親と子

 朝顔が『森の向こうの小屋』へ入ると、スライムの少年もそれについていった。ネコトラとネコバイは"にゃん!"と鳴き、猫の姿になった。ネコトラ家の親子3匹は、『森の向こうの小屋』の奥で寄り添って丸くなる。


 アウグスはしかし、小屋に入るとすぐ眩暈におそわれ倒れてしまった。おそらく疲れていたためであろう。

 アウグスは昏倒した中、夢を見た。


 夢の中、父親であるユリウスがディエタ・アハナ・ドゴリコの体内にいた。ユリウスの傍らには〈幼女〉朝顔とカモノハシ、' ネコ ' もいる。

 ディエタの体内には墨色の血液が流れていた。その血管はドクンドクンと規則正しく脈を打っていた。


「(憎い・憎い・憎い・憎い・憎い・憎いッッ)」

「(憎い・憎い・憎い・憎い・憎い・憎いッッッ)」

「(憎い・憎い・憎い・憎い・憎い・憎いッッッッ)」


 脈に呼応するように憎悪の思念が木霊する。夢の中であるが、その強力な思念は生々しくアウグスに伝わってきてアウグスは恐怖にふるえた。



「アウグスさん......アウグスさん......」

 呼びかける声が聞こえる。朝顔の声だ。アウグスは生々しい夢から覚める。


「アウグスさん......大丈夫ですか?」

 しかし、アウグスは戦慄したまま何かを言うことができなかった。



***



 アウグスが少し落ち着きを取り戻した頃、突然、中年の男がその小屋に現れた。男は「ここは......?」と呟く。そしてやや奇異なことであると思うが、男はスライムの少年に話しかけた。


「ここは、君のお家かな?」

「......違うよ。ここは『森の向こうの小屋』だよ」

「おお、君はお話しができるんだね......この辺で人間の少年を見なかったかい?」

「人間? 人間はたぶん、みんな死んじゃったはずだけど......」

「死んじゃった? みんな?」


 死んじゃった?......この時代に人間は絶滅したということか?......おかしい、数十年程度の違いのはずなのだが......男は思った。

 ふと壁を見ると、そこにはスケートボードが立てかけてある。


「あれは......タカキのスケートボード......」


 男はスマートフォンのような機械を取り出すと必死にタップした。この男、タカキとヤスユキの父親である。そもそも、カモノハシが河原で拾ったスケボーは、この父親がタカキから借りてあの時代へ持っていったものなのである。

 河原で妖魔に出会い、慌てて落として元の時代に戻ってしまったのだ。そのへんは、似たもの親子と言えるのだろう。何も考えずに新しい機械を使ってしまうのだから。



 そこへカモノハシが現れた。


「おっさん、それ俺のスケボーだからな! 俺が拾ったんだからな!」


 しかし、カモノハシの声は兄弟の父親には聞こえていないようだ。


「おお、朝顔! 久しぶり! 俺、上級カモノハシ試験に受かったんだ。俺、上級カモノハシになったんだぜ! すごいだろ!」

「カモノハシさん、お久しぶりです。そうですか、上級カモノハシになりましたか。おめでとうございます」


 朝顔がそう言って微笑むと、カモノハシは消えた。



 タカキとヤスユキの父親は、必死に〔タイムマシーン〕をタップし続けている。彼がスケートボードを落としたあの時にもう一度行ってみようと思っているのだ。

 だが、〔タイムマシーン〕は言うことをきかない。何者かによって ' あの時 ' はロックされているようだ。しかし何の加減なのか〔タイムマシーン〕は不意にキュイーンと音を立てると、父親はどこかへと飛ばされた。


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