第22話夏の郊外演習 魔獣狩り編
いよいよ、今日から郊外演習である。拠点となる施設まで徒歩で向かい、錬金コースは基礎体力作りに励む。
体術、魔術コースは復習も兼ねた魔獣狩りの授業を行なっているらしい。
錬金コースは地味なものだ。筋トレに施設の周りをランニング。
普段あまり運動をしないため移動と筋トレで皆ヘロヘロだった。
一つ気になったのは今回の演習に学園都市の騎士団が10名同行しているようだ。
生徒達には魔獣の動きが活性化しているため念のため配置されるという説明になっているが、実際は先日の件でルーカス達が動いてくれたのだと思う。
少人数とはいえ、学生ではない護衛がつく事は頼もしい事だ。
*
夜になるとご飯、風呂、就寝だが、色々と問題が起きた。
風呂に行く時にたまたま出会った一部男子から、ユーリアが女風呂に入っていく事に驚きの声が出る。
1番びっくりしていたのはステンだ。男だと思っていたらしい。「君がそっちに入るのはおかしい」
と言われた。本当に女子なんだからおかしくないはずである。
女子は皆気づいていてくれたようで、騒ぐのは男子ばかりだ。皆が、男子の声を無視して風呂へと連れてってくれる。
だが、お風呂に入るのには苦労した。
ティナの全面サポートがあったから乗り越えられたが、まずは女子たちに普段は胸をさらしのような下着で抑えている事が広まる。
理由についてはティナが適当に言っていた。人より成長が早いのが恥ずかしいんだってという感じらしい。
また、周囲の目がある中ウィッグを外せるわけはなく、夜中にこそっと抜け出して髪を洗った。
コンタクトもその時に外し早朝起きてつけた。
ティナに周囲にバレないように気を配ってもらった。
ティナに最大限の感謝し、隠し事をするという事は泊りになると大変だという事が分かった。
*
次の日ルーカスから男子生徒に注意がされた。
「昨日誰とは言わないが、こちらに抗議があったので一応皆に伝える。
ユーリア・クィントン は見た目は男に見えるが、性別は女だ。
当然女風呂に入るし女部屋で寝る。
ティナ間違いないだろ?」
「はい、間違いありません。昨日の夜、確認済みです」
「そんなはずはない。アレが女なんて信じられない。あんなぶっきらぼうでそれに女っぽい要素が全くないじゃないか」
ステンがまた思い込みで言葉を続ける。前よりマシになったと思ったのに、またこれかとユーリアは怒った。煩わしいのだ。こんな事に時間を使っている暇はない。
「先生。発言を宜しいですか?」
ユーリアが挙手をする。冷気が漂っている気がする。
「許可する。もうどうなっても知らん」
「ステン。あなたは以前にもこういう事がありましたよね。
あなたの思い込みで皆大切な時間を取られているんです。
ステンあなたは優秀な生徒です。まさか先生が嘘をついているとでも言うのですか?
いえ、優秀な方ならこの学園の調査書に書いてある内容を疑うはずがございませんよね。
それにティナ意外にも複数の方に私は女である事を確認していただいております。アネット、ラウラ間違いありませんよね?」
「間違いございませんわ」
「間違い無いよ」
「ベネディクト、間違い無いわよね?」
ベネディクトは男子からも女子からも視線を集めた。もちろんドニやジーグルド、ルーカスには睨まれる。
「俺に聞くなー。疑われるだろ。寝間着姿見ただけだろー! 間違いないよ。女だよ」
ベネディクトは顔を真っ赤にさせながらも同意してくれた。
「これだけ多くの承認もいます。それでも私を疑いますが、優秀な方であれば私が女性である事が理解いただけると思うのですが」
ステンは唖然としながらも答える。
「間違いないようだ。女性である事を認める。もう金輪際異議申立てしない」
「ルーカス先生、以上です」
ユーリアがたくさん喋ったのも驚かれはしたが、1番視線を集めたのはベネディクトだった。
「えー、ベネディクトは後から私のところに来るように。後この後だが、魔獣狩りを行う場所へと移動する。体術、魔術、医術コースのものはチームとなり行動し、錬金コースは騎士団の護衛と共に観戦場所から見学するように。以上だ」
ルーカスの話の後、ベネディクトはルーカスからも他の男子からも色々と尋問されたらしい。
*
施設の訓練場で隊列を組むと、魔獣狩りのポイントへと向かう。
最近小売商が移動するときに馬車を襲われる被害が出ているらしい平原へとやってきた。
事前に魔物はリサーチ済みで生徒たちでなんなく倒せるレベルだ。
平原が見える位置で錬金コースは見学する。
学園で用意した食べ物を詰めたダミーの馬車が平原の道路を走る。
するとスッと猫のような魔獣が10匹ほど出てくる。
一見可愛いのだが、馬車の近くまで来ると爪を立ててくる。
「やれ!」
ルーカスの号令により各チームが前へ出て魔獣を狩っていく。
猫の魔獣はすぐに倒された。
ダミーの馬車はさらに森近くの道へと移動していく中、鳥型やクマ型などいろいろな魔獣が襲ってきた。
クマについては巨体と力があるため少してこずっていたが、チームで一丸となり仕留めていく。
以前より他のチームも動きがよくなっているようだ。
*
すると、うさぎ型の魔獣が20匹ほど出てきたのだが、今までの動きとまるで違う。
あれは追われている動きだ。
追ってくる魔獣見据える。白色の狼が3体だ。
狼種の中でも上から2番目に対処がしにくく、知性も高い。普段なら森の中で獲物を狩るはずなので人がいるような所には出てこないはずなのだ。
明らかに人のある方へ兎を追い込んでいる。
「騎士団の人。あれ大丈夫? 学生対処できる?」
ユーリアは騎士団の人に声をかける。
「大丈夫ですよ。白狼3体くらいなら上級生も6人ついてますし、ルーカスさんも付いてますから」
騎士団の若い騎士はそう告げる、杞憂に終わるかと思った矢先、森の中から「オォーン」と狼の鳴き声が聞こえた。
おそらく、白狼の上位種だ。知能はただの白狼より高いはず。今回派遣された騎士団の隊長の顔が青ざめた。
「——ま、まさか」
*
森から先程より大きめの12体の白狼と1体の大きな白色の狼が出てくる。やはり上位種だ。
ルーカスたちはすかさず土壁の防御壁を張り防御の姿勢をしているが、学生の防御壁では心許ない。
1年生を逃がそうにもバラバラになれば餌食になる可能性があるため逃げられずにいるようだ。
まだ学生たちのところに向かっている訳ではないので、そのままの位置を保ち刺激せず、ウサギが違う方向に向かう事を待っているのであろう。
ルーカスの判断は正しいが気になる。私は目立ちたくないのだ。
「まずい。3人を残して、応援に行く」
隊長は6人の騎士たちを連れて、学生たちのところへ魔力を隠蔽して近づき、合流した。
すると、また狼の鳴き声がする。
白い狼たちがウサギを追うのを止め、近くにいる学生たちではなく、こちらに全速力で走ってきたのだ。
このスピードでは先生たちも向こうに行った騎士たちも戻って来れない。
こちらに残っていた騎士たちは迎撃態勢をとるが、無駄死にだ。ユーリアは騎士たちに告げる。
「大丈夫。私が行く」
「何を言っている! 白狼が15体と上位種が1体だぞ!」
騎士たちに行くのを止められるが、止まる気はない。
「邪魔するなら、攻撃する」
騎士たちが防御の体勢に入ったので、魔術具で攻撃するふりをして防御の魔術具を皆に向けて展開させた。「なっ」騎士たちは驚きの声を上げる。
錬金コースの皆も囲われた防御壁の中から「ユーリア、何してるんだ。お前も中に入れ!」という声が聞こえたが、微笑むだけで聞こえない事にする。
「万が一の事があっても、あっちの騎士たちが来るまでは持つよ」
そう言うとその場を去った。白色狼の方へ向かって身体強化を使って走る。
自分のために作っていた剣を発動させ手に持つ。
今回は赤魔石を起動させる。
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