第97話 特別と中年


『一匹そっち行ったぞー! っとりゃ!』

 ナキが回し蹴りでデザートフロッグをたたき落とす。


「うおぉぉぉおぉぉぉ!」

 デッカくって気持ちの悪いカエルがこっちに迫ってくる!


「はーい、カズトさんは落ち着いてー! っと!」

 モッチーが前に出て来て、エアーカッターで倒すが、

「ゔおぉおおおお!」

 俺の目の前にカエルの腕が飛んでくるので咄嗟に、

「ぎゃあぁぁあ!」

 近くにいたノセでガードしてしまった。


「どぅおぉおおお! って、手、て手がぁぁあ!」

「ノセ? もう手は消えてるよ?」

「のう! NOoお! そう言う問題じゃないっす! あの感触はヤバいですって!」

 ふぅ……よかった、危ない所だった。

「お兄さんも何ホッとしてんですか! 人でガードしちゃいけません!」

「また頼む!」

「んノォォォォォ!」



 俺達は順調に十九層から二十層への階段に来ていた。十九層では、危機一髪の所をノセシールドでなんとか乗り切って、ボス戦を前に回復がてら、休憩している。


「まぁまぁ、そんなに怒るなって」

「怒りますよ! 何度も僕を盾にしないでって言ったでしょ? あと、モッチーさんも! なんで他の魔法を使わないんですか! 絶対分かっててやってますよね!」

 ノセがプリプリしている。


「ごめんね? つい」

「俺も」

 面白かったから。

「んもぉ、次はやらないで下さいね」

 一応、約束したが……(笑)


 二十層に入ると、

「……あれって、河童?」

 二足歩行の手足の長い河童?

「いや、鑑定したら」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

ハーミットフロッグ(ポリューション)

ランクB レベル60

仙術を使い、カエルの姿になった妖仙。

変化による強力な足技と、水の仙術を得意とする。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「ってことだ! やっぱカエルじゃねぇか!」

 盾を構えようとするが、

「あれ? 俺の盾は?」

「ノセ君なら逃げたわよ?」

 美羽が指差す方には、

「僕は盾じゃないぞー! ふざけるなー!」

 ……ちっ! 


「盾がないんじゃ、しょうがない! さっさと倒すぞ!」

「「「「『うい!」」」」』

 攻撃を始めるが、……ボブはまだダメか。


「ウオッ!」

『なに!』

 水の弾を指先から放って、賢人とナキを追い詰めている。

「どおっせぇぇぇいっ!」

 二人に気を取られている隙に、ノセのハンマーがハーミットフロッグの脇腹を抉り飛ばす。


「ナイス! 久しぶりのアイスコーン!」

 モッチーが氷の円錐を、吹き飛んだハーミットフロッグに放ち、トドメを刺した。


 ノセは最近、動きが違うし、モッチーも全体を見てるみたいで連携が上手いなぁ。

「なぁー! ノセにいいとこ持ってかれた」

『くそっ、あのカエル……もうちょっと粘れよ』

 ……ランクBなんだが。


「やりましたね!」

「あいつらだけにいい所持ってかれる訳にはいかないしね」

 ノセとモッチーも強いな。


「はぁ、……この調子でダンジョン失くせるんじゃ」

「リズムちゃん? それは、私達だけでやる事?」

「……そうですね……世界ランカーもいますし、……あまりにも皆さんが簡単に倒すので、……ちょっと思っただけです」

 リズムは美羽に言われ言い淀む。


「……意地悪で言ってるんじゃないの。みんなは強くなって喜んでるけど、この一年でたくさん怪我して、たくさん怖い思いをしてる。……みんな優しいから、助けてって言ったら……言わなくても、笑って頷くでしょうね。……そんなみんなだから、軽い気持ちで言って欲しくないの。特別な存在じゃなくて、私の仲間だから」

 笑いながら話している四人を見ながら、美羽はリズムに言う。


「……ごめんなさい。……まだ、知り合って短いですけど、みんな優しいですよね。……賢人さんに言われたのに、分かってなかったみたいです」

 美羽は少し驚いて、

「賢人君が? なんて?」


「カズトさんはカズトさん、代わりはいないって。……みんなの事も同じですね。代わりはいないんですもの。……そんな事言われたら私も嫌です。本当にごめんなさい」


「私もごめんね。でも賢人君がねぇ、……まぁ、なんだかんだで、カズトに似て、お人好しだからね」

 ……俺の方を見て笑うなよ。


「……仲間……」

 後ろでボブが呟く。


 ……ボブはボブなんだが。



 外に出ると、空が赤くなり始めている。


「さて、帰るぞ! 頼んだぞ、落内」


「待って!」

『待てって!』

「ちょっと! 僕は違うでしょ!」



 賢人、ナキ、ついでにノセは、悲鳴とキラキラと言う、特別なスキルを発動した。


「「『ゔおぉぉどぉぉおぉぉぉ』」」


「……ねぇカズト、隣の車が酷い事に」

「見ちゃいけません」


 

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