第28話 世界はノリと勢いで出来ている

 その後、渋る僕を無理矢理コートに立たせ、フルボッコにしながら尾張さんは、


「テニスの点数って謎よね」


 と言い出した。

 精神的にも肉体的にもボロボロになった僕は、


「何がですか?」


 死んだような目をしながら幽鬼のように聞き返す。

 それに対して、余裕の表情の尾張さんは、


「何故か、一ポイント入ると十五点も入るじゃない」


 サーブを打ちながら答える。


「まあ、そうですね。三ポイント目は十点に減りますしね」


 スライス気味な豪速球になんとかラケットを合わせながら、相槌をうつ。


「サッカーとかの試合なら一瞬で勝負が決まる点数よね」


 こんなふうに! とつけたし、強烈なスマッシュを僕のコートに叩き込む。

 それを目の端に捉え、これでワンセットとられたなぁ。と思いつつ、


「でも、ラグビーとかも、点数計算複雑ですよ?」

 

 適当に話を続ける。


「あれは、得点方法が違うじゃない」


「まあ、そうですけど」


 ラグビーの得点方法はうろ覚えだ。少しテレビで聞きかじった程度の知識しかない。


「テニスの場合、同じように得点してるのに配点が変わるじゃない。訳がわからないわ」


 ラケットをクルクルと回転させながら、本当に不思議そうな顔をする尾張さん。


「尾張さんにもわからないことがあるんですね」


 紀美丹君は私のことをなんだと思ってるのよ。と呆れつつ、


「理解はできるけど、何故そうしたのか意味がわからないじゃない。非合理だわ」


 と呟く。

 

「まあ、でもテニスって、ワンゲームの得点と、ワンセットの得点があるから、多分混同しないようにしてるんじゃないですかね」


 なんとなく思いついた事を口に出す。


「・・・・・・一理あるわね。紀美丹君にしては」


「僕にしてはってなんですか。素直に褒めてくれてもいいんですよ?」


 尾張さんは僕を一瞥すると、目線を外す。


「それにしても、なんで十五点ずつなのかしら」


「スルーしないでくださいよ。どうせ、その場の勢いとかで決まったんですよ」


 僕の元も子もない意見に、首を傾げる尾張さん。


「理解できないわ」


 その後、尾張さんは、しばらく考え事をしていて上の空になっていた。

 もしかしたら、今なら尾張さんから点数をもぎとれるかもしれない。そう思い、いきなりサーブを打ち込んでみる。

 しかし、余裕でレシーブを返され、僕はこのセットも落とすことになった。

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