ここに小説を書くなんて、不謹慎ですよ!!

ちびまるフォイ

タイトルが思いつかない人もいるのに書くなんて不謹慎だ!!

「本日、不謹慎機動隊第6班所属になりました!

 みなさん、ご指導よろしくお願いします!」


「バカ野郎! この世界には指導を受けられない人もいるんだぞ!

 そんなことを言うのは不謹慎だと思わないのか!!」


「すっ、すみませんっ!」


「ふっ、冗談だよ新人。これからびしびしやっていくからな」


「はい!!」


かくして不謹慎機動隊としての活動が始まった。


「動くな! 不謹慎機動隊だ!!」


「ぼ、ぼくがいったい何をしたっていうんですか!」


「我々の活動を小説にして面白おかしく投稿しただろう!」

「それのどこが悪いんですか」


「この世界には、小説を書こうと思っても書けない人がいるんだ!

 それなのにそれを当たり前に享受するなんて不謹慎だと思わないのか!!」


「なんなんだよぉ!」


「逃げたぞ! 撃て! 撃てーー!!」


不謹慎機動隊の活動のほぼすべては不謹慎の鎮圧にある。

最近はとくにインターネットが普及しているために休まる場がない。


「新人、いくぞ、3丁目で不謹慎事案だ」


「今度はどんな不謹慎ですか?」


「積雪で命を落とす人もいるというのに

 公園で雪合戦をするという不謹慎行為だ」


「は、はい……」


先輩と新人は現場に向かい小学生を不謹慎逮捕した。

仕事を終えて事務所に戻る途中で新人はぽつりとつぶやいた、


「先輩……俺たちは本当に正しいんでしょうか」


「どうした急に」


「こうして不謹慎を取り締まっていることに自信が持てなくなってきて……。

 実は自分はとんでもない悪いことをしているような気がして……」


「新人、許される失敗は1度きりだ」

「……?」


「不謹慎機動隊に入りたくて、頑張って勉強しても落ちた人がいるのに

 お前はそのありがたみを忘れて自分の行為の正しさがどうとか考えるなんて

 落ちていった他の人に対して不謹慎だと思わないのか」


「すみませんっ……! 俺、二度も不謹慎を……」


「俺たちはバディだ、これで二人分でちょうどいい。

 成功も失敗もお互いに背負っていくのが不謹慎機動隊だ」


「先輩……!」


先輩に感謝しようとしたときだった。

走る不謹慎警備隊の車に火炎瓶が投げつけられた。


「うわっ!!」


車は急ハンドルで横転すると、「不謹慎不」と書いた仮面をつけた集団が大挙してきた。


「貴様ら! 車に乗りたくても乗れない人がいるのに

 こんなことをするなんて不謹慎と思わないのか!!」


「うるせぇ! 不謹慎だなどと言うことのほうが不謹慎だ!!」


「そんなへりくつ……!」


「オレ達は不謹慎レジスタンス!!

 不謹慎だなとと自由を奪う奴らに鉄槌を与えてやる!!!」


「その声どこかで聞いたような……。まさか、あのときのネット作家か!?」


「ぎくっ」


「反応を言葉にして伝えようとする癖がある!

 これは間違いなくあいつだ!!」


「人の自由を取り戻そうとするレジスタンスに逆らうなんて不謹慎だ!」


「秩序を守る不謹慎機動隊に逆らうことこそが不謹慎だ!!」


激しい激突のすえになんとかレジスタンスの一部を鎮圧することはできた。

しかし、この一件もあり不謹慎機動隊は体制を大きく見直すこととなった。


「先輩がクビってどういうことですか!?」


「不謹慎機動隊の上層部に逆らうなんて不謹慎だと思わないのか。

 世間には我々に文句を言いたくても言えないこんな世の中なんだぞ」


「ぽいずん……」


「最近では不謹慎で取り締まることを不謹慎だとする

 レジスタンスがますます活発化しているそうじゃないか。まったくもって不謹慎」


「先輩はいい人です。ますます手が足りなくなりますからどうかクビだけは……」


「それならノープロブレムだこれを見たまえ」


スクリーンに映し出されたのは地球の周囲を回遊する衛星。

その先には巨大なレーザー照射装置が見えた。


「これは……!」


「不謹慎衛星"だぶすた”という。

 これからは君ら不謹慎機動隊が汗水たらして現場に行かなくても

 この不謹慎衛星が不謹慎を感じると……」


不謹慎衛星からは鋭いビームが発射された。


「一定以上の不謹慎をした人間をピンポイントで焼き切る。

 こんなにも効率的で、平等な方法はほかにあったかな?」


「それじゃ、俺たち不謹慎機動隊の役割は?」


「だから先輩だけでなく、君もクビなんだよ」


お別れの言葉も言えないままに不謹慎機動隊は解体されてしまった。


「はぁ……これからどうしよう……」


公園のベンチでハローワークの求人を見ながらため息をついていると、

その隣にひどくぼろぼろな女の子がカビたパンを食べていた。


「ちょ、ちょっと! そんなの食べちゃだめだよ!」

「どうして?」

「カビてるじゃないか。ほらこっちを食べなよ」

「ありがとう」


一心不乱にサンドイッチを貪る少女はあきらかに普通じゃなかった。


「あの、お父さんかお母さんは?」


「いないよ。いなくなっちゃったの」


「いなくなった? お父さんとお母さんの名前は?」


少女に名前を聞いたあと、こっそり不謹慎機動隊のデータベースにアクセスした。

そこには衛星だぶすたによる処分対象者が列挙されている。


「あっ……」


少女の両親はふたりとも、

「世界には独身で寂しい思いをしている人がいるのに、

 夫婦で仲睦まじい姿を見せるなんて不謹慎」として処理されていた。


少女の身なりがボロボロなのもホームレス同然の生活だったからだろう。

この生活が長く続けばいったいどうなるか。


「君さえよかったら、俺と一緒に生活しないか。少なくとも衣食住は約束するよ」


「いいの?」


「もちろん」


少女はずっと我慢していた生活から開放された。

それからはしだいに笑顔を見せるようになっていった。


そんなある日のことだった。俺の家に不謹慎機動隊がやってきたのは。


「不謹慎精鋭特殊機動隊第一班だ。理由は、わかっているな?」


「な、なにがですか……」


「貴様は元不謹慎機動隊という身でありながらも

 少女を拾って介抱していたという不謹慎な証拠はあがっているんだ!」


「それのどこが不謹慎なんですか!」


「この世界には、少女と一緒に共同生活に憧れて

 それでもできなくて夜な夜な泣いている人だっているんだぞ!! 不謹慎だ!!」


「逃げて!!」


俺はとっさに少女を逃した。


「逃がすな! 逃げたくても逃げられない人のために捕まえろ!」


「させるか!!」


「くっ! 邪魔をするな! この裏切り者が!!

 自分の本心をぐっと抑えて人に合わせている人もいるのに

 自分勝手に裏切るなんて不謹慎だと思わないのか!!」


殴られながらも少女だけでもなんとか逃げ延びることを信じた、

だが、大人の歩幅の前では少女の全力疾走など取るに足りなかった。


「隊長、少女を確保しました」

「よしご苦労」


「あんたらこそ、少女相手に大人気ないとは思わないのか!?

 それこそ不謹慎じゃないか!」


「なんだ罪を認めるかと思ったら今度は逆ギレか?

 いいか、世界には逆ギレしたくてもできない人がたくさんいるんだぞ。

 それを考えれば不謹慎だと思わないのか」


「うるさい!」


「それにな、お前がそうやって一人の少女を救ったとして

 世界には他にも救いの手を求めている人がたくさんいるのに不謹慎だと思わないのか」


「手の届く場所にいる人を助けて、なにが悪いってんだ!」


「それは貴様の視野が狭いだけだ。もっと世界に目を向けていないから

 お前の不謹慎な行為で傷つく人がいる可能性が見えていないだけだ」


「そんなこと……!」


「戯言もこれまでだ、衛星だぶすたが起動したようだ。

 貴様が無駄に反論したおかげで不謹慎値が規定量を超えたようだな」


空の一点がみるみる赤くなっていくのがわかる、

地球の外側で巨大なエネルギーが集約されている。


「だぶすたは高性能GPSでけして狙いを外さない、

 この場所にいるもっとも不謹慎な人間を確実にぶち抜いて浄化する!」


「く、くそ……」


「さぁだぶすたよ! 勝手に少女をかくまっていた不謹慎な男を焼き払え!」


だぶすたのエネルギーがMAXになったとき、少女は機動隊に答えた。



「でも、私は一緒にいてすっごく嬉しかったよ?」



レーザーは幸せな二人を引き裂こうとする不謹慎な輩をまとめて貫いた。

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