雨ノ雫 〜Alieno Historia〜
小桜 丸
診断書
「ハローハロー、元気かな?」
"……"は朦朧とした意識の中で、その声を聴いた。記憶から辿るに、この声に聞き覚えはないと"……"は早々に確信をする。
「この声が聞こえているのなら、今からあなたの性格を診断するよ?」
突然始まった性格診断。
"……"は不思議とその診断に嫌気は覚えず、すんなりと答える準備をしてしまう。
「まずあなたは男? それとも女?」
自分の性別。
すぐに答えられるはずの質問に対して、何故かよく考えてみる。しかし女だという自覚はどれだけ考えてもなかったため、しばらくすると"男だ"とその声に返答した。
「そうなんだー。じゃあ二つ目…"あなたの趣味は?"」
趣味と聞かれた"彼"の頭の中にはいくつかの選択肢が生まれる。一つ目は運動、二つ目は読書、三つ目は人助け、四つ目は何もない…だ。彼は取り敢えず"読書が趣味だ"と回答した。
「ふーん、じゃあ三つ目の質問ね? "あなたはヒーローか悪役だとどちらになりたい?"」
ヒーローか悪役。
先ほどの趣味を尋ねる質問とはまるでジャンルが違う質問。それでも彼は頭の中に再び四つの選択肢を生み出す。一つ目は悪役、二つ目はヒーロー、三つめはどちらにもなりたくない、四つ目は両立したいというもの。彼は少しだけ考え、"両立したい"と回答する。
「なるほどなるほど…じゃあ四つ目の質問ですー! "あなたは現実と夢をどちらか一つ選ぶのならどちらを選ぶ?"」
好きなように理想を描ける夢と、努力をしなければ生きていけない現実。彼の中では、一つ目に夢、二つ目に現実、三つ目にあやふやな世界、四つ目に分からないという選択肢が生まれ、"現実だ"と回答した。
「まだまだ行くよー? 五つ目は…"あなたは生きるために何が必要だと思う?"」
生きていくために必要なもの。
彼は意識をせずとも自然に選択肢が四つほど頭の中に浮かび上がる。一つ目は仲間、二つ目は財産、三つ目は力、四つ目は知識。彼はそこだけ現実的な考えを持っていたため、"力だ"と答えた。
「そっかー。それじゃあ次に六つ目…"これだけは誰にも負けないっていう特技は?"」
誰にも劣らない特技。
そのようなものはあいにく持っていないと回答しようとしたが、不思議なことに再び頭の中で四つの選択肢がどこからともなく生まれてしまう。一つ目は勉強、二つ目はスポーツ、三つ目は喧嘩、四つ目は料理。彼は勉強が得意だったことを思い出し、"勉強だ"と回答する。
「ふむふむ…。よーしこれで最後の質問だよー! "あなたはこの世界にとってどんな存在だと思う?"」
自分がどのような存在か。
彼はそれだけは深く考えても、脳内に二つしか選択肢が出てこなかった。一つ目は善を成す存在、二つ目は悪を成す存在。彼はどちらかを答えないといけないと迷った挙句、"善を成す存在"だと回答する。
「…あはは! うんうんそうだよねー」
声の主は無邪気な笑い声を上げて、彼に診断の結果をこう告げた。
「あなたは"万能型"だねー。身体能力も知性も"創造力"も…何もかも高みへと成長するタイプだよ。良かったね、これで少しは生きやすいでしょ?」
褒められているのに彼は声が出せなくなってしまう。
何故出せなくなったのかと身体を動かそうとするが、まったく動かない。
「安心して、あなたの記憶はすぐに消えちゃうけど残り続ける。ここで診断したのはあなたがどんな人かを"傍観者"に伝えるためだから」
徐々に彼は意識が遠のいていく。
鮮明に聞こえていた声もかすれかすれで、何を喋っているのか分からない。
「…を……してね」
ただ最後に唯一ハッキリと聞こえてきたのは、
「――私は、待ってるから」
彼に期待をする。
そんな淡い言葉だった。
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