第36話 黒い青年
「いまどき珍しい尖った青年だったよ」
洛州さんは、その青年をそう称した。
「尖った?」
「うん。全身黒で統一した服を着ててね。目つきがとっても悪かったなぁ」
くっくっと洛州さんは笑いながらその青年の事を話す。
「その青年は、一人でうちを訪ねてきたんだけどね、なんか複数の幽霊に取り憑かれてるから、御祓をしてほしいって言ってきたんだよ」
「複数の幽霊ですか」
何をしたらそんな事になるのだろうか。
「うん。それで、奇妙なことに、一人だけは祓わないで欲しいって言うもんだから、幽霊に恋でもしたのかい? って聞いたら、なんて言ったと思う?」
「・・・・・・なんて言ったんですか?」
洛州さんは、少し下を向いて斜に構えると、
「俺は、死んでもこいつと一緒にいるって決めてんだ。だってさ」
まぁ、一人だけ残して御祓なんて出来ないから、お引き取り願ったんだけどね。と洛州さんは続けた。
「その人は、その後どうしたんですか?」
「さぁねぇ。一応、別のお寺を紹介しといたけど。彼、かなりやつれて見えたからなぁ。死んじゃってるかもしれないなぁ」
いったい何をすれば複数の幽霊に憑かれるなんてことになるのかねぇ。と洛州さんは、目を細めて遠くを見つめる。
「それでだ、君はどうするんだい? 御祓・・・・・・する?」
「僕はーー」
その後、洛州さんにお礼をいいお寺を後にした。
「良かったの? 紀美丹君」
椎堂さんが、こちらを伺う。
「何がですか?」
通学鞄を持ち直す。
「御祓。してもらわなくて」
「まぁ、尾張さんは別に僕に取り憑いてるわけじゃないですし。それに」
まだ、約束を果たしてないですから。と続けた。
椎堂さんは、
「ふーん。まぁ、いいけど」
とだけ言うと、スタスタと先に歩き出す。
「それより、椎堂さんは良かったんですか? 僕のためだったんですよね。あの御祓を頼んだのって」
「勘違いしないで。紀美丹君のためじゃないよ?」
私のため。とそう聞こえた。
「それって、どういう?」
「んー? 秘密かなぁ」
そういう椎堂さんは、以前より角が取れた微笑みを浮かべるのだった。
不覚にも少し心揺らいだ僕は、それを誤魔化そうと、
「ていうか、今回、尾張さんにとってはある意味で危機的状況だったんですかね?」
尾張さんに向けて喋りかける。しかし、その発言に応える声は無かった。
「あれ? 尾張さん?」
先程から全く喋らないと思っていたが、なるほど。
「椎堂さん」
「なに?」
踵を返す。
「尾張さん、忘れてきました」
その後、もう一度訪れた寺を探すが、尾張さんは見当たらなかった。
まさか、本当に成仏してしまったのだろうか。
そう不安になっていた時、異常に猫が集まっている場所が目についた。
猫を退かしていくと、その下に尾張さんが埋もれていた。
「ふへへ」
絵面がヤバいです尾張さん。
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