23話目、氷の街

 空飛ぶ絨毯によって、移動できる範囲が広がった。なのでやるべきことがある。今まで取れなかったアイテムの回収だ。


 俺は空飛ぶ絨毯を使い、いろいろな場所へ行った。険しい崖の上、湖の真ん中にある謎の陸地や滝の上。そういったところにある宝を回収していく。


 その時、あるアイテムを手に入れた。一見するとただの石だが、この石にはすごい特徴がある。持っていた手を空中で放しても、その場所に留まり浮くのだ。この石は無重力の石という。


 今はなんの役にも立たないが、後で重要な役割を果たす。大切に持っておこう。


 さて、次の街に進むか。




 俺たちは、雪でふさがれた道の上を空飛ぶ絨毯で飛んでいた。上空から下を眺めると、一面白銀の世界だ。真っ白な雪が、すべてを覆いつくしてしまっている。徒歩でもなんとか超えられる道ではあるが、空飛ぶ絨毯がなければ移動にはかなり時間がかかっただろう。


 それにしても寒い。ただでさえ気温が低いのに、何も防ぐものがない状態で上空を高速で飛んでいるからだ。


 確か、気温は高度が100m上がるごとに0.6度ずつ下がる。今俺たちは地上から数百m上空を飛んでいる。地上より気温が2.3度は低いだろう。さらに、空飛ぶ絨毯は車のように周囲が覆われていない。高速での移動による強風を無防備に浴び続けることになる。これがめちゃめちゃきつい。


 しかし、そんなきつい思いをしているのは俺だけのようだった。


 一緒に絨毯に乗っているマールとサキさんは、これほどの寒さなのにほぼ裸のようなビキニアーマー姿だ。それなのに寒そうな様子はない。ビキニアーマーによる冷気を防ぐ効果よるものだ。まさか戦闘以外にこんな効果があるとは。


「ムラト、大丈夫?」

「な、なんとか……」

「あたためてあげるね、えい」


 突然、サキさんが左側から抱きしめてきてくれた。俺は宵闇の服の上に防寒着を着こんでいるのであまり感触は感じられないが、それでもかすかなぬくもりがある気がする。


 それに、サキさんの大きな胸の膨らみが俺の左腕に当たっているのが見える。感触はあまり感じられないが、それを見ているだけでなんだか内側から熱くなってくる。


「こら、むやみに女性が男にくっつくんじゃない」

「いいじゃない別に。かわいそうだよ?」

「……もう街が見える。もうすぐだから寒さにも耐えられるはずだ」


 そういって、マールがサキさんを引き離してしまった。もう少しくっついていてほしかったが仕方ない。もう街についたしな。




 俺たちは王都アルディアからかなり北にある街、ダイヤノースについた。この街に魔王の手下が起こしたある問題が起こっているはず。それを解決しにやってきたのだ。


 街についたが、まるで人の気配がしない。生活音が全く聞こえないのだ。

 それに気が付きサキさんがつぶやく。


「不思議、まるで無人の街みたい」

「本当だな、寒いから外に人がいないのは分かるが、それにしても話声や生活音くらいは聞こえるはずだが」

「あっ、あそこに人がいるよ」


 俺たち3人は人影を見つけて近づく。しかし、奇妙なことに気が付いた。その人影はその場から少しも動かないのだ。何かに気が付いたマールが驚く。


「な! こ、凍っている!」

「やはりか」

「どういうことだ、ムラト」

「魔王の手下のせいだ。とりあえず元凶を探そう。この街のどこかにいるはずだ」




 街を探し回ると、すぐに元凶を見つけた。ペンギンに姿が似ている魔物、名前はペンギーという。そいつは黄色いフレームのメガネをかけて、街の中で倒れていた。どうやらこいつも凍っているようだ。それを見てマールが言う。


「こいつが元凶? こいつ自身も凍っているじゃないか」

「こいつは妖精の力を悪用しようとしたんだ」

「妖精? そんなのいるのか?」

「でなければ街中が凍るなんてことが起こると思うか?」

「こいつの魔法……とか?」


 マールは自信なさげに言った。


「こいつはそんな強力な魔法は使えない。それに自身も凍るような魔法を普通使うか?」

「それもそうか」

「こいつは強力な妖精の力を悪用しようとしたんだ。そのために妖精を連れ去った。で、それに気が付いた妖精の主、氷の女王が怒り狂ってこの辺にいる生物をみんな凍らせてしまったのさ」

「どうすれば氷の女王は怒りを納めてくれるんだ?」

「とりあえずこいつが連れ去った妖精を探そう」

「どうやって?」

「これを使うのさ」


 俺はペンギーが掛けていたメガネを力ずくで引っぺがす。凍り付いて皮膚にくっついていたようだ。


 このメガネは妖精のメガネ。掛けると妖精の姿が見えるようになる。


 実はこんなものを使わなくても、心の純真な人なら妖精の姿が見えるらしいのだが、俺はそんなに純真な自信はない。メガネの力を借りよう。俺は指輪を外し、メガネをかけた。すると、マールがせかすように言う。


「早く妖精を探そう」

「いや、その前にやることがある」

「なんだ?」

「先にこいつをやってしまおう」


 俺は毎回思っていたのだ。今のうちにこのペンギーをやっつけてしまえばいいのにと。


 このまま妖精を捕まえて氷の女王に返すと、この街の住人と一緒に元凶であるこの魔物も復活してしまう。そして、そのあと戦うことになってしまう。


 凍ってるうちに倒しておけば楽なのに。ゲームをやっているとき、毎回そう思っていた。

 

 俺は凍っている魔物を何度も切りつける。

 カシャ、カシャ、と氷を削る音が鳴る。しかし全然割れない。


 硬い。


 普通の氷ではないのだろう。そもそも普通の氷なら、凍った時点で住人たちは死んでいる。氷の女王が怒りを納めると治るということは、普通の氷とは全く別物だと考えるべきか。


 困ったな、このままじゃ倒せそうにない。だからゲームの時もこいつをそのままにして先に進んだのだろうか? うーん、どうしようか。諦めるか?


 しかしそこで良いことを思いついた。ペンギーを空飛ぶ絨毯の上に乗せる。そして少し離れたところにある崖の上まで飛ぶ。


 この崖に、この魔物を紐で括り付けておこう。氷に引っ掛けて結んでおけば、氷の女王に住民たちを元に戻してもらった時、氷が解けてこいつは崖下に真っ逆さまだ。俺は凍ったペンギーに声をかける。


「じゃあな、ペンギー。ご先祖様と同じように空を飛べると良いな」


 さて、妖精を探しますか。

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