第99話 未来と中年



「風牙!」

「はぁ!」

 振り下ろされる風の塊を、風魔法でかき消す。


「ぐぅっ!」

「そろそろ分かれよ。フウじゃ、俺には勝てないぞ」

 フウの攻撃を上回るようにしているんだから、分かってくれてもいいと思うが。


「ゼェッたい、やだ!」

 傷ついた身体を気にもせず、俺を睨みつけてくる。


 フウは強いが、あまりにも幼過ぎる。

 動作や目の動きで、考えている事が見えてしまう。

 これ以上は、フウにも悪いな。


「……終わりだ」

 背後にまわり、強めに殴り飛ばす。木々を倒して砂煙が舞い上がる。




「どうしてまだ立ち上がる?」


 もう勝負はついた。倒木に手をつき、フウは震えながら立ち上がる。


 風の刃を放ちながら、

「僕は……僕達は弱くない……人間は全て殺す……僕達は、新しい世界を作る」

 フウの攻撃を弾き飛ばす。


「そうか。フウも目的があるんだな。……仲間も同じ目的なのか?」

「……僕は鬼子になれたんだ! 人間は邪魔なんだよ!」

 フウは涙を拭うと、こちらを睨みつける。


 鬼子になれた。

 何の為に? まだ子供だぞ。

 誰がそんな選択肢を? 誰が誑かした? 

 人買いか? あのファントムか? 


「お前を鬼子にした奴は誰だ?」

 知ってしまったのだからしょうがないよな。


「……関係ない。僕は、負けない!」


 風の刃が右肩を切り裂く。

 

「……なんで避けない?」

 フウは睨みつけながら聞いてくる。


「誰だ? 言ってみろ。俺が助けてやる」

 守るモノが増えた。


「嘘をつくな! ……殺す!」

 声を荒げフウは攻撃してくる。


 大丈夫だ。

 俺はもう決めたから。



ー・ー・ー・


 

「……ぁ……ぁあ、なんで……」

 フウはその場に座り込む。


 守るモノを傷つける馬鹿はいないだろ。

「お゛……前にヴァ……未ライがあ……る」

 俺には、フウの未来を消す事は出来ないよ。


「なんでだよ……未来なんて……」

 フウは俺の目を見て涙を流す。

「ある……泣グッ。なよ」

 フウの描く未来を手助けするくらい、俺にも出来るだろ。


 しかし、再生も追い付かない程やられたな。死んでないのは、さすが俺。


「兄さん!」

 ボブが走って来て、俺を仰向けに寝かせる。


[ボブ、その子はフウ。俺が回復するまで頼むぞ]

 念話でボブに伝えると、

「兄さん! そんな事は後回しです! ポーションが効かないんっすよ! 回復魔法は使えますか?」


 さっきから何かやってると思ったら、ポーションふりかけてたのか。魔法……が使えないな……スキルで少しは再生してるみたいだが、血が足りないのか?


「おじさん!」

 フウが身を乗り出して俺を覗き込む。

[ボブ、フウに大丈夫って言ってくれ。俺には再生があるからな。……ちょい寝るわ]


「兄さん! 寝たらダメっス! あぁもう!! フウはここで兄さんを見ててくれ!」

 ボブが走る音が聞こえる。

「え!? 何これ?」

 ん? 何かフウが言ってるが……



ボブside


 森を走り抜け兄さんの元に戻ると、

「お前が兄ちゃんを!」

「やめろ! 兄さんが先だ!」

 先に着いたケントが、フウの首を掴み上げていた。


「何処にいんだよ? すげぇ血だぞ!」

 血溜まりはあるが、兄さんの姿がない。

「離せ! フウ、何があったんだ?」

 ケントからフウを離す。


「分からない……おじさんが光って消えた……僕は」

「分からないじゃねぇんだよ! ふざけ」

「ーーやめろケント。この子が何かしたなら、ここに居ないだろ」

 モッチーさんがケントを引き剥がし、

「それに、ここはダンジョンだ。出るなら上か下だ」

『なら俺は下だ! 先に行くぞ!』

 ナキさんが走り出すと、ケントも走りだす。


「ぼ、僕も」

「あぁ、フウを任されたんだ。置いて行く訳ないだろ?」

「はい、立って」

 美羽さんがフウを立たせると、回復魔法とクリーンをかける。


「カズトなら大丈夫! ケント君も先に行ったし、私達も迎えに行きましょ!」

 美羽さんは笑顔で俺にフウを渡し、リズムと走り出す。


「俺はノセと二人で上に行く。カズトさんが上に行ってたら最悪だしな」

「ボブはちゃんと美羽さんとリズムを守るんだよ?」

「分かってる! ノセもモッチーさんに遅れるなよ!」

モッチーさんとノセは上に向かう。


「フウ、行くぞ!」

 フウは無言で飛び上がり、素早く美羽さんの横にピッタリとついて行く。


「クソっ!」



ダンジョン二十七層


「はっ、はっ、どんだけ先に進んでんだ」

 モンスターはナキさんとケントが倒してるようで、ドロップがあちこちに散乱している。

「リズムは大丈夫?」

「大丈夫です! 走ってるだけなんで」

 美羽さんがリズムを気遣って声をかける。


「うおぉぉ! っっぐっ!」

 木陰から美羽さんに飛んできたものをガードすると、

『ヴヴゥゥゥ!』

「狼かよ! こっちは急いでんだよ!」

 体長1メートル程の黒い狼が、赤い眼でこちらを睨み付けている。変わった所と言えば、身体の一部が石のようになっている。


「風牙!」

「「「え?!」」」

「ほら、早く行こうよ!」

 フウが撃った攻撃で狼は煙にかわる。


 あの狼はポリューションだよな……ランクも高いはずだし……それを一撃か。


「凄いわね。この調子で頼むわよ?」

「うん」

 美羽さんに褒められて照れるフウは耳を真っ赤にしている。


 まぁ、こんな所で時間を取られる訳には行かないし、さっさと下に向かうか。

 

 



 

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