第221話 アフターサービスの御影屋


 「菲菲のお母さんを探すのにも協力してもらったわ。それだけじゃなく悠人君がいない間のペルソナのお仕事、代わりにやってもらったの」


 って事は菲菲の母親は見つかったのかな。それにペルソナのお仕事もか〜。……え? カイト、宣誓できんの?


 「同じ事ができるのか? って思ってそうな顔だね。同じじゃないけど能力で誤魔化せたんだ」


 カイトの能力は【くう】というらしい。名付けたのはカイト自身で、能力を得た際に自分が空虚だった事と、在るものを無いものとする能力だと感覚的にわかったからだと言う。聞いただけでやばそうだとわかる。その能力があったから悠里の長杖を斬れて、エアリスの攻撃もすり抜けたんだろう。あ、長杖直してやらないとな。


 「その能力って人にも……?」

 「自分以外の生物には直接効果はないから心配いらない。それとは別に不思議な事に相手を気圧(けお)す事ができるようになってて……ほらさっきの」


 あー、それ【超越者の覇気】だろうな。って事はカイトは超越者か。そういえばなんでカイトは自分を空虚だなんて思ってたんだろう。まぁそのうち聞いてみるか。


 カイトに【超越者の覇気】をぶつけてみると「そう! これだよこれ!」嬉しそうだった。なんでさっきより強めに威圧したら嬉しそうなんだよ。もしかしてそっち系の趣味をお持ちで? 変態さんか? でもペルソナとしての仕事を代わってくれたのはありがとうございます。


 ともかくカイトは「はい」か「イエス」以外受け付けないといった威圧でもって形だけの宣誓で何件か乗り切ったらしい。ペルソナの衣装は俺の部屋に置いてある予備を使ったんだろう。ってかいない間にペルソナは怪我から復帰した事になってたんだな。


 「これまでのペルソナの実績があってこそね。いつもと違うことを疑問に感じた要人もいるのだけれど、そういう人には『ペルソナは魔王との約束を守る同志を探しているから方法を変えて試してる』ってこっそり嘘言ったわ! ちょっとドキドキしたけれどほとんどが疑うどころか感動されちゃってお姉さんびっくりよ〜」


 なるほど。つまり会談の場所にわざわざ日本を選ぶような人たちは味方になり得るって事か。逆に日本に寄り付かなくなった国には気を付けた方が良いか。またダンジョン内で領土獲得のいざこざが起きないとも限らないし。


 ーー 要人を送りはしても国は偵察のつもりかもしれません。加えてダンジョン内において魔王を気にせず自由にできるペルソナ及びクラン・ログハウスにあわよくば取り入ろうとの打算があるやもしれません ーー


 そうかもしれないけど、疑ってばっかりも疲れるからな。


 「あのペルソナさんがホントに御影さんだったなんてびっくりですよー!」

 「レイナとアリサには教えたのよ〜。というかアリサは勘付いて、レイナは知ってたみたいよ?」


 え、なんでレイナは知ってたんだ?


 ーー おそらく魔王の一件の際、かばったからかと ーー


 あれだけで? 嘘だろ……


 「御影さんが公民館ダンジョンで助けてくれた時の動きにそっくりで……耳も隠してなかったので……」

 「口封じしなくても大丈夫です! 秘密は墓場まで持ってくんで安心してください! できれば同じ墓が良もごもご……」

 「御影さんはそんな事しないよアリサ!」


 アリサはレイナから口を塞がれている。まぁ、これはこれで口封じか。本当に知られちゃまずい相手ならエアリスが何か言いそうだけど何も言われない。俺もこの二人なら大丈夫だろうって思う。


 そういえば北の国の超越者クララにも言われたな……耳ってほんとにバレるのか。


 ーー 見ただけで判別できるのは二人が特殊なだけかと思いますが、耳の形はヒトを特定できるだけの個性があるようです ーー


 ペルソナの正体が俺だって事を知ってる人増えたなぁ。言うなればほぼ関係者だけど誰かがうっかり漏らすって考えといた方がいいのか? ともあれまずは俺自身からバレるのを避けないとな。


 ーー 耳まで隠れるタイプの仮面が必要ですね。ところでご主人様…… ーー


 エアリスはカイト、レイナ、アリサもクラン・ログハウスに加えてはどうかと言う。能力に関して詳しい事は伏せているとはいえ俺の秘密も知られちゃったしな。でも給料とか発生するじゃん。だからあとで悠里に相談かな。


 いきなり俺が帰ってきたから悠里と香織が追加で料理を作ってくれている。その間ソファーで長杖の修理作業をすることにした。

 エアリスと相談し、氷のつるを巻き付けたような意匠にするが、手で持つ部分はその蔓で守るナックルガードの役割も持たせる。先端はとぐろを巻いていたが思い切って竜の頭を真似る。その竜とは“黒銀こくぎん神竜しんりゅう”であるクロ、色は全体的に氷をイメージするものに変えた。

 エッセンスを流し込むと先端の竜の瞳として嵌め込まれた二つの大きな虹星石が妖しく光る。流し込んだエッセンスが悠里の言う“魔力”の性質に変換されているのを感じる。悠里の能力にとってその変換が大事らしい。ところでデザインを一新してしまったし悠里は氷属性と言える魔法を好んで使うから色も変更してみたが気に入ってもらえるだろうか。


 「なあ悠里」


 振り向くと全員が集合していた。まぁ珍しいよな。インターネットを使ってエアリスが探しているけど未だ実用レベルの製作ができる個人は見つからないようだし。隠してる可能性もあるけど、人間って嬉しいことを隠しておくのは存外ぞんがい難しいからその内ほのめかしたりするんじゃないかという事でエアリスが探しているわけだ。


 「蔓の部分は本体から浮いてるけどエッセンスを流し込めば【拒絶する不可侵の壁】で包まれるから安心して殴っていいぞ」

 「綺麗……」

 「お気に召す感じ?」

 「うん、ありがと悠人」

 「アフターサービス完備の御影屋だからな」

 「アフターサービスにしては大盤振る舞いだね御影屋さん。お礼に雑貨屋店主がハグしてあげよう」


 後頭部を包まれるような感触は素晴らしい。普段ならこんなことは、それも人前でなんて絶対しない悠里をして、新生した長杖は嬉しかったんだろう。だって竜形態のクロの頭が付いててかっこいいしな。


 「小夜のは明日でもいいか?」

 「いいの。わたし、ちゃんと待てる妹君なの」

 「カイトたちもどういうのが良いとかあったら教えてくれれば作るから遠慮しないで言ってな」

 「いいのかい?」

 「いない間世話になってたみたいだしさ。それにまた暴走したらレイナから嫌われる呪いかけとくから」

 「そんな呪いがあるわけ……悠人、嘘だよね?」


 不安げなカイトを真顔で見つめ返す。当然そんな呪いはないけど妹のレイナが好きすぎるカイトにとって嘘でも本当でもしっかり効果を発揮するだろうな。


 追加の料理もできテーブルの上にはたくさんの皿が並ぶ。小型化し膝の上に乗るチビが心配そうに小夜のタックルを受け止めた腹のあたりに鼻をつけてくるが、ワイバーンステーキのにおいに涎が垂れそうになっている。大丈夫だと言って撫でてやると尻尾を振って降りて行きおはぎと一緒にごはんを貪り始めた。かわいい獣め。

 食卓にフェリシアとクロはいないがカイト、レイナ、アリサが加わり賑やかではあった。でもなんだか変な感じだ。やっぱりフェリシアとクロがいないからかな。

 まぁでもとりあえず今は腹が減って仕方ない。


 「悠人、いつもよりよく食べるね。そんなにお腹減ってたの?」

 「悠里が作ってくれるごはんがおいしいからさー」

 「そ、そういうのは香織に言いなさいよ。一緒に作ったんだから」

 「香織ちゃんもありがとね」

 「あ、あたしも手伝ったっすよ!?」

 「杏奈もありがとね」


 なにやら両サイドの悠里と香織以外がごはんを放ってひそひそと話しているが今はそれどころじゃない。だってごはんがうまいんだもの。


 「ところでフェリは?」

 「フェリは……クロノスさんと離れ離れになってしまったから……」


 さくらは沈痛な表情で言い俯く。みんなもそれに続くところを見るに、なんとか元気を出してもらおうと手を尽くしたんだろう。


 「ねえ悠人、ご飯食べたら二人に何か持ってってくれない?」


 悠里は俺がこの後フェリの部屋に行こうと思った事に気付いたみたいだ。理由まではわかってないだろうけど……ついでだしな。それに二人があまり食べていないってのは普通に心配だから二つ返事で引き受ける事にした。

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