第38話 尾張と椎堂の休日

 本当は誰でもよかった。

 それがたまたま彼だっただけだ。


 休日の学校。その静かな校舎内を散策する。

 グラウンドからは、部活動に汗を流す運動部の声が聞こえてくる。

 

 椎堂さんに無視されて自暴自棄になっていた私に彼だけが反応を示した。

 最初はそれだけだった。


 どうせまた、すぐに離れていく。みんなそうだったから。


 彼との会話は楽しかった。まるで、昔からの友達だったみたいに。


 だから、どうにかつなぎ止めたくて、子供みたいなわがままで脅迫まがいな事をしたりもした。

 

「ふふっ」


 つい、笑みが溢れてしまう。


 廊下の窓枠のアルミサッシ。そのひんやりとした手触りを感じながら、思い出す。


 あの時の彼の顔は、怯えた犬みたいで可愛かったなぁ。私は、猫の方が好きだけど。


 だけど、私をいつも幽霊扱いするのは酷いと思う。

 確かに、私に気づく人はあんまりいないけど、それは単純に私の影が薄いだけだと思う。


 私が幽霊だなんて未だに信じられない。

 こうして、メッセージだって送れるし、なんなら運動だってできる。


 先程まで、彼と行っていたメッセージのやりとりを見返す。


「本当に変態なんだから」


 そんな独り言が出るのも仕方ない事だと思う。

 花の女子高生にキャバクラの話題をふるって、彼の精神構造はいったいどうなっているのかしら。

 

 私に花の女子高生なんて時代があったかはわからないけど。

 

 スマホを操作して、椎堂さんにメッセージを送る。


『こんにちわ。今大丈夫?』


 返信は、すぐにきた。


『全然大丈夫。なに?』


 だからこれは、彼に対するちょっとしたお仕置き。


 彼がちゃんと生きていけるように。ちゃんと一人でも歩き出せるように。

 いつか、私がいなくなっても。

 

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