第一話 目覚めの銃声
朦朧とする意識のどこかから、何かが弾けるような音が聞こえてくる。
沈殿と覚醒の狭間、やがてその耳鳴りに耐え切れなくなり、宮田浩治は目を覚ました。
目覚めると、コージはトイレの便座の上に座っていた。
そこはトイレの個室だった。しかしドアは半壊しており、床も天井もボロボロである。
立ち上がると、耐え難い喉の渇きが襲ってきた。便座の底の水は澄んでいて、思わず覗き込んでいたが、しかしトイレの水を飲むのはさすがに憚られ、寸でで踏み止まった。
ふと、手洗い場の蛇口から、チョロチョロと水が出ているのに気づいた。飛びつくように蛇口を捻ると、勢いよく水が溢れた。服が濡れるのも構わず、浴びるように飲んだ。そのおかげで、ようやく意識は明瞭になった。
顔を上げると、ひび割れた鏡面に人の顔が乱反射した。
鏡に写ったのは、間違いなく春に中学二年になった宮田浩治の姿だった。しかし着ているのはなぜか入院着で、髪はいつも以上にボサボサだった。
似合ってないなと、独りごちる。顔は以前より痩せ細り、少しスマートにはなっていたが、相変わらず冴えないその表情は見るに耐えず、コージはすぐに目を逸らした。
トイレの造り、そして入院着から、ここが病院だということはわかった──しかし、何で病院にいるのか?
覚えている限り、目覚める前は学校にいた。そして、校舎二階にある二年六組の教室から外を眺めていた。
教室内はうるさかった。中年の冴えない教師が担当する国防の授業は、いつも通りプロパガンダを垂れ流すだけで退屈だった。クラスの奴らもろくに聞いておらず、好き勝手にお喋りに興じていた。この程度の国防教育なら、銃を撃つ訓練でもした方が、よっぽど為になるレベルの低さである。
幸い窓側の席だったので、グラウンドでサッカーをしてる奴らを眺めては、球蹴りの何が楽しいのかと馬鹿にして暇を潰していた。そしたら突然、空が光ったような……。
まだぼんやりとする記憶を辿っていたそのとき、唐突に銃声が鳴り響いた。
それに続き、空気を震わすような叫び声、床を蹴る無数の足音、そして断続的な銃声が静寂を切り裂く。
そして、トイレのドアを蹴破り、咽せ返るほどの血と硝煙の臭いが流れ込んできた。
何事か全く整理できていないコージの前に、三人の若い女性が現れる。銃や金属バットで物々しく武装した三人は、頭から靴の先まで血塗れだった。
その中の一人、国防軍の迷彩服とプレートキャリアを着た女性兵士の銃口は、そこから溢れ出る殺意は、はっきりとコージを捉えていた。
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