即興小説をきちんと推敲した短編置き場
あきら
御愁傷様です
「くっ……オレっちもここれおしまいか」
片目にアイパッチをした毛むくじゃらの男はベットに横たわりながらそう項垂れた。手は痙攣しているし、もう一つの目の視線は宙をさまよっている。
(推定職業、海賊)
そうカリーナは冷静に結論づけた。
アイパッチに汗臭いレース付きのシャツ、無駄にでかい羽飾り付き帽子。治療の邪魔だからと床に投げ捨てたのは反りの大きなサーベル。
子分と思われる、これまた汗臭い男どもは診察室から溢れていて、この家の前まで広がっているだろう。邪魔だからと、ある程度追い出したせいもあるが。
明日からのご近所さんの目がちょっと怖い。
「そんなこと言わねえでくだせえ」
「嫌です、嫌ですぜえ兄貴!」
「うおおおおおおん」
追い出されずに運良く残った男達は患者よりも二回りも大きい。そんな男が二人や三人や四人もいるから暑苦しい。ついでに雄叫びがうるさい。
「……うるさくした人は追い出すって言いましたよね」
「しかし女医さん!!」
「女医ではありません、私のことは『ドクター』と呼ぶように」
「ド、ドクター!」
(本当はまだ見習いですが。まあ、ドクターはドクターでしょう)
雄叫びを上げた男を順に追い出しながらそんなことを思った。
そんなこんなをしていると患者が「うぅ……」と言う小さなうめき声をあげる。
その後、
「ふ……お前…ら…達者でな……」
とより一層弱々しい声でつぶやいたりした。
「ア、アニキーーーー!!」
号泣である。
汗まみれでただでさえ蒸しているのに勘弁して欲しい。
「一緒にまた山を駆けましょう」
「そうです。世界一の山賊団になろうと誓い合ったじゃねえですか」
(山賊だったか)
カリーナは残念そうに目を伏せた。
そう言えばこの辺には海がなかった。山に囲まれた見事な盆地であった。
「ぐはっ」
患者はうめき声とともに気絶した。
「……どんな幻覚を見てらっしゃるのか知りませんが、残念ながらただの食べ過ぎでは死にません」
そう言ってカリーナはほぼ毛玉な男の口に下剤を押しこむのだった。
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