世界の終わり
ニコル・クーン・ジュノーとアウグス・スラ・ゴドリノは、ドゴリコ王国・王宮へと向かった。
アウグスがディエタ・アハナ・ドゴリコと戦うというからだ。
ニコルも腹を決めたのである。もう失うものも無い。
ドゴリコ王国・王都に人の気配はない。当たり前である、ニコル以外に人間といえる者はもうこの世界にいないのである。
白亜の王宮もまた薄暗く寂れている。
ニコルとスライムの少年・アウグスは、王宮の中へと入って行った。
王宮内はもはやディエタ・アハナ・ドゴリコと同化していた。王宮の壁だったと思わしき場所がぬるぬると蠢いている。
そこに血管がめぐり、墨色の血液が巡っている。その血管はドクン、ドクンと脈を打っている。
王宮のドアというドアは、心臓の弁を思わすような姿と化している。ニコルはその弁をこじ開け進んでいく。
やがて王座のある部屋へとたどり着いた。
王座に、いや王座であったろうものにディエタ・アハナ・ドゴリコが座っていた。もちろん人間ではない。それは無数の触手が生えた者であった。真ん中に目が一つありその下に大きな口があった。醜悪な姿をしていた。
そして、王座であったろうものから触手がだらりと下がっている。
「アウグス、俺に行かせてくれ。' 滅びの石 ' を貸してくれ」
アウグスは一瞬、逡巡したが、ニコルの真剣な顔におされ ' 滅びの石 ' を渡した。
ニコルはディエタへ向かって走っていく。
「(憎ィィィィ)」ディエタの憎しみの思念が伝わってくる。
次の瞬間、ディエタの触手が伸びた。触手に何かが絡めとられている。
それは、紅スライムであった。
いなくなっていたアウグスの母親である。つまりユリウスの奥さんということでもある。
「?......か、母さん?」
「アウグス......アウグス......逃げて......」
「母さんがなぜ、ここにいるの?」
「母さん......馬鹿だから......一人できちまったんだよ......アウグス......逃げて......お願い逃げて」
アウグスは「母さん!」と叫ぶと走り出した。そして、勢いあまって先を走っていたニコルを突き飛ばしてしまった......のである。
ニコルはすてーんと転び、持っていた ' 滅びの石 ' が手から離れコロコロと転がっていった。
転がった ' 滅びの石 ' を拾ったのは、チチカカ・アハナ・ドゴリコであった。
「ディエタ、可哀想な子......そなたの憎しみはわらわには分かる。憎い、憎いのだろう? 全てが憎いのだろう? わらわが一緒に死んであげる」
可哀想な子......でもわらわが生まれた虚無の海とどちらがつらいであろうか......チチカカはそっとそう思った。
' 滅びの石 ' を持ったチチカカはディエタ・アハナ・ドゴリコを包み込んだ。チチカカが何かを囁くと ' 滅びの石 ' が破裂して王宮内が赤く染まった。そして王宮ごとディエタは消失した。石が破裂した瞬間、何かが拡散した。
その爆発でまるで世界が終焉した......かのように思えた。
気づくとニコル・クーン・ジュノーは、たった一人で洋館の屋根の上にいた。
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