22話目、覚醒イベント
空飛ぶ絨毯――
太陽の光をエネルギーにして、空を自由に飛ぶことができる不思議な乗り物だ。風が強い場所では飛ぶことができず、海を越えて他の大陸に行くこともできないが。
ゲームの時は海に出ようとすると、危険なのでこれ以上先には進めませんとメッセージウインドウが出ていたが、この世界なら海も空飛ぶ絨毯で突破できるだろうか?
危ないからやらない方が無難か?
というのも、空飛ぶ絨毯は雨が降っていると飛ぶことができず、夜も飛べない。太陽の光をエネルギーにして飛んでいるからだ。なので、もし海に出てから雨が降ったり、海を渡りきる前に夜になってしまったら海に落ちてしまい、遭難することになってしまう。
ゲームの時と同じように、海は船で渡った方が無難だろう。
そのため他の大陸に渡ることはできず、世界中を自由に移動ということはまだできないが、それでも空飛ぶ絨毯で行動範囲は大きく広がる。
まずは空飛ぶ絨毯を使って、サキさんの覚醒イベントを終わらせようと思う。
サキさんの覚醒イベントは、彼女の生い立ちを掘り下げるイベントだ。サキさんの両親がかつて住んでいた村に行き、過去に何があったのかを探っていく。
サキさんの母親は、実は魔物の血を引いている。
人型の魔物は、時に人を犯す。そしてたまに生まれてしまうのだ。魔物の血を引いた人間というものが。
魔物の血を引いていたため、サキさんの母親は迫害されていた。それでも村の片隅で親子3人でなんとか静かに暮らしていたのだが、ある時サキさんが魔物の力を使ってしまい、悪魔の子と呼ばれて殺されそうになってしまう。母親はそれをかばい、村人たちに殺されてしまった。
その後父と二人でサキさんは今のトルース村に移り住む。しかし、父も病で亡くなってしまう。そして村の隅で一人で生きていくようになる。
こういう話を、かつてサキさんの両親が住んでいた村やトルース村で聞いていく。そして最後にサキさんの母親のお墓の場所が判明する。そこに行くとサキさんの能力が覚醒するというわけだ。
俺はこの重い話を聞いていくのは嫌だし、もうサキさんの母親のお墓がどこにあるのか知っている。なので話は聞かずにさっさとお墓に行こうと思う。
「サキさん、少しいいですか?」
「なあに?」
「少し出かけませんか?」
「二人で?」
「ええ」
マールには少し家で待ってもらうことにした。3人で行くこともないだろう。俺はマールに魔法袋から空飛ぶ絨毯を出してもらう。その時なぜか、異様に不機嫌だった。なぜだろう?
不機嫌なマールを家に置き、俺とサキさんは空飛ぶ絨毯に乗る。母親の墓はこのすぐ近くにある。
トルース村の北にある崖を空飛ぶ絨毯で登っていく。サキさんの父親は、迫害されていた母親の墓が村人などに壊されたりしないように、わざとこんな険しい崖の上にお墓を作ったらしい。
崖の上につく。少し離れた場所にお墓が見える。
「ムラト、ここは……?」
「サキさんの母親のお墓です」
「え……?」
「久しぶりに、母親に会いたくはありませんか?」
「ムラトは知っているの? 私の事、私の母親の事」
「……はい」
「そう」
サキさんは少しうつむき、お墓に向かって歩いて行った。俺は、ここで待つことにする。
彼女はお墓の前でひざまずき、目を閉じる。そして、なにか言葉をかけたように見えた。俺はサキさんと母親の会話が終わるのを、ここでゆっくり待つことにした。
しばらくすると、サキさんが立ち上がる。
その時、俺は目を疑った。黒髪の優しそうな女性がサキさんの前に立っているように見えたからだ。その女性はゆっくりと彼女を抱きしめ、そして消えていく。
その後ゆっくりと歩き、サキさんは俺のところまで戻ってきた。
「ムラトは私の事、知っているんだよね?」
「はい」
俺が答えると、サキさんの姿が突然変化していく。服装が黒いレザーのような布地で体の大事なところだけ覆う扇情的な物に変わり、黒い翼としっぽが生える。そして、肌の色が青白くなっていく。
サキさんの覚醒能力、サキュバスモードだ。
サキュバスモードとは、一時的にサキュバスになることでステータスが上がり、さらに専用技が使えるようになる状態だ。一日一回、一戦闘でしか使えないが、強力な能力だ。
サキさんはこの魔物の力を、今まで自ら封じていた。その封印を解いたのだろう。
「……こんな私でも、嫌わずにいてくれる?」
「もちろんです。サキさんはサキさんですよ」
「ありがとう」
サキさんは、そっと俺を抱きしめた。俺も抱き返す。
俺たちはしばらくそうしていたのだった。
しばらく待っていたが、サキさんのサキュバスモードが終わらない。一戦闘ってどのくらいの長さだ……? そのうち元に戻るとは思うのだが。
仕方ないので、他の村人たちに見られないようにしながらサキさんの家に帰る。
家の中に入る。すると、サキさんの姿を見たマールが剣を抜いた。
俺は驚いた、勇者が剣を抜くなんて。油断していた、魔物はそれほどまでに受け入れられないものなのか。
「よせ!!」
「サキさん……魔物だったのか」
「そう、私は魔物の血を継いでいる。切るの?」
「……切れない、切れないよ!!」
サキさんは無防備に手を広げて、切られるのを待っているように見えた。しかし、マールは剣を置く。そして、二人は抱き合った。
二人はしばらく抱き合っていたが、そっと離れた。何はともあれ、これで一件落着か。
その時、偶然サキさんと目が合った。
「はあ、はあ、はあ」
「サキさん、どうしました?」
サキさんが突然胸を抑え息を荒げる。そして俺に飛び掛かってきた。
「うわ、ちょ、ちょっとまって」
「ムラトごめんね。私、がまんできなくなっちゃった」
「がまんって、なにを!?」
「そういえばお母さん、この力を使うとすごくムラムラするって言ってたかも」
「え!?」
サキさんは俺の服を脱がしにかかる。俺は抵抗するが、サキさんの力は強い。どんどん脱がされていく。しかし、あわやというところでマールがサキさんを羽交い絞めにする。
「マールちゃん、邪魔しないで! それとも3人でする?」
「なっ!? 3人で!? するかー!?」
マールは顔を真っ赤にして怒鳴ったのだった。
こうしてサキさんの覚醒イベントは終わった。
サキュバスモードを使うとムラムラするなんて、そんなデメリット知らなかった。FQは全年齢用だから表現されなかったのだろうか?
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