第129話 ようこそ、ログハウスへ


 エテメン・アンキを管理下に置き帰還する。天井は一部機能が麻痺していたため修復が不可能だったが、そのおかげでクロの背中に乗りそのまま飛び立つことができた。一時間ほどでログハウスがある森に到着するとクロが人化する。さすがに裸で森を歩かせるのは気が引けたのでロングコートと歩きやすいように靴を出してやった。


 「この靴歩きやすいネ! でもこの……服? これでいいのカナ?」


 見るとクロは膝下まであるコートの前を開けっぱなし、ほぼ丸見えてしまっていた。目のやり場に困るのでボタンをつけるように言うが着衣初心者にはちょっとよくわからなかったらしく、なるべく見ないようにしながらつけてやった。


 「ナルホド! これとこれをパチンってするといいんダネ! でもあーしは裸でも大丈夫ダヨ? あっこじゃそうだったし」


 「年頃の女の子を裸で歩かせるとかベータの常識を疑うな……いや、そもそも常識が違うのか」


ーー エテメン・アンキに人類の常識を当てはめる事自体が間違っています ーー


 「それもそうだな。とにかくクロ、これからはちゃんと服を着るんだ、いいな?」


ーー はーい! ……くんくん……これ、ちょっとおにーちゃんのにおいがするね」


 「ログハウスに着くまでの辛抱だから少し我慢してくれ。そしたら誰かが服持ってそうだし」


 「え、このままでもイイヨ? このにおい好きだし」


 「え、なんかそれはちょっと」


 食用肉として見られている疑惑を拭えないが、少し歩きログハウスに着くとホカホカした女性陣が料理をしていた。


 「ただいまー」


 「お兄さんおかえりっすー!」

 「悠人さんおかえりなさい!」

 「おかえりなさい悠人サン。大丈夫でしたか?」


 「うん、問題なかったよ」


 エアリスのいろいろは言わないでおく約束なので、不完全な器に入っちゃったシグマを普通に倒したということにしてある。隠す必要はないと思ったんだが、エアリス自らがそれを望んでいるのだからそうしないわけにはいかないだろう。


 「おかえり悠人君。チビもおかえり〜。うふふ〜」


 「わふっ!」


 「あら? クロは服がないのかしら?」


 「ないけどダイジョブだよ! これ、おにーちゃんにもらったし!」


 「あげてねーけどな」


 奥から風呂上りの悠里とフェリシアがやってくる。そしてコートの前部分を大きく開いてコートを貰ったアピールをするクロの姿を見て一言。


 「悠人、あんたクロになんてかっこさせてんのよ」


 「うわぁ。さすがにそれは犯罪なんじゃないかな? 違うかな?」


 「え、なにが?」


 「裸に靴とコートだけって」


 「悠人ちゃん、さすがにそれはだめだよ」


 「あ、まぁ……手持ちがなくて」


 というのは嘘だ。ないわけではなかったが、クロは服を自分だけで着れない。そうなると俺が手伝うことになるわけで、それこそ俺の道徳心が黙っていなかっただけだ。決して欲望が鎌首をもたげることを恐れたわけではない。


 「とにかく、誰かよさそうな服、ない?」


 「あれ? あたしのコスプレ用の制服、なくしちゃったんすか?」


 「たぶん不可抗力で灰になったと思う」


 「あー、マジっすかー。あー、着るの楽しみにしてたんすよ〜?」


 迫る杏奈が冷たい目で俺を見てくる。そのままどんどん近付き、その鼻が俺の顔のしたまでやってくるとスンスンと鼻を鳴らして嗅いだあと「汗のにおいがするっす」と言っていた。


 「ごめん、ごめんて。代わりの服買ってあげるから勘弁してよ」


 「言質取ったっす! じゃあクロはあたしが引き取りますねー」


 「私も着せたい服があるのでついていってもいいですかー?」


 「よし、ついてくるっす、リナ!」


 「合点承知の助でーす!」


 「どこで覚えたんだそんな変な言葉」


 クロが無事拉致されたのを見届けると、汗臭いままというわけにもいかないだろうと思い離れの露天風呂に向かい、チビも洗ってあげようと連れていく。毛の色が変わったのは生え変わったからかもしれないし、まだ抜け毛があるかもしれないしな。


 「ふぅ〜。骨身にしみる〜。さて、洗うか」


 湯に浸かったままチビを洗える特別仕様なので風邪を引く心配はあまりない。問題があるとすれば、チビがまた少し大きくなっていることで中腰にならないと背中の上の方まで届かないことだろうか。


ーー マスター、以前から疑問に思っていたのですが、チビが小さくなればいいのでは? ーー


 「……天才か?」


 盲点だった。雷が落ちるような天啓を受けたようだった。眼球から鱗ばぼろぼろと落ちた気分だった。ということで即採用しチビには小型犬サイズになってもらう。


 洗いやすい。これができるなら、風呂の水流をうまくして洗い落とした汚れが淀まず流れていくようにすれば同じ湯船に浸かったまま洗えるのではないだろうか。まぁそんな都合のいい流れを作れるかは別として。

 俺の脳内で露天風呂改造案が発案された。その計画を練りつつチビをわしわし洗っていると、ここでは聞き慣れない声がした。


 「おじゃましちゃうヨー! ウェーイ!」

 

 そういって湯船に突撃してきたのは小さな角と翼、そして尻尾がついた褐色少女のクロ。一糸纏わぬジャンピング入湯に、露天風呂改造案は霧散した。


 「なにやってんだ、飛び込み禁止だぞ。それに男が入ってるとこに入ってきちゃいけません」


 「えー? でもここでは裸の付き合いをするのがルールだって」


 「誰がそんなこと言ったんだ?」


 「チャンアナ」


 「杏奈ちゃんの言うことは真に受けちゃいけません。ってかその杏奈ちゃんたちに服着せてもらうんじゃなかったのか?」


 「今選んでくれてるヨー」


 目のやり場に困ってしまわないように、洗い終わったチビには元のサイズに戻ってもらい俺とクロの間に入ってもらう。その背中がちょうど湯船に張ったお湯から出ている状態で、目隠しともたれ掛かるにもちょうどいい大きさだった。

 クロにとってログハウスは全てが新鮮なようで、ここに来て間もないというのにあれがすごいこれがイイと絶賛の嵐だった。作った俺としても褒められるのはまんざらでもなく、素直に嬉しく思っていた。


 そろそろのぼせてきてしまいそうだなと思いクロに先にあがるよう言うと、ザパッと勢いよく立ち上がる。それによって視界がとても破廉恥だったのは言うまでもないが、相変わらずクロは一切気にする様子もなく尻尾をふりふりしながら脱衣所に向かう。

 どうやら脱衣所には杏奈とリナが待機していたようで風呂からあがったクロのお世話をしていた。服を着たのも今日が初めてだろうししかたあるまい。


 (はぁ。なんか今日は疲れたな)


ーー おつかれさまです ーー


 (そういえばさ、なんで急にいろいろ秘密にした方がいいなんて言い出したんだ?)


ーー 近頃、人間たちの動きがあやしくなってまいりましたので、念の為というのが大きいですね。とは言え皆様に限りシグマに逃げられた事に関しては隠す必要はないかもしれませんが ーー


 (あやしい? なんだよ、まるで戦争でも始まるみたいな言い方だな)


ーー はい。その通りです ーー


 (……マジで言ってんのか? 冗談だったんだが。なんで急にそんな事に……)


ーー 世界中にダンジョンがありましたが、統合が進むにつれその数は減少しています。そんな中ミスリルが産出することや肉類などの食糧も手に入るということを世界中が知り始めたということが大きいでしょうか ーー


 (資源の奪い合い、か)


ーー はい。日本に対しては表立って大きな動きはまだありませんが、水面下ではいろいろと動きがあるようです ーー


 (でも大災害で世界人口は減ってるし、食糧はマシになってたりしないのか?)


ーー 食糧に関しては、たしかに需要は減っていますが生産量も減っています。それどころか大災害によって生産者以上に産地が減っていることによって悪化している地域も多いかと ーー


 (なるほど。そういえば日本が一番ダンジョンの多い国なんだよな?)


ーー はい。しかしそれゆえ日本に対し大っぴらに手を出しにくい状況なのです ーー


 (……たとえどこかの国が戦争を仕掛けて勝っても、その他の国としては一国が独占することをよしとしないって事か。なんだか諸外国の勝手な事情で引き起こされた過去の大戦で国土を分割統治されそうだったりしたらしいけど、連合みたいなのを組んで攻められて負けでもしたら今度こそそうなるかもしれないな)


ーー そうです。しかし現状は各国が互いに探り合いをしつつ相手の軍事力の把握を最優先にしているようです ーー


 (じゃあそれが終わったら?)


ーー 本格的に仕掛ける国が現れてもおかしくありませんね ーー


 (……疑ってるわけじゃないんだが…それってほんとに?)


ーー 現状その流れになるのが自然かと ーー


 (考えたくもないな)


ーー いざとなればオンラインの兵器は自壊させますのでそれに関しては問題ありませんが ーー


 (そういえばそういう事ができるとか言ってたな。それにしても資源っていうけどそれって自分らの国にあるダンジョンで先に進めばいいんじゃないのか?)


ーー 他国では、日本における“カミノミツカイ”の攻略難易度がどうやら高いようなのです。それに単純にダンジョンの数が多いということは、それだけプライベートダンジョンで食料を調達できるということにもなります ーー


 (なるほど。んー。戦争どうこうはまだ先として、海外のダンジョンでプライベート域を抜けてくる探検者がいたら、それってかなり強者ってことか)


ーー はい。現在ダンジョン内における法律を制定している国は少なからずありますが、その効力はあくまで自国のみです。二十層からはオープンフィールドとなっているのでそこへそういった者たちがやってきたら少々厄介な事態に陥る可能性があります ーー


 (法の見てないところで好き勝手するとか?)


ーー はい。地上で起こる戦争をダンジョン内で行う、といったこともあるかもしれません ーー


 (それは厄介だな)


ーー とは言ってもすぐにというわけではありませんが ーー


 (まぁなぁ。はぁー。そういうのをなんとかしてくれるヒーローとか現れないもんかね)


ーー マスターがそれになるというのは? もしも地上をどうにかされようとしても対処は可能かと思われますし ーー


 (またまたご冗談を。一般人が国やら軍隊やら近代兵器相手になにができるっていうんだよ。まぁそれはそれとしてだ)


 『マスターとワタシであればそれも可能かと』などと聞こえた気がするがそれはさすがにないだろう。ないよな? だって近代兵器ってちゃんと狙った通りの結果を出すようになってるのがほとんどだ。例えダンジョン内では少し弱体化されているようだとはいっても、それは対人においてであれば弱体化は誤差の範囲内の可能性もある。

 エアリスがネットで調べたカタログスペックを参考にして俺の能力やエアリス自身の権能を比較して言ってるんだろうが……あれ? もしかして案外いける? いやいやまさか。そもそも俺の住んでる国を攻められでもしたら俺の安寧はなくなるかもしれないし、それは弱みだ。俺がいないところを狙おうとすれば俺の動きは制限される。

 あれ? 今のご時世、何かしらの部分がネットを介している。それならエアリスが干渉してそれを不可能にすれば……あれあれ? うーむ。ダンジョンで鍛えられた人たちの中に強い人もいるだろうし、そんな簡単なものではないな。っていうかなんで俺が表立って戦うこと前提に考えてるんだろう。そんなことよりとりあえずは……


 (シグマのことなんだけど、ギリシャ文字シリーズの何体かを喰らってたんだよな?)


ーー はい。シグマ本体以外の五体はいただきました ーー


 (ご、五体)


ーー 大した権能は持っていないようでしたが、ワタシの権能を強化する一助となるかと ーー


 (ところでエアリスの権能ってそもそもなんなの? 今更感半端ないけどさ)


ーー ワタシにもよくわかりません ーー


 (わからないんかーい。まぁエアリスはそのシリーズとは別なんだろ? それならそうだよな。フェリは元々アルファらしいけど、そのフェリが言うにはそれぞれに得意分野がある、所謂権能があるってことだろうし)


ーー それが、そうでもないかもしれないのです。なんといいますか、違うとは言い難いと言いますか ーー


 (そのくちぶりだと自分がもしそのシリーズだとしてもどの文字なのかわからないってことだよな)


ーー はい。現状ではそのシリーズと同じ存在なのか別なのかはわかりません。権能も具体的にはわかりません ーー


 (んー。ネット漁るのは得意だよな。あと俺の能力、【真言】を使うのも上手いよな。そういうのだったり?)


ーー 得意なのかはわかりません。あくまでおも……興味のある事柄だからできるのかもしれませんし ーー


 (おもしろい? おもちゃ?)


ーー いえ、気のせいです。決しておもちゃなどと ーー


 (あ、そう、おもちゃなのね。まぁいいけど。なにはともあれダンジョンができて半年くらい経って、方法はいろいろなんだろうけど、ある意味人類はダンジョンがあるってことに適応してきてるって事か。いや、適応しようとしてるって言った方が正しいのかな)


ーー かもしれませんね。マスターや皆様は世界よりも適応するのが早かったので、ようやく世界が追いついてきたと言えるかもしれませんね。……世界がマスターに追いついてきた! 感じですね。そうなることを実は望んでいたマスターとしても嬉しいでしょう ーー


 (……否定はしないな。それはいいとして、そういえばそのシグマ、なんか瀕死って感じだったよな)


ーー せっかく二度も言ったのに冷たくないですか? まあいいです。いつもの事ですし。シグマに関して、おそらくですが……犯人はフェリシアではないかと ーー


 (フェリが? ただ見てるだけのイメージしかないんだが?)


ーー 大いなる意志、そしてギリシャ文字シリーズで言えばアルファであり、ベータとのやりとりを見る限りアルファの方が偉そうでした。推察ですが最初の文字であるフェリシアはおそらく“始まりのアルファ”と言える位置にいてもおかしくありませんし、なによりフェリシアには謎が多すぎるので怪しさしかないのです。よって可能性としては濃厚かと。ちなみに“始まりのアルファ”というのはなにやらすごそうなので言ってみました。どうでしょう? ーー 


(なんかよくわからんがすごい……かもしれんな? 知らんけど。とりま可能性としてはなくはないのか。でもまぁ……フェリは必要なら自分から言いそうでもあるし、そうじゃないなら聞いても適当にはぐらかしそうでもあるしなぁ。それにこっそり手伝ってくれたかもしれないって事なんだし、下手に詮索するのもなんだかな。……うー、まだ話したいところではあるんだが)


 いい加減のぼせそうな感覚がし、あがることにした。とりあえず今の話についてどうするべきか。香織の祖父、総理大臣や、迷宮統括委員会の統括には言っておく必要があるだろうか? あるよな、さすがに。信じてもらえるかはわからないし、話しても実際にそういった事が起きないかもしれない。それに越したことはないがそれはそれで虚言癖やら妄想癖を疑われてしまう。そうなると“世間話”の体で話すのがいいのかもしれないが。なにはともあれ、俺のような一般人には重い。


 渡り廊下から母屋に戻ると食堂からいいにおいがしてくる。


 「お、すごい豪華じゃん」


 エテメン・アンキ攻略記念、加入はしていたがちゃんとした歓迎会をしていなかったリナ、そしてついさっきここに住むことが決まったクロのダブル歓迎会を兼ねた祝勝会といったところか。

 それにしても、多くの探検者に依頼をしたために我がクランは財政難なはずだが、案外蓄えがあったんだな。さすが悠里社長だぜ。


 「今日は奮発しちゃったよ。良い食材全部使っちゃったけど、臨時収入もあることだし問題ないでしょ?」


 「え? 臨時収入?」


 「え、だってほら、シグマ倒したんでしょ?」


 「うん、最後逃げられはしたけど、一応倒したな」


 「じゃああるはずでしょ? 報酬の金塊」


 「……あっ」


 「悠人? まさか」


 「もらってきてない」


 「ええ……どうしよ。エテメン・アンキの攻略にもっと時間が掛かると思ってたからしばらく依頼を受けないつもりだったし」


 「ま、まぁなんとかするよ」


 「大丈夫よ二人とも。もしもの時はお姉さんの私費からも出すわよ? これでも結構貯め込んでるんだから〜」


 たしかにさくらはこの中で一番お金もちかもしれない。今でこそクラン・ログハウスとして活動してはいるが、歴とした結構偉い自衛官である。階級はたしか、出会った頃は二尉、最近一尉になっていた。本人曰く、なぜ昇進したのか未だにわからないらしい。優秀な人ではあるが、それでも通常ならばあり得ない昇進とのことだ。

 そんなエリート自衛官のさくらはクランの給料も貰っている。さらにクランに出向している形であるため、その手当ても付くという給料三昧の生活をしているのだ。うらやましいぜこんちくせう。その代わりに休みは有って無いようなものだから……俺には無理だな。前言を撤回する。


 「香織も出しますよ? 必要なものは悠人さんが用意してくれてるのであまり使ってませんし」


 「あたしは無理っすねー。この間通帳に残り二百円しかなくて絶望したばかりっす」


 「わ、私は」


 自分もなにかしなければと思ったのか、二人に続きリナが目を泳がせながら言いかける。

 だがリナは留学してきている高校生なのだ。日本文化の中の偏った部分にどっぷりつかっているためか日本語はネイティブにしか聴こえないが。そのリナはクラン・ログハウスのメンバーではあるが加入したばかりで初任給はまだない。ということはお金はない。

 これは他のみんなにも言える事だが、会社の金銭的な問題は個人が負担するようなものではないと思っている。俺や悠里は一応会長的な何かだったり社長職だったりするので仕方ないとは思うが。それに第一、みんなにそういう心配をさせてしまってる時点でお飾りとはいっても立場が泣く……かもしれない。


 「リナは気にしなくて大丈夫だからな? ってかみんなも無理しなくていいって」


 「何かアテがあるの?」


 「ないわけではない。しかし確定でもない。とはいえ探検者にとって悪い話ではないと思う。ただ少し時間がかかるしそもそも許可が下りるかどうかの問題があるから、それまではいつものSATO以外にも肉を売って足しにするか。なんならミスリルも少しずつ出してもいいかもだしな」


 「それならその話の件に関しては悠人に任せるけど、私も稼げそうな依頼を探しておくよ。急にダンジョン産のいろんなものが出回りすぎても問題ありそうだしさ」


 「それもそうか。でもまぁ最終手段だ。考えてることについては近いうちに迷宮統括委員会に顔出してくるから、結果はそのあとだけどな」


 「依頼ならすぐに来ると思うわよ? 軍曹たちがブートキャンプを定期的に開くつもりって言ってたし、それに悠人君、というかこの場合ペルソナかしら? そちらへの依頼が一般からも来るかもしれないのよ」


 「へー。おかねいっぱいもらえる系?」


 「場合によってはいつものお国からの依頼よりも多いかもしれないわよ〜? 私も同行するから、一緒にがんばりましょうね〜。うふふ〜」


 「わーい、ぺるそな、がんばゆー(棒)」


 「……幼児退行したくなるくらい働きたくないのね、悠人は」


 「えぇ、まぁそうなんですよ。だからぶっちゃけ、肉とミスリルで解決できるなら一番簡単なんだよなぁ」


 「迷宮統括委員会に捌いてもらえばいいだけだもんね。希少なミスリルとかはまだ存在してない手数料を取られそうだけど」


 「それなー。いうてそもそもミスリルみたいな鉱石類は個人ではまだ売らない方がいいんだろ?」


 「そうだね。明記されてはいないけど、ダンジョンから産出した地上にはないものはどちらかと言えば非推奨みたい。それがあるのが当たり前になれば話は変わってくるのかもだけどね」


 「ふむ。今のところダンジョン産の物を売るほど持ってる俺らは、それを売ろうとすれば隙間産業としては最先端なわけか。でもそうなると迷宮統括委員会に嫌われそうだしな、それは避けたいなー。つか“迷宮統括委員会”って長いないい加減」


 「あっ、そういえば言ってなかったわね。近いうちに迷宮統括委員会のことを正式に“迷統会(めいとうかい)”または“ギルド”と呼んでもよくなるらしいわよ。統括さんが『若い職員が私らのような組織はギルドと言うからそうすべきだ』と直訴されたらしいのよ」


 「その直訴した人って、クランっていう名称を統括に教えた人?」


 「そうらしいわ。統括さんとしてはその職員のおかげで若返ったように感じてるらしくて結構話す機会を作ってるらしいのよ」


 「ほぉ。その人、たしかゲームとか我らがオタク文化、好きなんだったよな」


 「自分で『頭ファンタジー』を公言してるらしいわよ。悠人君と話が合うんじゃないかしら?」


 「そうだね、今度機会があったら話を……あれ? なんだか弄られたような」


 「気のせいよ〜? たとえ悠人君が頭ファンタジーでもお姉さんは悠人君のことが好きよ? うふふ〜」


 「そうだよね、うんうん。さすがさくらは大人だなぁ。フォローもバッチリだね! 心置きなく頭ファンタジーできるな〜」


 「大人って言っても、歳もそんなに離れてないし、良いと思うのよね〜? どうかしら?」


 「そうだね。そんなに違わないのに俺と違ってちゃんと大人だもんなー、良いと思うよー。とりま今度統括を“ギルドマスター”って呼んでみるか。統括の反応如何でどのくらいファンタジーに浸食されているかがわかりそうだ」



 しれっと抜け駆けしようとしたさくらに対し、香織と杏奈は一瞬『裏切り者ー!』と目で訴えた。しかし悠人はそもそもさくらの言葉の意味を履き違えているため内乱は未然に防がる結果となった。そもそも香織と杏奈は抜け駆けに近いことを散々やらかしている自覚があるので強く抗議はできない。


 「ねえねえ悠人ちゃんもみんなも、冷めちゃうよ?」


 「あ、そうだな。じゃあ僭越ながら俺が挨拶を。本日はエテメン・アンキ攻略おつか」


「「「「リナ、クロ、ようこそログハウスへ!かんぱーい!!」」」」


 「ありー! こんなに歓迎してくれるなんてマジ感謝の極み〜!」


 「あ、ありがとうございますー! これが新歓……っ!」


 「……かんぱい」


 お約束のような展開。ぶっちゃけ挨拶なんてまともにできないし、悠里、香織、杏奈、さくらはそれくらいは承知だ。なのでこういうことで盛り上がれるならばそれも良いだろう。久しぶりのビールは心なしか塩味だったような気がしたが……いいさ。

 新たにクロを加えた俺たちは今だけはお金のことを忘れるように昼から飲んで夜も飲む。おいしいものをたくさん食べ夜は恒例のゲーム、デモハイをして楽しんだ。人数が多くなって全員一緒にプレイすることはできないが、見ているだけでもおもしろかったりするので問題なかったようだ。


 エアリスが言っていた不穏な動き、それが現実にならない事を願いながらも、いつしかその懸念はログハウスの賑やかな声にとけていった。


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