第1話転生と旅立ち

 新緑の葉が爽やかな風により揺れ、木漏れ日の暖かさを感じる季節と暦の上では表現される季節である。


 しかし、ここは灼熱の太陽がビルに照り返され、アスファルトまみれの地面、暑さで呼吸すらしづらく感じる。


 田舎から出てきて大都会を目の当たりにした時には、多くの期待もあり広い世界に感じた。


 テレビで見ていた満員電車でいざ毎日通勤してみれば、憧れは消えていく。


 私は短大卒業後就職しここにきて3年。


 毎日仕事に追われ、たまの休みには爆睡して、掃除と洗濯をして1日は終わり。

 彼氏はおらず独り身の女だ。


 たまの癒しは猫カフェ。愛しのマンチカン、ティディーに貢ぐ時。


 おやつをあげる時だけやってきて後はどこかへ行ってしまう。


 そんな素っ気なさですら愛おしい。


 上京してから友達もおらず、話し相手もいない。



「あーどこかに安寧の地はないのかな」


 ついつい独り言を言いながら喫煙所で一服する。


 いつも通りの朝を迎え、仕事で疲れた帰り道。


 何回か電車を乗り換えて閑静な住宅街にある自宅アパート、薄暗がりだが治安はいい。


 だが、今日はいつもと違った。


 アパートに向かう途中で突如背後からまばゆい光と衝撃音が聞こえた。


 周囲が暗転していく中「そ、そんなぁ……」と一言声が聞こえた。


 そんなぁってこっちがそんなぁなんだけど、おかしい話である。





 意識が戻ったはずなのに周囲は闇に包まれている。


 死後の世界なのか。あんまり生きている時は意識していなかったけど……。


 足元がほんのりと光を浴びはじめ、道が出来はじめる。


 しばらく歩くと分かれ道があった。親切にも日本語で看板が設置されている。



『これから汝が歩む道を選べ』



 ファンタジー要素がある。しかし、その文字の下に小さくまた文字が書かれていた。



『迷った時は足元にある棒を使ってね』

 

 なんだろう……敗北感。




 右は山が見える、左は川がある。どちらに進むか決められないのでありがたく棒を使い、棒が倒れた方向に進むことにした。


 コトリと倒れた先は右を差している気がした。


 そのまま素直に右へ進む。



 歩っても歩っても辿り着かない。



「こういうのってあれだよね。ラノベである転生ものだよね。ふざけた看板とかあるし……たぶん不慮の事故で死んだからチートの能力を持って異世界に転生させてくれるってやつ」



 この道の先にはきっと神さまがいて、チートな能力で第2の人生を歩めるよう導いてくれるのだと感じた時、目の前に門が見え始めた。


 門を抜けるとまばゆい光に包まれた。



 神さまとの対面を予想して、異世界ではどんな力が欲しい?と聞かれたときの答えを考える。


 もちろん、自分が転生する先がどんな世界かを聞き、なんの心配もなく生きていけるようなチートな力が欲しい。



 定番の魔法の力かな?転生先の世界を全て網羅する知能かな。


 それとも逆ハーレムな美貌と愛嬌かな?性格の補正つきで……。


 いろいろ第2の人生について思いをはせると段々と視界が開けてくる。

 いよいよ神さまとのご対面。







 * 


 しかし、意識が戻った時には思うように身動きができなかった。神さまが現れる事もなく、言葉すら発する事ができない。


 まさかの展開だ……人生甘くはなかった。


 これは赤ん坊だ。あー、うーとしか言えない。


 私が意識を持ったのはある程度成長し始め、寝返りを打とうとする頃のようだ。


 努力は何をするにも必要なんだ、子供の頃に優秀ならきっと大人になった時に楽になれるはず。


 私は幼少期から勉学に励むことを決心した。


 まずは言葉、常識かな?


 その後成長し、言葉を理解する事でどういう世界に転生したかわかった。


 いろいろな人たちから知識を得て行く。


 どうやら、魔法のようなものは存在するし、魔獣もいる。異民族もいるしファンタジーのような世界ということは分かった。


 4歳になると自分が魔法の発動ができることも分かった。


 そして、何故か我が家では倒すべく魔獣と共に過ごしていることもわかった。


 しかし、母の死去後、少しずつ自分の人生が狂っていく事が分かった。


 父の再婚相手である義母や他家から日常のように命を狙われ始めた。

 恐らく後継者から外すために、婚約者もあてがわれたがそれを放置し、建前上私は知識を求めてこの国を出る覚悟をした。


 今の私はここにいてはいけない。それだけは分かっている。全て悪いのは自分なのだから。


 私は家族や周りの反対を押し切り、お供の猫を連れて旅立つ。




 私の安寧の地はこの先にある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る