13:3 魂喰らい


「っ…チートすぎんだろ…!」


 レインとリベロは数分も経たずに、アニマとペルソナによって立てなくなるまで滅多打ちにされた。埋められない実力の差。それを思い知らされ、二人は表情を険しくさせる。

 

「アニマ、ペルソナ。ノアとルナの"魂"はちゃんと摘出しているんだろうね?」

「俺はしっかりと回収している。…コイツは分からないがな」

「回収してるよ。あなたは私のことを誰だと思っているの?」


 ペルソナとアニマが睨み合う。その二人の片手には、実体化させられた"黒色の霊魂"と"白色の霊魂"が握られていた。


「…あれがノアとルナの"魂"?」

「おいおい、どういう原理だよ…」

「ああそうだった。私は君たちに大事なことを話し忘れていたよ」

  

 ゼルチュがペルソナとアニマに何か指示を下すと、一つずつ握られていた黒色の霊魂と白色の霊魂の数が、七つに分裂をする。


「初代から七代目までの救世主と教皇の戦いに、決着はついていなかっただろう? どれもがすべて引き分け。歴史上ではそう記録されているかもしれないが…」

「…まさか」

「そう、そのまさかだ。あの記録は私が都合よく塗りつぶしただけ。今までの救世主や教皇の行方が知れないのは、ここにある十四の"魂"を見れば、察しのいい君たちにも理由が分かるだろう?」


 二代目、三代目、四代目…。末永く受け継がれてきた救世主と教皇の称号。それらを与えられた者たちは、民の知らぬところでアニマとペルソナに殺されていたのだ。レインとリベロはその真実に気が付けば、ゼルチュをきつく睨みつける。

 

「…あなたは自分の為に、この戦争を長引かせていたの?」

「そうだ。私の研究には彼、彼女らの素晴らしい魂が必要だった。その時代を象徴する救世主と教皇の魂。それがいくつも集まれば、より確実に絶対的な支配者を創り出すことができるだろう」

「お前は、真のド畜生だ。平気で人殺して、平気な顔でそこに立ってられるのが…信じられないぜ」


 アニマとは七つの黒の霊魂を、ペルソナは七つの白の霊魂を自分の身体に取り込む。その中には妲己と、レインの義理の兄である小泉翔のものも含まれている。だからこそ彼女は、兄は一体何のために殺されたのかと苦しそうな表情で歯軋りをした。


「私はこの二人に魂喰らいソウルイーターの能力を与えた。殺した相手の魂を自身に取り込める――とても優秀な力を」


 魂喰らいソウルイーター。殺した相手の魂を自分自身に取り込み、その力を扱えるようになる能力。アニマとペルソナは、今まで殺してきた救世主や教皇の魂をすべて自分の中で保管をし続けていた。

 

「七代目の二人は、私のその計画に気が付いてしまった。まさかレーヴ・ダウンとナイトメアの兵士たちを、このエデンの園に連れてくるとは思わなかったが…。私のクローンの敵じゃなかったね」

「じゃあ、兄さんや妲己が私たちを殺そうとしたのは…」

「私のクローンと君たちが殺し合いをすれば、貴重な戦闘データなどが収集される。Noel Projectを完遂させるためには必要なものだ。つまり、君たちを生かしておくこと自体が私の手助けとなる。七代目たちがあのような行動に出たのは、それが理由のようだ」


 "これしか方法が無いんだ"。そう述べていた小泉翔と妲己は、決して軽々しい考えの上で、横暴な手段に出たわけではない。あの二人はエデンの園で殺し合う"生徒"ではなく、Noel Projectによって滅びかねる"世界"を救うことにしたのだ。"人間の命"よりも、"世界"を選んだだけのこと。


「残念なことにそれは叶わなかったね。君たちも私に協力してくれたおかげで、あの邪魔者たちを片付けることができた。この件に関しては、感謝させてもらおうか」 


 ゼルチュがにこやかに、レインとリベロへ感謝の言葉を口に出す。その最中、玉座の前の床が左右に開き、一つのカプセルがゆっくりと上昇しつつ姿を見せる。


「さて、君たちはここまでよく生き残れた。その褒美としてNoel Projectが完遂する瞬間はどんなものなのか…。それを教えてあげよう」

「あれは、ノエル…?」


 そのカプセルの内部には、ノエルが静かに眠らされている状態で入れられていた。


「ノエルは"器"だ。新たな世界の、新たな支配者となるための"器"」

「は…? ノエルが器だって?」

「アニマとペルソナの遺伝子を組み合わせた究極の器。この中に救世主や教皇たちの魂を吹き込めば――この世界を統べる者、"Noel"が降り立つ。だが、最後に足りないものがある――」


 カプセルの左側に立つアニマ、右側に立つペルソナが黒色の大鎌と二丁拳銃を構える。その目標は明らかにレインとリベロだった。


「――君たちの魂だ」

「…私たちの"魂"?」

「君たちは八代目救世主に、八代目教皇さ。ここまで辿り着いた君たちはその称号に相応しい」


 こんな下らない欲望の為に、殺し合っていたのか。こんな無駄な計画の為に、強くなってみせたのか。あっさりと与えられた救世主と教皇の称号に怒りが芽生え、二人は足元に落ちている刀と大剣をそれぞれ握りしめ、何とか立ち上がってみせる。


「ふざっ…けんな…! オレたちはお前のために戦ってきたんじゃねぇぞ…!」

「私たちは、仲間と約束をした…! 戦争を、終わらせるって!」


 レインは青色の闘気を、リベロは赤色の闘気を身に纏った。


「厄介な二人組だ」


 "変化"。それはとても難しい行為である。自分では変われたと確信しても、他者から見れば然程変わっていない、と思われるのが日常茶飯事だ。だからこそ変化するという行為は、誰しもが頭を悩ませる難しい所業。


「明らかに変わったね」


 だがしかし、それを仮に他者へと感じさせた時があるのであれば――


「「――創造形態」」


 ――それは本当に、自分が変われた時だろう。


「ほぉ、P型への成長か…。君たちにはやはり救世主と教皇の素質がある」


 青色の闘気がレインの身体に吸収され、赤色の闘気がリベロの身体に吸収される。AA型だったレインが、BA型だったリベロが、"完璧"と称されるP型へと成長を果たした。


「あの生意気なやつは私が相手するよ」

「ルナか」

「なら俺はあいつか」

「…ノア」


 誰が先手を打つのか。そんなことを誰も考えず、四人はほぼ同時に地を蹴って、一対一で創造武器を衝突させた。アニマの黒色の大鎌をリベロの大剣が受け止め、ペルソナの二丁拳銃の弾丸を、レインが刀で斬り落とす。


「勝ち目も無いのに、よく勝負を挑めるな」

「…どんなに強い相手にだって、ノアは必ず立ち向かっていた。だから私もあなたに立ち向かう」

「あなたが私と対等に戦うなんて無理だよ?」

「これが無理ゲーかどうかは…。プレイしてみないと分からないぜ、ルナ」

 

 永遠の二番手が、一番手を超える戦い。その火蓋が、たった今切られた。














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