イヌノフグリの紫花

澄ノ字 蒼

第1話 鯉の道

ここは池

名もなき池

優雅に泳ぐ鯉達が

餌をもらい 口ぱくぱくと

その中に 鯉が一匹 ぼろぼろの 

「ねえ 何でそんなに ぼろぼろですか?」

その鯉は、言ってのける。高々と

「挑戦してる! 天(あま)かける竜門に。

竜門クリアし なるんだよ 金の龍に」

なんでも夜に、開くらしい 

輝く竜門への道が!

「今のままでも、いいじゃんか」

鯉は はっと笑うと、一言を

「君は 夢は無いんだ?」

僕は静かに その場を立ち去った。

丁度 15の頃の事だった。


30才 仕事に追われ、嫌になる 何もかも。

救いを求めて かの池に

夢破れた鯉 笑おうと

夢破れた鯉 あざけろうと

そんな心を秘めながら

かの鯉はがりがりに

そして ぼろぼろに

鯉に訊ねる 夢とやら

「まだ 夢とやらにすがるのか?」

「当たり前さ まだ20年しか経ってない」

それからは 話す様になりました かの鯉と

 

いつしか僕も40に。

僕の心身疲れ果て かの鯉だけが生きがいに

ある日、池を見ると、黄金色

きらきらと 眩しい位に光ってる

あの鯉だ

「やったんだね」

「やったさ」


 (その時)

雨が降り

ぴかっと雷

あまりの眩しさに目を閉じる

目を開けると

天(あま)翔ける 金の龍

高鳴り続ける僕の心臓 どくどくと

その時 天から声がする

「次はお前の番さ」

僕は天に向かって 手を振った

泣きながら

遥かかなたに 金の龍

天地 轟かせて 去ってゆく

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