《3》
部屋に戻り、皆の顔を見回す。サイスが先に部屋の中心まで行ってくれたので、私はその後ろで止まった。
「俺は半分に別れる案を推したいと思う。意見がある奴は、手を上げてくれ」
数秒間沈黙が流れた。何か言おうとする者はいない。
「じゃあこれで一応は納得ってことか? そしたら次は、どうやって分けるかだ」
フルスピードで様々な案を頭に浮かべる。しかしそのどれも使えそうにない。もういっそのことバレバレでも、私が指名して二人を分けようか。シンクに恨まれるとしても、その対象が私なら……他の子でなければ。
「くじ引きでいいんじゃないかな。どうだろう、エース手伝ってくれるかな」
突然の提案に皆がこっちを向いた。その中には驚き顔のエースも混ざっていたが、素直に立ち上がってくれた。
再び部屋から出て、違う教室に入る。
「……先生、何か考えが?」
「ああ……うん、これもかなりスレスレというか、良い案ではないんだけどね」
紙を切って、そこにAと書き込んだ。もう一枚はBだ。
「他の子が引いた後、隠した白紙の二枚をサイスと君に引いてもらう。サイスがシンク側についたら、君は必然的に彼と違う組に入るわけだ」
「サイスは気づいてくれるでしょうか。彼、ああ見えて天然なところがありますから」
ふっと息を吐くように笑うのは、初めて見る表情だった。エースが余程疲れているのか、何かに対して呆れているのか。気になったがそれは一旦無視して、残りの紙を切った。
「まぁこの流れだからね、さすがに気づいてくれると思うけど」
「僕とサイスが引く前、箱の中身がなくなるということですか? それに気づいた生徒が指摘するかどうか」
「うん……そういうところも含めてスレスレなんだけど。とりあえずそこをスルーしてくれそうな子を後の方に引いてもらえるように……」
「ふふ、こうなったら一度みんなに相談するべきでしたね……でも」
手を止めたエースがこちらをじっと見つめた。
「失敗してもいいんですよ」
「えっ?」
またあの笑い方だ。エースの目から光が消えて、少しずつ失われていくような……違う彼が顔を覗く。
「今はシンクに振り回されているように見えると思いますが……シンクの手綱を握っているのは僕だ。やろうと思えばいつでも、シンクを大人しくさせることはできる。まぁそれは……今のシンクが本気ではないからですけど。シンクが本気になったらどうなるのか、見たことがないので分かりませんが……いざとなれば効果的な一撃は一応用意してあると、言っておきましょう」
咄嗟に言葉を返すことができなかった。私が今まで見てきたエースは優しく、頼りになるリーダーだったのに、こんな一面も持ち合わせていたとは。
「それは……どういうこと」
エースはただ静かに笑みを浮かべるだけで、答えようとはしなかった。
箱を持って、子供達の前を歩く。あくまで軽く、ゲームだと言い聞かせるように。指摘を受けても、間違えてしまったなどの言い訳で済むように。
「よし、誰からでもいいよ。どんどん引いて」
こちらの思惑通りに、彼らはあまり間隔を開けずに引いていった。ありがたいことに、シンクも列の前の方にいる。
エースが何か合図でも送っていたのか、サイスが少し遅れてこちらに来た。皆に背中を向けているから、何をしているかは分からないはずだ。
そっと隠し持っていた白紙を渡す。サイスはそれを広げてBと答えた。その後は私に紙を戻す。
「ってことは、エースはAグループだな」
エースも一応紙を持って、確認するフリをした。
私はそっと全ての紙を集めて、服の中へ入れた。これを見られたら、全てが無駄になる。
「Bグループが七人で作ったのですか?」
声を上げたのはテンだった。彼のことだから、単純な疑問なのだろう。
「え、どうしたのテン」
「私達は十三人だから、六人と七人に別れますよね。だったらAが六じゃなくて、七でもいいんじゃないですか?」
「……確かにそうだね。ごめん、そこまで考えてなかったよ。とりあえずパッと十三枚作っただけだから」
「すみません。先生を責めるつもりはなかったのです。その……もしバランスが悪かったら、変えてもいいのかと思って」
テンの言葉を聞いて、場に緊張が走った。事情を知っている人物が引きつった表情を浮かべないように、なんとか顔を固めているのが見える。
「あ、ああ……そうだね。でもとりあえずこれで分かれてみよう。何か問題があれば対処するよ」
「分かりました。ありがとうございます、先生」
「ううん。いいんだよ……」
乾いた笑いしか返せなかったが、ひとまずテンは納得してくれたようだ。
「じゃあAグループは別の教室に移動しようか」
「先生は入らないのですか?」
「あー……私は、見回りをするよ。二つのグループを順番に見ていこうと思う」
テンは間違いなく良い子だが、その純粋な目が少し辛かった。ボロが出ないように、早足で皆を連れていく。
「こうして見ると、こっちは平和な感じだな」
トレイが部屋を見渡して言った。
例の三人の中で、こちらにいるのはナインだけだ。
「ナインと一緒で嬉しいです」
「あ、ありがとう……テン」
微笑ましいやりとりの一方で。
「まぁお前らは余計だけどな」
「ん〜? つんつんトレイ君は寂しいんでちゅか〜? かまってほしいのかあ? ハハッ、遊んでやろーか?」
「あーあ、平和満喫してたのに。ジャックより、君の方が壊し屋なんじゃないの?」
「うるせークイーン。てめえこそ、うさんくせーんだよ」
「はぁ? くさくなんてないですしー。本当、この子ったら失礼ですねー!」
エースは一人で隅の方から部屋を見ていた。
「エース、大丈夫そうかい」
「はい、平気ですよ。……ちょっと新鮮な感じがしますね、半分減っただけで」
「ふふ、君は特にそう思うのかもね。じゃあ向こうを見てくるよ」
「はい、いってらっしゃい先生」
なんとなく見に行くのが怖かった。数人の生徒には気づかれているだろう。
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