣さんになるかもしれない人。

 そんな彼女だが、去ったと思いきやすぐにもどって来た。


「カギ閉め忘れちゃった」


 聞いてもいないが、未だ玄関で待機している俺に無言をつらぬくのがつらかったのだろう。

 ずかしそうに言いながら、かぎを閉めて再び去って行く。

 少しおっちょこちょいな所があるお隣さん。

 そんな彼女と俺がたがいの生活にみ込むくらい仲良くなるのを、この時の俺は知らない。





   * * *




 俺は一人暮らしをしている。そんな俺はとあるなやみをかかえていた。


「もっと遊びたい。けどお金はない」


 物足りないのだ。

 びんぼうでは無いのだが、遊ぶ金がちゃんとあると言えるかと言えば、あるけれども、少ないとしか言いようがない。

 そこで遊ぶためのお金をどのように工面しようかと考える。

 収入を増やすか節約をするかのせんたくがあるのだが、収入を増やすのは出来そうにない。

 通う高校ではアルバイトは禁止。校則には割と厳しくバイトをしているのがバレてしまえば停学をようしやなくきつけられる。

 アルバイトの許可が出るのは月の収支が赤字で、生活が困難になっている場合のみだ。俺は遊ぶ金がないだけで赤字ではない。ゆえに、アルバイトの許可は貰えないだろう。

 要するに遊ぶ金を作るためには支出を減らすしか無いのだ。

 とは言え、節約で日々の豊かさを失いたくはない。

 例えば、そろそろれいぼうが必要になる季節。いくら節約のためでも、冷房代をケチって暑い部屋で暮らしたいかと言われればいやだとしか言えない。豊かさを保ちながらも節約したい。遊ぶ金も欲しいが、そのために冷房をケチるかと言われれば答えはNOなのだ。

 実にぜいたくな悩みである。


「どうすれば良いんだろうな……」


 遊んで来た帰りに郵便物がないかどうか、住んで居るアパートのみやてつろうと書かれている郵便受けを開けながらをこぼす。


「何がどうしたの?」


 俺の愚痴が聞こえたのか、俺と同様にアパートの一階に備え付けられた郵便受けを確認していた、隣に住まうやまさんが話しかけて来る。

 彼女は実家が田舎なせいで一人暮らしを始めたそうだ。

 彼女とはアパートの内見に来た時以来、すれちがうたびにあいさつをする仲であり、田舎から出てきたのもそんなすれ違う時にした世間話で知った。


「あ、どうも山野さん。いやー、一人暮らしががらくて……別に生活には困って無いんですけど、遊ぶお金がちょっと物足りないんです」

「私もそんな感じだよ。欲しい服とかがあるのにうちの高校ってバイトは原則禁止、収支がマイナスじゃないと許可できませんとかほんとふざけんなって感じだよ」


 長々と話したことが無かったので知らなかったが、お隣さんは俺と同じく高校生らしい。

 部屋を決める際の内見の時に出会って以来、格好が大人びているから大学生くらいかと思っていたんだが外れだったようだ。


「ですよねー。ほんと高校生の大事な時間を何だと思ってるんだって感じですよ。こっちは遊びたいっていうのに」

「うんうん、分かる。というか、間宮君って高校生だったんだ。大人っぽいから大学生かと思ってたよ」

「あ、はい。俺も山野さんの事、大学生かと思ってましたよ。と言うか、もしかしてなんですが高校ってここから一番近いあそこですか?」

「え、そうだけど。もしかして、間宮君も?」


 お隣さんである山野さんは俺と同じ高校に通っているらしい。

 学校と言えど広いし、会わないのはつうの事だ。


「そうです。いやー、まさか同じ高校に通っているなんて思いもしませんでした」

「私もだよ。まさか、間宮君といつしよの高校に通っているなんて思ってなかった。学年は?」

「1年生です」

「私は2年生。間宮君って年下だったんだ。ちょっと意外かも。それにしても、最近は暑くなってきたね。駅から歩いて来ただけであせびっしょり」


 着ている服をつまんでパタパタと服とはだの間に空気を送り込む山野さん。

 大人びた彼女がった体を冷やそうとする姿は見ていてきない。


「ほんとですよ。でも、冷房はケチりたく無いんですよね。遊ぶ金が欲しいなら節約すべきなのに」

「分かる。私も、節約しないと~って思うのに冷房つける。暑いのが苦手だし」


 価値観が似ているのだろう。

 変な所で同調して、分かる分かると言いあう俺と山野さん。

 そんな俺と山野さんは同じ高校に通っていると知ったこともあり、今までよりもフレンドリーに話せ、気が付けばあっという間にきよかんが近くなった気がする。


「って、暑いのにお話に付き合わせちゃってすみません」


 まだまだ話していたい気もしたが、アパートの郵便受けはかげではあるが、普通に暑い。

 これ以上付き合わせるのは申し訳ないので、切り上げるべく話を終わらせる。


「ううん。私から話しかけたんだし気にしないよ。ところで間宮君。今日って、これから冷房つける?」

「あー、付けますね。節約したいのに」

「あはは、私もだよ。あ、そうだ。冷房代を節約するために遊びに行っても良いかな?」


 急にお部屋に遊びに行きたいと言われたら困るだろうという顔。

 要するにじようだんを投げかけて来てくれたのだろう。

 えーっとと言いよどもうものなら『ごめん、ごめん。冗談』って返されるに違いない。

 だが、ここは俺もふざけてみるか。


「良いですよ」

「え、良いの? 冗談で言ったつもりなんだけど」

「やはりそうでしたか。というわけで、俺も冗談です。部屋を片付けてないんで、おじやされるのはかんべんしてください」


 冗談を冗談で返した。

 すると、山野さんはちょっぴりくやしそうにこう言う。


「年上をからかうなんて、間宮君は悪い子だね」

「ええ、ちょい悪ってやつです。それじゃあ」

「それじゃあね。って、玄関までは一緒だけど」


 アパートの郵便受けからそれぞれの部屋の玄関へと向かう。

 そして、玄関前で再び挨拶を交わす。


「じゃあね。もしかしたら、高校で会うかも。その時はよろしくね?」


 ひらひら手を軽くって山野さんは自分の部屋に入って行くのであった。

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