第54話 紫のピアスと中年

賢人side


「何も五層からじゃなくてもいいんじゃない?」


「連携の練習だからこっからでいいの、弱いのから順に行かないと余裕が持てないでしょ?」


「あんま師匠に文句言うなよ、俺らが弱いのはお前も分かってんだろ」


「おめぇよりマシだけどな!」


「てめぇ! やんのかこら!」

 馬鹿ボブはいつになくピリピリしている。


「2人とも辞めろ、回復魔法の上がないのは知ってるな? 多分、蘇生魔法だろうが、ないだろう。この意味はわかるよな?」


「「はい」」


「俺は今カズトさんに任されてる。生き残れるようになる為に、だから本気でやれ!」


「「「はい!」」」


 それからは地獄だった。

 俺はスピードに重点を置いて、全体の把握の強化。ボブはガードと受け流しの強化。ノセは体力作り。少しでも気を抜けば、ウィンドアローが飛んでくる。


 スパルタモッチーはやばい。


 でもいい経験にはなった。


 念話も使用し、連携も高められレベルも上がった。


 まだ足手まといだが、強くなってるのが分かるのは嬉しい。


「カズトさんから念話でそろそろ帰ろうってさ」


 最後に二十五層に行ったがまだ復活していなかった、最後は締まらなかったな。


 外に出ると、

「ボブ……賢人……もうちょいゆっくり」


「お前が一番楽なんだよ!」


「この肥満児が! 筋トレくらいでヒィヒィ言うな! 痩せろ!」

 とゾンビの様な動きのノセを引っ張りハウスに帰る。


「イヒィイィィィ! やめて! 歩くから引っ張らない、イ、イヒィイィィィ!」


 面白いから、ボブと交互に引っ張って帰る。


「イヒィイィィィ!」


 ……ウケる。



 カズトside


 若返りの妙薬、一瓶で10歳若返る。


 美羽と相談してやはりお父さんとお母さんに半分づつ飲んで貰おうという事になった。


「いらん!」

「私もいいかなー」

 と思わぬ答えが、


「僕らは、お父さん達に長生きして欲しいんですよ」


「私も一緒の思いだよ」


 とお父さん達にお願いするも、取り合ってもらえず、お父さんは出て行ってしまった。



「私達は充分満足してるの。子供達も結婚して、今世界がこんな状況なのに、貴方達のお陰で生きてるのが楽しいのよ」

 と微笑みながら語りかけてくる。


「カズトさん、貴方はこれからとても大変だと思うわ。病気になってから、美羽から他人が嫌いになってしまったって聞いたけど、ここにいる人を守るだけじゃなく、自分の見える範囲を助けようとしている」


 俺はまったくそんなつもりはない、他人なんかどうでもいい。


「ほらまた、悲しい顔してる、貴方は真面目。私達なんかよりずっと。お父さんも私も、美羽のお婿さんが、カズトさんで本当に良かったと思ってるの。

 それにそんな薬が無くても、前より凄い元気なのよ! いつもどこか痛かったのに痛くないし、老眼も治って老眼鏡なんて捨てちゃったわ! だからそれを飲むのは貴方よ!」


 俺? いやまだ35だし……


「まだ働き盛りの年齢だけど、貴方にはこれからがある。出来れば美羽と半分ずつ飲んで一緒に年を取って欲しいけどね」


「んだ! お前らが飲め!」

 とお父さんが帰って来た。


「俺が5歳若返ってもなんも変わんねーべ」


「でも「人間なんていつ死ぬか分かんねーぞ! 俺より若い奴がポックリ逝くなんて幾らでもある! ならいまダンジョンで頑張ってるお前が飲め!」」


 いまお父さんに言っても分かって貰えないな。


「分かりました、では後日「ダメだ! いま飲め! お前のことだから、後でまた話すつもりだろ? だからダメだ!」」

 お父さんはいつもの座椅子に腰掛けて、腕を組んでいる。


「お母さんも2人に飲んで欲しいわ。それは飲んで、また見つかったら、今度は私達に頂戴」


「そらいいべ、カズトが若返って、もっとダンジョンからもって帰ってくればいいべ」


「カズト、あれはもう聞かないわよ」


「分かったよ、分かりました! 今度取ってきたら絶対に飲んで下さいね!」


 と蓋を開けて半分飲み、美羽に渡すと美羽も残りを飲み干す。


 途端に眠気が襲ってきて2人ともその場に倒れた。



 目を覚ますと、


「お父さん家の天井だ」


 美羽は先に起きているようだ。

 ステータスを見ると年齢が30になっているが変わった感じはしない。


 まぁ5歳程度でなにかを感じることもないだろう。


「おはようございます」


「あ、起きたね! 私もさっき起きたばっかり」

 美羽がスペースを空けるので、そこに座る。


「あれはダンジョンで飲んだらダメな奴だな」


「だね、年齢みた? ちゃんと5歳若返ってたね」


「あぁ、どれくらい寝てたんですか?」

 とお母さんに聞くと20分くらいらしい。


 美羽をみても余り変わってないな。


「カズトついでに髪切っちゃえば? 賢人くんに頼んで」


 前髪を触りながら

「だな、久しぶりに切って貰ってくるよ」


 賢人のハウスに向かう、


「兄ちゃんどーした? てかさっきより顔色いいね!」

 リビングでソファーに座って、


「おう、5歳若返ったからな! 久しぶりに髪切ってよ」


「若返りの薬? お父さんたち飲まなかったの?」

 コーヒーを入れながら賢人が聞いてくる。


「また探してきたら飲むってさ、俺らが飲んだ方が探せるだろーって」


「そっか、んじゃ切ろうか、準備するけどいつも通りお任せでいいよね?」


「……普通でな」




「いいじゃん! 元のカズトだ! チャラい!」

 美羽は嬉しそうだな。

 

「うん、色もいい感じ! 明るすぎないし落ち着いたアッシュ系だし似合ってるよ」

 普通で良かったのだよ、賢人くん。


「兄さんが帰ってきだぁ! おで、おで!」

 とボブが泣いている。


「でなんで俺と一個違いなんですか? 俺もう29で、もうすぐ30なんですけど」

 とモッチー。


「賢人、俺は普通でといったんだが……」


「ん?普通のツーブロックのショートで、兄ちゃん癖っ毛だから動きが出るようにした感じ?」


 んー、そう言われればそうなんだけど、元が伸びっぱなしロン毛だったからなぁ。 

 髭も剃ったし。


 アンコとマロンが固まってるから頭を撫でてやると走ってハウスに逃げてしまった。


 まー慣れて貰うしかないわな。


「兄さんに似合うと思って作ってたんですが、貰ってくれますか?」

 とノセが筋肉痛のプルプルした手でピアスを渡してきた。


シンプルな紫色のガラスの入ったピアスだ。


そーいえば昔、紫色が好きでよくピアスは紫のばっかだったな……覚えてくれてたのか。


「おう! ありがとう、ってか穴空いてるかな? お、通った……どうよ? 似合う?」


「似合います! やっぱ兄さんは紫のピアスじゃないと!」

 とノセも泣き出した。


 ……涙腺がヤバイ。


「みんな! ありがとうな!」

 と最後の気合いで声だしてハウスに戻った。


 あとのみんなはまだワイワイしてるけど、病気になってから始めて髪切って皆んなの顔ちゃんと見れて、最高に嬉しい一日だった!!



 あ、みんな集めて話しないと、……何処でやろうかなぁ。

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