レックス

第1話 音

 割れる音がした。

 いや・・・落ちる音・・・か?

瑞希は目を少しずつ後ろにうつす。今までぼんやり街灯を見ていたせいだろうか。

暗い・・・深い闇。


いや、そんなはずがない。

背中越しにうっすらと光が入っているはずだ。

目が慣れないせいかと当たり前の事を考えて、さすがの私も途方にくれているんだとくすぐったい気持ちになる。


また、音がする。

耳を最大限に広げたような気になって闇を聴く。



・・・やはり音がする。

『そんなはずはない』

言い聞かせるには、足りない。


 仕方がない。

 私はそう口にしながらから降りた。色は朱。

 この椅子はもう少し低い方が良かった。

 お洒落かどうかより、座り心地を優先させればよかった。

 浅くて少し高めの、まるでコジャレたバーにあるような背凭れの低い椅子。

 座り心地は最悪。

 そんな事を考えて先の黒に向かって歩き出す。


 パリンと音がして思わずヒッっと悲鳴がもれた。

 足元を見れば、さっき割れてしまったのだろう。

確かがお気に入りだったこれまたコジャレたティーカップ。

 私も意外と小心者だったと妙におかしくなる。


 あの音まではそう遠くはない。

 黒が深くなればなるほど高陽と絶望に支配される。それなのに悲観が見つからない。

この状況でおかしなもんだと肩を竦めてみても、誰も見ないし聞いてもいない。

それなのにゼスチャーとはよっぽど自己愛が強いとみえる。

『いいさ。自分くらい自分を愛さないとな』と、これまた呟いてみても誰からも返事は無い。

ただ、音だけが微かに聞こえる。


 これだけは『今』確認しないといけない。

 深い黒の中で、音ともとれない音を頼りに歩く。

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