第73話 お出かけ禁止令



九月二十一日


 23層拠点への襲撃を防衛し、なぜかログハウスにまで襲撃された次の日は勝手に休日ということにしてのんびりと過ごすことにした。昨晩もデモハイをして香織が逃亡者を追いかけている様子とエアリスの断末魔を聴きながら眠り、今朝は香織が起こしてくれた。

 朝食後、リビングに全員集まっているので24層に行けるようになっていたことを話すと、さくらは様子が気になるらしく行きたそうにしていた。


 「24層はどうするのかしら?」


 「気にはなるけど、今日はおやすみしたいなー。というかエッセンス使いすぎたからちょっと補給したい」


 「そうねぇ。昨日は最後に杏奈に出し切っちゃった感じだものね?」


 「だから言い方が」


 さくらのアレな言い方はいつものことだが、今は俺だけではないのだから気をつけて欲しい。ほら、香織ちゃんが過剰に反応してるじゃないか。


 「だ、出し切ったって、そ、そういうアレですか!?」


 「やっぱり誤解を招く」


 「誤解ならいいんです!」


 すぐにわかってくれた香織ちゃんに感謝しつつ一応補足しておく。が、言わなくても良い事だったかもしれない。


 「エッセンス的な意味でね」


 さくらが「悠人君のエッセンス……うふふ〜」とこちらを見ている。


 「わかって言ってるよね?」


 「どうかしら〜?」


 「まったくもうからかうの好きだねぇ、さくらおねーさんは」


 やれやれとわざとらしくジェスチャーする俺を見て、さくらも楽しそうだ。


 「それで、どこ行くの?」と悠里に聞かれ「19層かなー。うちのダンジョンだけど、悠里も行ってみる?」と一応誘ってみる。まぁ会話の流れというやつで実際に行くとは思っていなかったのだが。


 「行こうかな」

 「香織も!」


 珍しく乗り気なようだし三人で行く事になった。


 ということで悠里と香織を連れ御影ダンジョンへ。転移の珠は使い捨てだが数には余裕があるので二人に使ってもらい、さらに19層の出口、20層手前に転移してそこから狩って行く。


 「へ〜、ここが御影ダンジョンなんだね」


 興味深そうに見回す悠里に「雑貨屋とは違う感じ?」と聞いてみると少し考えてから「あっちの方が広いかな。それにモンスターも多いかも」という答えが返ってきた。


 「ほー。そういえば“大いなる意志”が言ってたな。人数が多くなったりダンジョン内で人間が死ぬと難易度上がるって」


 「私たちは三人で行ってるからかもしれないね」


 なるほど、と思いながらも少し違うような気がした。今は三人でいるのにいつもと変わらないように感じるし、ガイアと来た時だっていつも通りだった。

 そして香織が「もしかして」と続けた事が正解かなと思った。


 「最初に入った人数とか入り口から入った人数、でしょうか?」


 「あ〜、盲点」


 「なるほどね〜」


 悠里は掌にもう片方の手を小槌に見立てポンっと打つ。香織の説がなんだかしっくり来るな。となると、だ。


 「それでその後、人が死ぬとそれをダンジョンが吸収する?」


 「その死んだ人の成れの果てがあの黒いドロドロした人型でしょうか?」


 「なるほどなるほど。香織ちゃんの言う通りな気がしてきた」


 またもや香織の言う通りな気がして、それは悠里も同じだったようだ。


 「じゃああの黒いのは、ダンジョンに囚われてるとか?」


 「ふむふむ。そうなると、ダンジョンに縛りつける意味は……?」


 「百人は生きたまま閉じ込めて、死者は死んだまま閉じ込められてる……どういう意図があるんでしょう」


 「そんな感じっぽいけど、その意味とか理由がわかんないんだよね」


「「「う〜ん」」」


 話をしながらでもここのモンスターは問題なく倒せるのでエッセンス的にも肉的にも稼ぎやすい。しばらく熊や牛を倒し進んでいくと、シルバーウルフの群れを発見した。


 「シルバーウルフか」


 とは言っても今のチビと比べると貧弱で気もゴワついているように見える。野生の狼はそんなもんか。まぁニホンオオカミは絶滅してるけど。


 「チビと同じモンスターですよね」と、香織が少し疑わしげにシルバーウルフを見て言う。見た目が今のチビとは結構違うように見えるしな。どちらかと言えばチビはログハウスのお犬様だし。とはいえ同じと思うとなんだかちょっと……


 「でも悠人、チビはメテオウルフになってるんでしょ? もう違うんじゃない?」


 確かにそうなんだがと迷っていると、シルバーウルフの群れはこちらに駆けて来る。だがそれはチビが遊んで〜とやってくるのとは違い、狩るための動きだ。


 「それでもちょっと気が引けるけど……ごめんなさい! 悠人さん! えいっ!」


 「ごめん悠人! 【アイスランス】」


 どうして二人とも、俺に謝るだろう。二人には俺があいつらと同じに見えているとか? なんてな。チビのご主人なわけだし、それでだろう。


 「ってか悠里、【アイスランス】なんてあったっけ?」


 「あったら便利だろうなって思ってね」


 「イメージさえ固められればなんでもできそうだな。不思議パワーで」


 「香織はどうです?」


 「う、うん、とても上手なハンマー捌きだと思います」


 香織がハンマーを振るうと、その都度スカートが捲(めく)れ上がりチラチラと見えるのだ。ニーハイとミニスカートのコンボによって、その特殊な領域がより引き立ち、その先への期待感を高める。それがこんなにすごいということを俺は今ひしひしと感じている。うむ、今日は縞ピンクなんだね。良きかな。


 「香織、どうしてミニなの? 悠人に丸見えだよ?」


 「きゃっ! 悠人さんのえっちー!」


 「前までなら恥ずかしがってたのに……香織、強くなったのね」


 悠里に対し『オカンか』とツッコミたくなったが言わないでおいた。だってそう言うと悠里怒るし。


 「前はスカートの下にショートパンツみたいなの履いてたような」と言うと、悠里は「しっかり見てるんだね、悠人」と言ってくる。念のため「見ようとしてるわけじゃない」とだけは言っておく。

 だってなぁ、見てるっていうか、見えるんだよ。うんうん、決してやましい気持ちなんてこれっぽっちしかない。

 悠里に丸見えと言われてから、香織はちょっと恥ずかしそうに捲れるタイミングで片方の手でスカートを軽く抑えるようにし出す。あぁ、そういうのもいいよね! などとは言わないでおこう。実はめっちゃ見てることがバレる。


ーー 香織様の視線を見るに、もうバレてますよ。むしろ計算ずくでしょう ーー


 (え!? マジで? 全然わかんなかった)


ーー こうやって男は女にいいように手玉に取られて行くわけですね ーー


 (ぐぬぬ)


 しばらく真面目に狩りをして進んでいく。香織は全く能力を使っているような素振りは見せない。悠里はアイスランスが低燃費で使い勝手がいいらしく、基本的にそれを使い要所でシールドを張ってサポートしている。俺は能力を使わず、指輪の効果も発動を切っているので銀刀一本だ。


 「そういえば、統合されたばかりのときに見回ったじゃん?」


 「うん。それがどうかした?」


 「そん時にね、15層がちょっと特殊になってたんだよ」


 「どんな風に?」


 「普通のモンスターの気配が全くしなくて、カミノミツカイっぽい反応が複数あった」


 悠里に話すと、聞いているような素振りをまったく見せないままハンマーを振り回している香織が振り回したまま「いきましょう! エッセンス大量ゲットな気がします!」と言った。


 「そうだね。溜まってたのを杏奈に出し切って空っぽになっちゃった悠人にはそのくらいないと足りないかもね」


 そんな事を言いながらクスクスと笑う悠里。日本にいる他の探検者たちもこんな感じで余裕の狩りをしているのだろうか。でもそれなら20層に普通の人たちが押し寄せてもおかしくないよな、と思っていた。

 それにしても……


 「悠里の言い方……さくらの影響力つよすぎぃ……。まぁ危なかったら即撤退で」


 と言う事でのんびりと狩りつつ戻るように進む。

 15層に着くと同時にエアリスが全力で索敵を展開し、すぐそこの広くなっている場所に反応が五体。カミノミツカイ五体って大丈夫なんだろうか。


 「あのときより増えてる気がする。それにすぐそこに五体まとまってるし」


 「悠里がシールドを維持し続ける限り問題ないですね」


 「なるべく早くおねがいね」


 その場所に着くと、牛、鹿、熊、猪、そして初めて見る一角兎がいた。兎は21層のものとは違い立派な鋭い一本角がある。その全てが白い体で薄らと光を発しているように見える事からも間違いなくカミノミツカイだ。しかし相手もすでにこちらを視認しているだろうに、全く動く気配がない。


 「もしかして意思疎通できるタイプ?」


ーー そうではないようです。敵意も感じます ーー


 「じゃあとりあえず突っ込んでみようかな」


ーー あっ、マスターお待ちくだ ーー


 エアリスの言葉を聞き終わる前に一歩踏み出すと、兎から初めて感じる波動が迸る。その波動は部屋の壁に張り付き、俺たちの後方の通路との間に空間が歪んだような膜を作り出した。

 俺のゲーム脳が言っている。これ隔離結界的なアレだと。


 「あれ? もしかして閉じ込められた?」


ーー はい。一種の結界かと ーー


 「結界か。解除はできる?」


ーー 兎を調べればできると思いますが、それでも多少時間はかかります ーー


 二人とその情報を共有すると、それが何と言ったご様子。


 「なるほどね。退けなくなったわけね。でもやることは変わんないかな」


 「退くつもりはないです! 悠人さんの大事なエッセンス〜!」


 ハンマーを叩きつけるように集団の真ん中へ突っ込んでいった香織。それにより五体のカミノミツカイは香織の攻撃を受けまいと周囲にばらける。

 そのカミノミツカイたちは香織を狙い同時に突進するも、悠里のマジックミラーシールドに阻まれて金属がぶつかり合うような激しい音を鳴らしている。


 このシールドは外からの攻撃は防ぐが、中からは殴り放題であり、それが最大の長所だ。香織はそれを十二分に理解しているので攻撃の手を止めることはない。鹿の角をへし折り、牛の角も砕く。


 俺は一瞬だけ【換装】し、エリュシオンにエッセンスをちょっとだけ込めて大上段から斬りつけ猪の首を落とし、返しの斬り上げを熊に当て再び【換装】した。しかし熊に当てた二ノ太刀は浅かったようで、ラフスタイルになった俺の腕に鋭い爪が食い込み切り裂かれた。これは結構……どころかかなり痛い。血がぼたぼたと滴り落ちる。そこへ追撃とばかりに、兎が鋭い角を向けて突進して来たが、悠里のシールド範囲内へ転移し回避した。


 香織はそのまま鹿と牛を倒し、その勢いのまま俺が熊につけた傷を叩くと熊は少し後ずさった。兎は悠里の【アイスランス】により地面から生えた氷柱でいつの間にか首を串刺しにされていた。

 残るは熊のみ。香織のハンマーによる打撃でヨロヨロと後退した熊の斬り傷に、俺は銀刀を突き立てそのまま斬り上げトドメとした。


 「うわぁ……痛いなぁこれ……油断したなぁ」


ーー 申し訳ありません! 分析に夢中で間に合いませんでした! ーー


 「いや、節約に全部切ってたの俺だし。それにエアリスが使う場合は言葉にしなくても大丈夫なものもあるけど、俺の場合は言葉にしないとだめだからなぁ。普段からエアリスに頼り切りだったツケだな」


 戦闘が終わった事でこちらに駆け寄り「ひどい怪我っ!」と香織が言った。


 「痛そうだね……パックリいってるね……【リジェネレート】」


 りじぇねれーと? 【アイスランス】続きまた新魔法か?

 暖かな光に包まれた傷口はまるで逆再生するかのように塞がっていく。


 「……あれ? 傷……治った!」


ーー 改竄すべきかと思いましたが、悠里様の魔法のおかげで節約できましたね ーー


 「ありがと悠里。改竄すると結構消費するから助かる〜」


 「そのくらいの傷なら私のでも問題ないから、節約できたならよかったよ」


 「そのくらいならって、もし腕が取れてたら?」


 「それは無理だと思う。傷が塞がるけど生えてはこないみたい」


 その物言いに「どうしてそんなことを知ってるんだ?」と聞いてしまうのは仕方ない事だろう。


 「この間の実地試験の時に杏奈の指が取れちゃったことがあってね」


 「……杏奈ちゃん、いろいろ取れすぎじゃね」


 カミノミツカイのエッセンスとドロップを回収してログハウスに戻る頃にはすでに昼を回っていた。


 「お兄さん、のんびり過ごす〜みたいなこと言って、結局のんびりしてなくないっすか?」


 杏奈にそんな事を言われ、しかし24層の様子も見に行きたいし、と言うと心配そうにこちらを見る杏奈から「ちゃんと休まないとだめっすよ〜?」と言われてしまう。


 たしかに全然のんびりしていないような……でものんびり狩っていたわけだしのんびりでもあるような……? それに忙しい時以外は基本だらだらと過ごしてると思うし。

 そんな事を思っていると香織が言う。


 「悠人さんはすぐどこかに行ってしまうので、強制的にのんびりさせるというのは……?」


 耳を疑った。続く香織の言葉に更に耳を疑った。


 「悠人さんをベッドに縛り付けてぇ〜、食事もお風呂もぉ〜、か、香織がぁ〜……してあげますよ〜? もちろん着替えも……」


 「それ、おもしろそうっすね〜。あたしも是非参加したいです!」


 「うふふ、私もしてみたいわね〜」


 「ちょっと楽しそうだね。悠人の意外な一面が見れそう」


 「ちょ、ちょっとみなさん? 落ち着いて考えましょうか。まずは俺の人権について」


 くねくねしながらとんでもない提案をする香織。その後縛られることは回避したが、とりあえず今日これからと明日は“お出かけ禁止令”が発令された。食事は俺の前に皿はなく、スプーンやフォーク、箸が俺に向けられる。餌付けされている鳥はこういう気分だろうか。否、あれとは違うな。というかぶっちゃけ、自分で食べた方がはやいし楽だ。


 そして風呂には代わる代わる「背中流すわね〜? うふふ〜」「髪洗いますね〜?」「お隣失礼しま〜す」がやってくる。そしてそれは、うん、と言うまで絶対に許されなかった。さすがに背中の皮がちょっと剥けたのだが、悠里がリジェネレートで治してくれたのでまぁいいかな。そんなことよりも俺の理性は過去最大級に仕事をしたと思う。つまり、全然休まらない。

 それと着替えは【転移】して【換装】した。


 ベッドに入ると香織とさくらが両サイドから腕に抱きついて足を絡めてサンドしてくる。なにやら部屋の外から声が聴こえてきて「なんであたしはダメなんすか〜!」などと聴こえ「どこまでもいきそうだからダメ!」と言われているようだった。


 「悠人君、どう? ハーレム?」


 「こ、これがハーレムというやつなのか……」


 「どうです? 満足ですか?」


 「う、う〜ん。そ、そうだね」


 (余計疲れる、なんて言えない)


ーー ご主人様はお優しいですから……ではその悶々としたモノをワタシが発散させて ーー


 (今日はもう寝かせてください)


ーー ご心配なく! 寝ている間に終わりますから! ーー


 翌日目を覚ますと二人は両サイドでそのまま眠っていた。そうなると当然俺もそのままだったわけで、寝返りを打たずに眠った時特有の気怠さが残っていた。

 なかなか目を覚さないので「二人とも起きて〜」と声をかけると「う〜ん」と言いながらもぞもぞと余計すり寄ってくる。う〜ん、良い匂〜い……じゃなくて、体が痛いのでなんとか起きてもらう。


 「ん〜〜! 悠人君のベッド、大きくて最高ね!」


 「う〜ん、さいこぉ」


 「香織ちゃんが寝ぼけて起きてくれない」


 「チューでもすれば起きるんじゃないかしら?」


 「え?!」


 「あら、本気にしちゃったかしら? お姉さんと練習する?」


 一度ベッドから出ていたさくらが、下方から女豹のポーズでにじり寄ってくる。うっ……なんと煽情的な……! じゃなくて!


 「香織ちゃん起きてー! 貞操の危機だよ!」


 「はっ! ……悠人さんになら……むにゃむにゃ」


 「よしエアリス、ステータス調整だ! STRとDEXを高めに!」


 しがみつく香織をそのまましがみつかせたままリビングへ行くと、悠里と杏奈はすでに起きていた。俺の様子を見た悠里と杏奈がおもしろいものでも見たように笑っていたが、無視して香織を剥がしてソファーに寝かせた。


 「うーん。それにしてもなかなか起きないな」


 「そうだね。こうして寝顔を改めて見ると、香織ってかわいいよね」


 「うん。それは間違いない」


 悠里が香織を撫でると、う〜ん、と言い、俺が撫でてみるとうぅ〜んと言いながら撫でる手に自分の手を重ねスリスリ、杏奈が撫でようとしたところバチィンと払っていた。さくらはその様子を「うふふ〜」と眺めていた。


 しばらくして漸く目覚めた香織は状況が掴めていないようだったので経緯を話して談笑していると、赤べこよろしく真っ赤な顔でコクコクと頷くだけになってしまった。


 お出かけ禁止令はそれでも続いている。今日は悠里が買って来てくれていたゲームをプレゼントされたのでそれをすることにした。実地試験で全国行脚をしている間に買っておいたらしいのだが、渡すタイミングがなかったらしい。袋を開けると、見たことがある雰囲気のパッケージだった。


 「こ、これは、みんなでできる“配管工カート”では!?」


 「そうそう、それの新作だってさ」


 「おぉ〜……買おうかどうしようか悩んでたんだよね〜。ありがとう!」


 「そっかそっか! よかった!」


 「悠里さん、嬉しそうっすね? 普段からそうやって素直にしれてばかわいぶへらっ!」


 茶々を入れた杏奈が悪い。なので後頭部をズバシッとやられても仕方ないのだ。慈悲はないのだ。


 というわけで朝食後、最大八人プレイが可能な配管工カートをみんなでやることにした。

 国民的レースゲームだが、それほどリアルさを追求したゲームではなく、なんとなくこうじゃね? を集約したゲームだ。レース中は様々なアイテムを使用でき、そのアイテム如何によっては結果を左右することもままある。複数のコースを三周ずつ、最終的にそれまでの順位による獲得ポイントの多かった人が優勝となる。


 香織は今日も俺の部屋で交代で、エアリスはどうやってかは知らないがすでにハッキング済みなので参加している。残り三枠はオンラインで他のプレイヤーが来れば一緒に遊べ、来なければNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が参加する。


 3カウントの後、レースがスタートする。路面はダートコースやアスファルトコース、氷の上を走る氷上コースなどもあり、それによってカートの取り回しを変える必要が出てくる。


 それを数回繰り返し、優勝はエアリス。いろいろとズルをしているのではないかという疑惑がないわけではないが、エアリス自身はそれを否定していた。俺としても楽しむことを覚えたエアリスがそんなつまらないことはしないだろうと思っているので実力なのだろう。まぁ生身でゲームパッドを操作してこその実力と言ってしまえばそうかもしれないが。


 昼食はいつも通り悠里が作ってくれた。品数がいつもより多いのは杏奈と香織も手伝ったからだ。さくらは紅茶を淹れてくれて俺とソファーでのんびり、キッチンが空いてからチビの肉を焼いてくれた。


 「至れり尽くせりだなぁ。過剰な気がするけど」


 「悠人はご不満なわけ? たまにはハーレムもいいんじゃない?」


 「う〜ん、ほどほどなら……。そもそも普段からハーレムみたいに見えるらしいし」


 「あらあら、誰かに言われたのかしら?」


 「ガイア少年からね」


 「あらあら。うふふ〜」


 昼食後、24層を見ようと「散歩にいってきま〜す」と控えめに声をかけて外に出ようとした俺はドアを開けたところで中に引き戻された。


 「今日はお休みですよ!」


 「さ、散歩だよ? そもそもダンジョンに休みも何もないと思うんだけど」


 「発想がブラックね〜。悠人君、このままじゃダンジョンホリックになるわよ?」


 「ここに入り浸ってる時点ですでに、ね?」


 「悠人、今日は諦めて接待されときなって」


ーー 諦めましょう。それにみなさんはご主人様を気遣っての行動かと ーー


 (うーん。そういうことなら……)


 24層は気になるが、今日のところはおとなしくしておこう。実際、だらだらしたいなぁと思っていても最近気になることが多すぎたりほぼ強制的に場違いな会議で護衛したりしてたからな。でも夜は普通に、そんなに長い時間ではないが充分寝てはいるし。むしろみんなの方が忙しそう。


 「お兄さんを休ませるのは口実で、実はみんな休みたいだけだってことにしときましょうよ〜」


 そう言われたら仕方ないなとも思ったが、杏奈の場合本音に思えるな。まぁそれでもログハウスは夢の秘密基地みたいなものだし、だらだらでも好きな事でも、したいようにすればいいのだ。つまりそれがのんびりするという事でもある。


 そして今日も今日とて軟禁されたわけだが、昨日と違い普通にのんびりした休日って感じで楽しかった。誰かが常に隣にいたりするのは、ちょっとプレイボーイにでもなったような気分を味わえたしな。こんなにモテ男気分を味わったのは人生で初めてだ。四人には感謝しよう。


 近頃基本的に小型化を器用に使い、超小型犬サイズを気に入ったチビは誰かに抱っこされているか、時々おしりをふりふりしながら歩き回ったりして楽しそうだった。不思議なのは、小型化しているのに食べる量は変わらないこと。食べたものも小型化されるのだろうか? 謎だ。


 そしてデモハイと配管工カートをほどほどの時間まで遊ぶ。今日は香織が自分の部屋に戻っていったが、チビは小型化を解除して俺のベッドに乗ってきた。


 「今日は香織ちゃんのとこに行かなくてもいいのか〜?」


 「くぅ〜ん」


ーー どうやらチビも皆様がご主人様のお世話を焼いている事を真似ようとしているようですね ーー


 「じゃあ今日は久しぶりにチビを抱き枕にして寝るかな〜」


 尻尾を数回振ったのを感じ、おっけーっぽいのでそのままもふりながら寝た。



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