… 6
翌日は4日振りに有陽ちゃんと同じシフトだった。何だかこの間隔はとても長く感じてしまう。そこで、昨日どうしてわたしにあんなメールを送ったのか詳しく教えてくれた。
「一瞬なんだけど、加世子のこと探しているような気がしたんだよね……」
有陽ちゃん曰くチラッと店内を見たからという理由らしいが、そんなことで 何かあったのかな まで連想をする有陽ちゃんって、意外と侮れないというか、観察力に長けているのかなという驚きがあった。
「明日は加世子も入るって伝えておいたよ」
無事に家に辿り着いたかを気にしてくれ
ていたのだろうか?
子供じゃないんだから大丈夫なんだけど
な……
会ったら改めて御礼だけは言おうと決めて、仕事をこなしていった。
11月も半ばになると特に夜はやっぱり寒い。
自転車通勤の有陽ちゃんは、ニット帽を被って準備万端。
「今日はまだかな。少し待ってみようか」
御礼を言うのは後日でもよかったのだけれど、一応は待つことにした。この
「うわっ」
スマホに届いた通知をもういちど見直して確認をする。
「大井町線、大岡山までで止まってるって」
「乗り換えせずに奥沢まで出て、そこから歩こうか……」
いつもと違う帰り道を考えていると、裕泰くんに電話すれば良いんじゃないの?とか色々言われたのだけれど、 まだ、どこか躊躇してしまっていた。
「前、どこだっけか? 大宮かどこかで電車が止まった時、迎えに来てもらった話、してたじゃん。そこに比べれば近くない?」
「うーん……」
「暫く待てば動き出すかも……っていうか、遠くなるけど他の路線もあるし、別に良いか……タクシーを使うという手もあるし」
そんなやり取りをしている内に、白い軽トラックが入ってきた。
「下井くーん」
ポケットに手を入れ、ワントーン低めの声で、かかとを上げたり下げたりしながら有陽ちゃんが独り言のように呼んでいる。わたしもこちらまで来るのをじっと待つ。待つといっても、すぐそこにいるんだけど。
「あの、この間はありがとう」
「あの後、ちゃんと帰れた?」
やっぱり。
大丈夫ですって。
心の中でそう呟きながら、冷静に大丈夫だったと答えた。
「今日はちょっと遅いね」
「先に回った所の量が多くて」
今日も有陽ちゃんと二人の会話が始まろうとするけれど、20分位待ったし、これ以上遅くなるのはなぁという思いは有陽ちゃんも同じだったらしく、突如話題を変えて、
「加世子、結局どうする?帰り」
「タクシー拾う?」
「ううん、奥沢まで乗れば良いから問題ない」
「……どうしたの?」
顔を見合わせて話していると、下井くんがそう聞いてきたので、ほぼほぼ有陽ちゃんの説明により、電車が止まってしまい、わたしが少しだけ困っている事を伝えた。
「家、どの辺?」
「自由が丘の近くだけど……」
「ちょっと待ってて」
そう言うとトラックの方に駆けて行って、荷台付近で作業をしていた男性と何やら話し、再度こちらへ戻って来た。
「そう遠くない距離だから、あんなので良かったら送るけど」
「でも…… 車が無ければ困るんじゃない?」
「一ヶ所にまとめておいてくれてる間に行くわ。先に大分と降ろしに行ったし、ここでの範囲はそう広くないからひとりでいけるって。それから近くの蕎麦屋に入っとくらしい」
迷っていると、有陽ちゃんに、せっかくだからお言葉に甘えれば良いと言われ背中を押される。
「本当に良いの?」
そう言いながら座席のドアを開けてもらい、乗り込む。
当たり前なのだろうけれど、こなれた手付きでエンジンを掛け、少しバックをして路地へと入って行った。
「乗ったこと無いだろ、こんな車?」
かじかんでいるのか、手をさすりながらそう言う。
横目で顔は見たものの、黙っているわたしに対して、
「自由が丘とか、すごいな。行ったことねぇわ」
信号待ちで止まると、そう微笑んで前方を見ながら話を続けてきた。
気を遣わせているのかな……
そう感じてわたしからも言葉を振り絞る。
「あの辺りでお仕事だったの?…有楽町…」
「あぁ、あれね、仕事というか……ま、仕事みたいなもんだけど寄り合いがあったんだよ、組合の」
「そうなんだ……」
「でも本当、助かった。ありがとう」
「いいよ、別に」
その後、沈黙が続いて、どうしようかと思っていると、もう近所まで来ていて、詳細な場所を伝えながら家の真ん前まで送ってもらった。
そこには心配顔のママが立っていて、車の中を覗き込んでいる。
「加世子なの?」
「良かった… 連絡が返って来ないから何かあったのかと思った……」
ささっと下井くんに御礼を言い、車から降りたわたしの顔を間近で見ると、ようやく安心した様子を見せた。
バイブレーションだけにしていたとはいえ、メールが立て続けに3件入っていたのを全く気づかなかった。
少し落ち着きを取り戻すと今度は運転席の方を探っている。
「あの方は?」
わたしにそう聞くと同時くらいに下井くんはこちらに頭を下げて車を出して行った。わたしたちも同じように頭を下げ、車の背後を目で追った後、門の扉を閉めて中に入った。
「ごめんねママ、心配させてしまって。帰ろうと思ったら電車が止まってて……」
「暫く有陽ちゃんと話し込んじゃってたし……」
うんうん、とわたしの話を聞き、有陽ちゃんの心配もしつつ、今度は、何があったのだろう、ニュースでするかな等とテレビをつけてチェックをしていた。
そうして家に帰ってから1時間近く過ぎた頃、突然思い出したように、こう口を切った。
「さっきの方はアルバイトのお仲間じゃないわよね?」
ごく簡単に説明をすると、ママは納得したようなしていないような感じではあったけれど、とにかく無事で良かったとホッとした表情でキッチンの方へ行き、お風呂を用意しようとしてくれた。
全く触れてこないから、ある意味油断をしていた時だったので少し驚きはしたものの、特にそれ以上の追求は無かったので、そのまま先にお風呂に入らせてもらい、明日は土曜日で授業が無いし、有陽ちゃんにメッセージを送り、ベッドに入った。
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