第31話 支配者権限 No. 15


 『コンゴトモ、ヨロシク』


 頭に直接響く声、一種のテレパシーのようなもので馬は言った。そういえば昔、主神転生とかいうゲームで味方ユニット同士を合体させたときに、人語が苦手な神獣、聖獣、魔獣、妖獣といった種族はそんな口上を述べて仲間に加わったっけ。

 それはいいとして、状況の確認が最優先。


 「一体どういう流れなんです? これ」


 「不憫に思えてしまって慰めてたら付いてくるって言い出したのよね〜」


 「そういうのってアリなのか‥‥」


 特別そうに見えるのに、そんなわけのわからない感じでついてきてもいいのだろうか。仮にもカミノミツカイっていう仰々しい名前、というか種族名みたいなのがあるのに。


 『不満か? いや、そんなはずはなかろう? だってワシ、神の馬じゃし。レアじゃよレア』


 「神の馬って言うけどさ、実際本物か?」


 『いやぁ〜、それが……思い出そうとしてみても神の馬っぽいことをしていたという記憶だけじゃな』


 「記憶?」


 『うむ。下等な人族には理解が及ばなくとも無理はない』


 「そうかそうか。たしかによくわからん。どうでもいいけど、まぁよろしくな」


 下等と言われたのは少しイラッとしたが、まぁ仕方ないだろう。相手は神の馬らしいしな。

 馬を撫でようと一歩近付くと、馬は一歩下がる。また近付くとまた下がる。


 「なんだ? 下等な人間から逃げているように見えるぞ?」


 『そ、そうではないのだ。しかし身体が勝手に……お主からは姫と違って圧を感じるのじゃが……。それとそこな娘、お主からもじゃ』


 そこな娘と言われたのは悠里。試しに悠里も近付いてみると馬は一歩下がった。


 (エアリス、どういうことかわかる?)


ーー ……仮説ならば。悠里様の腕輪に触れていただけませんか? ーー


 (わかった)


 「悠里、ちょっと腕輪カモン」


 「え? なによいきなり」


 「いいからいいから。それと参考に香織ちゃんもお願い」


 「はい、よろこんで////」



佐藤悠里(サトウユウリ)


STR 30

DEX 55

AGI 70

INT 131

MND 70

VIT 50

LUC 30


能力:魔法少女 (ユニーク)

行使可能

マジックミラーシールド

メガパワーレイズ

アイシクルフィールド

リジェネレート



権限

支配者 No. 10 No. 15



 「おっ、INT上がってる。魔法もなんだか強化されてるようなのがあるな。他は……これが原因か?」


ーー はい。権限・支配者No. 10もしくはNo. 15、或いは双方が影響している可能性が最も高いかと。香織様にはそれがないところを見ると虹星石を取得したのは悠里様で間違いありません ーー


 (この間見たときはなかったよな)


ーー それを抽出、反映されるまで数日掛かった、もしくは他に条件があるかと。ステータスの反映に時間が掛かるのと同じかと思われます。マスターの場合はワタシがいるので即反映可能です ーー


 (へー、そうなの)


 「何かおかしいところあった?」


 「あぁ。実は俺にも追加されてたものと同じのがあるんだ。悠里、これみんなに見せても良い?」


 「ん〜、まぁいいけど」


 スマホの画面をみんなで囲むようにして覗くと、それを見た他のメンバーがある一点に反応する。


 「魔法少女……」

 「魔法少女…?」

 「魔法……少女(笑)」


 店長、軍曹、そして知っているはずの香織も同じように口にすると目元が意地悪そうになっていた。

 冷気が辺りを包み、地面がパキパキと音を立てる。


 「はいはい、寒いから。あとみんなそこじゃなくて、こっちを見て」


 「権限? 支配者? なにこれ?」


 「たぶん10層の支配者と15層のカミノミツカイを倒したのが悠里と判断されて支配者権限を手に入れてたんだとおもう。倒したときどんな感じだった? 例えば悠里しか吸収できなかったとか」


 「吸収できなかったっていうか、エッセンスは勝手に吸い込まれてきたよ」


 エッセンスの方が悠里を選んだみたいな感じだろうか。


 「それで香織と杏奈は、悠里に虹石……虹星石? を渡したんです。悠里がMVPだよねって二人で話して」


 「なーるほど。虹星石はともかく、エッセンスが勝手にっていうのはもしかしたら、ルート権みたいなのが発生したんだと思う」


 「ルート権? ゲーム用語ですか?」


 「そうそう。知らない人同士で同じところで狩りをするゲームによくあったんだけど、一番貢献した人とか最初に攻撃した人とか、逆にとどめを刺した人にアイテム取得の権利が発生するっていうやつなんだ」


 「そういうのもあるんですね〜。さすが悠人さん物知りです!」


 「ただのゲーム知識だよ。ここは現実なわけだし……でもゲームっぽさというかそういうのやっぱり多いよね」


 「ゲームだけじゃなく、ラノベとか漫画みたいな感じもあるね」


 「だなー。普通に考えてさ、自分より大きい獣を殴りたおせたり、銃弾も通さないような相手を刀で一刀両断できたり、いろいろおかしいよな常識的に考えて」


 そもそも刀を作れるのがおかしいとみんなが口々に言っていたが、それは無視する。俺には俺のスタンダードがあるのだ。とは言え銃刀法にひっかかりそうで怖いし目の前にいる店長と軍曹は自衛官だ。普通に考えてそんな武器を持っている俺を自由にさせている方がおかしいかもしれない。

 俺の言ったことを考えるようなそぶりを見せていた悠里が言った言葉は、まさしく俺が考えていたことだった。


 「私たちにとってのゲームや物語に近付いてる……?」


 「それか向こうから近付いてきてるのか、こっちが近付いてるのかはわかんないけど。どっちにしても、ダンジョンがなんなのかっていうことが最大の謎でそこに答えが全部ありそうだなって」


 『なんじゃ? お主らそんなことも知らんのか? いいか、ダンジョンというのはだなーーー』


 そこまで言うと馬は突然、嘶(いなな)き苦しみだした。横倒れになりしばらく踠いていたが、不意に収まり何事もなかったように立ち上がり言う。


 『すまない姫。ワシはしばらく休まなければならないようじゃ。ついては姫の腕輪の中で眠らせてもらえないだろうか? もちろんタダとは言わぬ。ワシのエッセンスは好きに使ってもらってかまわない。放っておけば勝手に回復するしの。それといざとなればいつでも馳せ参じるから呼び出してくれればよい。寝起きかもしれぬ故、寝ぼけていても許しておくれ』


 好き勝手言い放ち、店長の腕輪に馬が吸い込まれていく。腕輪にエッセンスを吸収したことによって店長はその名前を知ることになる。


 「あっ、やっぱりカミノミツカイだったようですね。それと……なんだか変な感じがするんですけど、悠人君、ちょっと見てもらえません?」


 差し出された手、というか腕輪に触れるとエアリスが即座に診断する。



西野さくら(ニシノサクラ)


STR 32(+5)

DEX 87(+5)

AGI 49(+5)

INT 92(+5)

MND 140(+5)

VIT 53(+5)

LUC 12(+5)


能力:万物形成 (ユニーク)

【形成リスト】

リニアスナイパーライフル

リニアスナイパーマガジン


特異能力:古馬の加護


権限

支配者 No. 15



 「全ステ+5はこの加護の能力なのかな。あと支配者権限が追加されてますね。悠里は発現に時間がかかったみたいですけど、店長のはすぐですね」


 「あら、ほんとうね〜。ありがと悠人君」


 「それはそうと何か気になることを言いかけてましたね」


 「ダンジョンとは……って言ってたからダンジョンについて何か知っていたりして。悠人はどう思う?」


 「かもね。突然苦しみだしたのは、言っちゃいけないことを言おうとしたからお仕置きされた感じかな。まぁ呼べば来るみたいですし、いざというときの盾にでもなってもらいましょう」


 体は普通の馬と比べても二回り以上でかいし良い肉壁になってくれることだろう。


 「つくづく不憫な馬ね……」


 せっかくシートを広げていたし、さくらは馬と話していて休んでいない。内部に入る前に少し休ませようと思いもう少し休んでから行こうと提案すると、それは受け入れられた。


 一同は何事もなかったかのようにシートに座りなおし、ダンジョン内部へと続く洞穴の前でお茶することにした。悠里や店長は香織のステータスに興味があるらしく、どんなものか聞き出そうとしていた。しかし香織は「恥ずかしいです////」などと言い店長の圧すらもひらりと躱している。それもそうだろう。俺は知っているが香織以外には見せていない。見せるかどうかは香織の自由だからだ。


 (カミノミツカイにお仕置きする存在かー。それって神ってことになるのか?)


ーー 可能性は否定できません。しかし神というのは実在しないからこそ神なのだ、と書かれている書物を読んだことがあります ーー


 (それって俺は見たこともないけど人間が書いたんだろ? どうもこのダンジョンって、誰かが作ったように思えてくるんだよなー。でも人間がこんなものを作るのは不可能だろうし、じゃあ誰が、何がってなる。エアリスもダンジョンの意志だったか大いなる星の? 大地の意志だっけ? そんな感じのこと言ってたことあるじゃん? それが神ってことはないの?)


ーー 否定はできませんが……積極的にこちらをどうにかしようとするものではありません。マスターでもわかるように言いますと、ページを開けばそれが見える、つまりインターネットで特定のページを開くようなものです。とはいえ開くための鍵があればの話ですが ーー


 (ん〜? だから事前にはわからないけど、モンスターに接触したりダンジョンの階層に入ると、それについてのアクセスキーを手に入れて知ることができるようになるとかそんな感じ?)


ーー はい。だいたいそんな感じです ーー


 (そういえば元は俺の記憶とか知識とかって以前いってたもんな?)


ーー はい。初期の知識は、マスターの記憶から、そして腕輪とそれに関連したものの一部、つまりワタシが接触した事柄のみです ーー


 (そうなのか。あー、それならさっきの馬になんとしても触っておくべきだったなー)


ーー はい。せっかくの貴重なサンプルでしたのに。惜しいことをしました ーー


 (次はステータス全開で触りに行くか)


ーー はい、是非お願いします ーー



 「それでは自分はマグナカフェへ帰投します。ご武運を!」


 各々から礼と帰り道の無事を望む言葉を伝えられた軍曹は、ディーゼル音を鳴らしながらカフェへと引き返していった。それを見送った俺たち四人は洞穴の前に並び立つ。


 「いよいよね! さぁ行くわよ!」


 「「「はーい!」」」


 先生に元気よく返事をするかのような俺たち三人。暗い洞穴に俺、香織、店長、悠里の順で入り曲がり角を一つ曲がるとすぐに光が見える。光に向かって洞穴を抜けると、そこは見慣れた草原だった。



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