第44話 流星群

 重い自転車のペダルを踏み抜く。


 緩い坂道を登ると、街の明かりはもう殆ど届かず、真っ暗な闇が僕達の行先に広がりはじめた。


 自転車のライトが、前を進む尾張さんを照らす。

 その姿は、薄ら透けて見えた。見間違いだろうか。目をこする。


 次に目を開いた時、空に広がる満天の星空が目に入った。


 それは、街中では決して見れない。煌々と輝く光の海のようで、今にもこぼれ落ちそうだった。


「紀美丹君そろそろよ」


 せっかく用意したテントだったが、どうやら設営している時間はないようだった。


 今にもこぼれ落ちそうだった星空に、一筋の光が線を描いた。


 尾張さんが自転車をこいでいた足を止める。


 それに合わせて、僕も足を止め、濡れたアスファルトを踏む。


 辿り着いたのは、周囲を森に囲まれた棚田だった。既に稲の収穫が終えられた棚田には昨日の雨で水たまりが出来ていた。


 尾張さんは、自転車をガードレールに立てかけて、棚田の畝に降りていく。


「尾張さん?」


「こっち」


 疑問に思いながら、尾張さんの後を追う。


 畝に降りた尾張さんの隣にたつ。


「紀美丹君来たわ。流星群が!」


 尾張さんに促され、空を見上げる。そこに映された光景に僕は言葉を失った。


 あふれそうな満天の星の海から、一つまた一つと流星がこぼれ落ちる。


 それは、時を経るごとに数を増やしていた。

 やがて、星空全体が今にも降ってくるのではないかと錯覚させるほどの量の星が流れ始めた。


「願い事しましょうか? 紀美丹君」


 尾張さんがぽそりと零した。

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