第5話 初めての婚活パーティー②
「私ってぇ、超可愛いじゃん? だからぁ、超金持ちと結婚できると思うんだよねぇ。社長とか医者の友達いないんすかぁおじさん?」
頭が悪そうな若ギャル。
「あなたは神を信じますか? 信じる者は救われます。ハルマゲドンによる終末の時を生き残るには神を信じるしかないのです」
目が逝っちゃってる女性。
「がつがつむしゃむしゃ。ばくばくもぐもぐ。ずぞぞぞー」
無言で飲み食いしかしないデブ。
あれ? おかしいな。俺の目が悪いのか結婚どころか付き合いたくないようなやつらばっかりだよ!
貧乏くじを引いたってレベルじゃねえぞ。いやまあ井上さんみたいに可愛くて接しやすい人は他にもいたんだがな。だけどいくらなんでも少なすぎんだろ。
時間はもうだいぶ過ぎ、ついに俺は最後のテーブルに行くことになった。
このままじゃお付き合いしたいと思ったのは井上さんしかいない。でもどうせ最後もろくなやつじゃねえ。
しかし俺の予想は180°裏切られることになる。だって、もう会えないと思っていた女性。ゴミ捨て場で俺がプロポーズした人が驚いた顔で俺を見ているのだから。
「皆さん、最後の組み合わせとなります! ここまで会話が弾んだ人も弾まなかった人も出会いを無駄にしないために頑張っていきましょう!」
お姉さんが言う通り、俺のように会話が弾んでなさそうな奴らは大勢いた。初対面で楽しく喋れるコミュ力があるやつはそもそも彼氏彼女がいるか、結婚してるだろう。こんな場所はなっから来るわけがないんだからしょうがない。
それでも顔のいい奴。財力のある奴ほど女子受けがいい。やっぱり顔と金だな男って。
どちらも満たしていない俺の婚活エントリーシートを見て、対面の彼女は何を思うのだろう。えらい熟読してるが気になる点でもあったんだろうか。
俺も彼女のプロフィール欄を見ていく。名前は新城茜。歳は28で職業は……医者。医者!!?
「お、お医者さんだったんですね」
「ええ。驚きましたか酔っ払いさん?」
「……ははは。その節はご迷惑をおかけしました」
笑ってごまかすしかない俺を新城さんはジト目で睨んでくる。そういう顔も魅力的だけど、針のむしろは辛いので話を変える。
「あーその。偶然って凄いですよね。もう会えないかと思ってました」
「そうね」
「えーと、水のペットボトルごちそうさまでした。あれのおかげで無事に家に帰れましたんで」
「よかったわ」
「……」
反応が淡泊すぎんよぉぉぉ!!! 間が持たねえし、まーた気まずい空気が流れ始めてしまう。
どうするべきか。新城さんは井上さんの時みたいに優しく微笑んではくれない。やっぱり印象の悪い俺とはそもそも会話する気がないのか。
でも、俺は新城さんに一度プロポーズを断られてるけどお付き合いしたいと思ってる。
こうして再会した彼女はやっぱり一番輝く星に変わりなく。その魅力に惹きつけられてしまうんだ。
もっと話してお互いのことをよく知りたいし知ってほしい。でも何を話せばいいのか緊張して言葉が出ない。
先に沈黙を破ったのは新城さんの方だった。
「ねえ。あの時、どうしてプロポーズしてきたのよ」
真剣な瞳が俺を見つめてる。正直に俺は答えた。妹の自然体で話せばいいって言葉を思い出したから。
「それは出会った時……俺にとって新城さんが夜空に輝く一番星に見えたんだ。キラキラしてて絶対に他の人に渡したくない。そう思ったらいつの間にか勝手に告白してました。
ご迷惑だったですよねすいません」
「……別に。迷惑なんかじゃないけど」
俺と急に目を合わしてくれなくなった新城さんは、グラスのストローをずっといじっている。
この反応やっぱり駄目か。やっぱり一度やってしまった失敗はぬぐえないもんなんだな。
結局、この後なにも喋らずに5分が経過してしまった。司会のお姉さんに誘導され男女別れたテーブルへ。そして配られた紙にはマッチングシートと書かれていた。
「それではお時間もだいぶ経ちましたので最後のセッションに移りたいと思います! お手元のマッチングシートに1~3番までに気になった異性のお名前を書いてください!
書き終わったらこちらで集計し、相思相愛のお二方がおりましたらカップル成立として発表させて頂きますのでよろしくお願いいたします!」
薄っぺらいこの紙1枚に運命が左右される。この場でカップル成立しなかったらお終いだ。1万円を払った意味が全てなくなるってこと。
そう考えたら数撃てば当たる戦法で1~3番を全て埋めたほうがよいのだろう。だけど俺は1番に新城茜の名前しか書かなかった。
井上さんみたいに魅力的な女性は他にもいたけど。俺は新城さんじゃなきゃ嫌なんだ。その為だったらカップル不成立だって受け入れたやるさ。
どうやら男女ともに全員、書き終わったらしい。マッチングシートが回収され数分待たされる。再度、司会のお姉さんが現れた。どうやらもう発表されるらしい。
「皆さん、長いお時間お疲れ様でした! これより成立したカップルを発表させていただきます!」
ドクン、ドクン。緊張で胸が苦しくなる。
「残念ながら成立したカップルはおりませんでしたー! 皆さん諦めずに次の婚活パーティーに奮ってご参加か下さるようお待ちしていますのでよろしくお願いします!」
一組もいないんかーい! と、思わず心の中で突っ込んでしまう。誰がこんな婚活パーティー2度も行くかってんだ。
解散の流れとなりそろぞろと人がはけていく。俺も帰るか。新城さんのことはきれいさっぱり忘れて、また次を頑張ればいいもんな。
めそめそしないのが男ってもんだぜ。
エレベーターに乗り地上へ。駅に向かう足は自然と早くなる。だって周囲は幸せそうなカップルだらけに加えクリスマスイルミネーションが飾られてるんだ。虚しくってしょうがねえ。
「待ってっ!」
「え……?」
声に反応し振り向くと息を切らした新城さんが立っていた。
「どうしたんですか新城さん」
「あなた歩くの速すぎ」
「す、すいません?」
あれ? これ俺が悪いの? とりあえず謝っちゃったけどさあ。
でも一体、なんのようだろう。相手の用件を待っていると、新城さんは顔に手を当てて身もだえている。
はて。風邪か?
「~~~っ! ああもう、これあげるわ!」
そう言ってぶち当てるように渡されたのは1枚の紙切れ。書かれていたのは電話番号とLI〇EのIDだった。
思わず呆然としてしまう。
「どうして……俺の名前をマッチングシートに書かなかったんじゃ」
「大勢の前でさらし者になりたくなかっただけよ。連絡待ってるから」
それじゃ、と言うと足早に新城さんは去っていく。途中で合流した女性が見えるけどあれはもしかして井上さんだろうか。
遠くから手を振ってくれるから振り返しておく。 あの2人友達なのかもしれない。
でも今はそんなことはどうでもいい。この1枚の紙切れが世界で最高のチケットにしか思えない。俺はまだ新城さんを諦めなくていいんだ。
「よっしゃあぁぁぁーー!!!」
嬉しくて俺はイルミネーションで飾られた新宿を駆ける。先ほどまで不快でしかなかったイルミネーションとカップルたちが俺を祝福してくれるエキストラと思えるくらいテンションが上がっていた。
明日、佐藤に自慢しよう。ドヤ顔を連発してやる、なんて考えながら家へ帰る俺だった。
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