もう一度ダンスを踊りたかった

妖女はリビングのテーブルに置かれたカボチャ頭の頭にそっと指を置いた。カボチャ頭の記憶を辿ってみたのである。


そして「そうドゴリコ王家が大変なのね。もっと早く気づいてあげれられたら良かったのに......ごめんなさい」と言った。


妖女が何かを小声で呟くと、カボチャ頭の頭はこの世界から完全に消失した。


草原の ' 悪しき風 ' がその勢いを強めると、辺りは闇と化した。


妖女は慌てて外に出ると、ドメスティック・フラワーズに言った。


「どうしてこのことを言わなかったの?」


「イイタクアリマセンデシタ」とドメスティック・フラワーズの一輪が言った。


「そう、分かったわ。じゃあ、' 攻撃遮断 ' をはって‼」と妖女は言った。


「イヤデス」


「だめよ。これは最初で最後のお願いよ!!」


「......イヤデス」


「だめよ」妖女はもう一度言った。既に妖女の身体は真紅の光を放ち始めていた。


「イヤデス!!イヤデス!!イヤデス!!......ワタシタチは悲しゅうゴザイマス!!......悲しゅうゴザイマス!!悲しゅうゴザイマス!!」


「だめよ。これは最初で最後のお願いなのよ」妖女は悲しげに言った。


ドメスティック・フラワーズは悲哀の声をあげ、号泣しながら ' 攻撃遮断 - A.S.D ' を妖女の洋館の周りに張り巡らした。


空を闇にしたのは〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉である。動物の内臓のような色をしたものが蠢いている。


妖女はもう人間の姿をしていることをやめてしまった。彼女は細長い円柱状の真紅に光るモノとなった。


その円柱状の真紅に光るモノは、空に浮かび〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉を真っ赤に染めた。その ' 悪しき者 ' は蠕動運動を止めた。


"〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉、私はあなたに恨みはない。だけどごめんなさい。この草原の草達、この大地、そしてあの子達をどうしても守りたいの"と妖女だったモノは言った。


その時、空に青白い稲光が走った。何か4体のモノが姿を現したのである。


その1体は ' ネコ ' であった。そして ' ネコ ' に少年2人と ' 人間では無い何か ' がまとわりついていた。


少年2人はもちろん、ナダ・タカキとナダ・ヤスユキの兄弟である。というか青白い稲光を放っているのはこの少年2人であった。


少年2人は〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉を見て「ぎゃああああぁああああ」と叫んだ。


〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉は、。しかし、ナダ兄弟は叫んだだけであった。通常の人間であれば、この状況に耐えうるものではない。


' ネコ ' は、

「ええい。うっとおしい!! お前達は自分でなんとかしろ!!」と言い、兄弟2人と ' 人間では無い何か ' をふりほどいた。


ナダ兄弟はお互い手をつないで、叫びながら稲光を放ちながら空から落ちてくる。


2人の恐怖が頂点に達したとき、彼らの力が発動し空に小さな亜空間が出来た。2人と ' 人間では無い何か ' はその亜空間に中に退避した。


妖女だった真紅の光はさらに光を強めた。すると時空が軋む音が一面に響いた。


「やめろ!!」' ネコ ' は叫んだ。


"わたしの可愛い子猫ちゃん。来るのがちょっと遅かったわ"


「やめろ!!」


"まあ、こんなに太っちゃって、中年太りかしらね?"


「そんなこと言っている場合か!!」


"そんなに太ったら、もうダンスを踊れないわ"


「やめろ!!」


真紅の光が〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉を包み込む。時空が軋み、〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉が崩壊を始めた。


そして、妖女だったモノの命も尽きようとしていた。


' ネコ ' は妖女の名を叫んだ。


「ノヴァ!!!!!!!!!!......」


"わたしの可愛い子猫ちゃん。名前を言っちゃいけないって言ったのはあなたよ"


そう言うと、彼女......〈妖女〉ノヴァの命は完全に尽きた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る