September

6:1 決戦前日

 それから時は流れ、九月の殺し合い週間前日を迎える。最後の作戦確認として授業終わりの昼頃、俺の部屋には赤の果実のメンバーたちが集合をしていた。


「グラヴィス。アレを皆に渡してくれ」

「うん、分かった」


 俺はグラヴィスに頼んでおいたものを手渡すよう指示をする。小型の段ボールから取り出したものは白と黒の二色で別れた片耳のヘッドセット型無線機。救世主側は白色のもの、教皇側は黒色のものをそれぞれ一つずつメンバーたちに手渡した。


「これは無線機ですか?」

「ああ、グラヴィスと俺で戦闘の邪魔にならない程度に最低限まで軽量化させたものだ」


 一般的な無線機からヘッドセット型の無線機へと改造を施したもの。

 これを開発するのにグラヴィスと何度も話し合い、二週間ほどの時間を費やした。グラヴィスにこの時代の知識を教えてもらいながら試行錯誤を繰り返して完成させた一品だ。


「すごい…! さすがグラヴィス君!」

「そ、そうかな…?」

  

 ファルサに褒められたグラヴィスは照れながらもヘッドセット型の無線機の使い方の説明を始めた。


「えっと…とりあえずそれを一度付けてみて」

「ねぇー? わたしの分はー?」

「ステラは教室でお留守番だからな。無線機なんて必要ないだろう」

「むぅー…」 

  

 俺がステラにそう伝えると納得いかない表情でその場に仰向けで寝てしまう。実力がどうやっても伴わないステラはこのBクラスとの戦いに参加させない方がいいと俺たちは考えていた。その理由は彼女を下手に参加をさせれば、彼女は故意でなくても必ず足を引っ張ってしまうからだ。

 

「付けたらヘッドセットの耳元らへんにあるボタンを押して電源を入れるんだ」


 言われた通り各々ボタンを押すと、白色のヘッドセットは青い光を、黒色のヘッドセットは赤色の光を放ち始める。


「喋るときは電源ボタンの下にあるボタンを押せば皆の無線機に連絡ができるよ」


 試しにルナがボタンを押しながら「やっほ~」と喋りかけてみれば、ヘッドセットからルナの声がほぼ同時に聞こえてきた。


「おー! ラグがないのかー」

「ああ、ジュエルペイを解剖して中身に取り付けられている最新のシステムを丸パクリしたからな」

 

 ジュエルペイは個人の創造力を探知するパーツが取り付けられている。俺たちはそれを量産し、動力を同じように創造力へと変更した。そしてジュエルペイを管理している周波数と同じ周波数へと接続をしたことで、僅かな遅延も無くすことに成功したのだ。


「だから僕とノアくんでこのヘッドセット型の無線機のことを『ジュエルコネクト』って呼ぶことにしたんだ」

「…ジュエルコネクトって。申し訳ない程度に原型の名前を入れたの?」

「ネーミングについてはノーコメントだ」

 

 俺はレインにそれ以上の発言を拒否する。

 原型であるジュエルペイの"ジュエル"に加えて、繋げるという意味を持たせるための"コネクト"という単語。何とも安直なのかもしれないが、これぐらい簡単な方が覚えやすいだろう。


「これで殺し合い週間中に連絡を取り合う。短期決戦で片を付けたいが長引く可能性もあるからな。近況を随時報告をしてくれ」


 戦いの準備は整った。俺たちは全体で確認を終えると、殺し合い週間前に仮眠を取るため各々部屋へと帰っていく。


「ノアお兄ちゃんたち…またいなくなっちゃうの?」


 殺し合い週間中はノエルを一人で家へと置くことになる。俺とルナは一人でも生活が出来るように、ノエルへと色々教え込んでいた。それでも不安が募っているようで、俺たちにそう声を掛けてくる。

  

「ごめんね~? 帰ってきたら沢山遊んであげるから~」

「ほんとに…?」 

「心配するな。俺たちは必ず帰ってくるよ」


 "全員"で必ず帰ってくる。

 俺は心の中でノエルに強く誓って、ルナと顔を見合わせた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「ZクラスとBクラスの殺し合い、数時間後には始まるぞ」

 

 Sクラスの教室で七つの大罪・七元徳のメンバーが集っている中、白色の制服を着たミリタスが見渡しながら何かを求めるかのようにそう言った。


「…Bクラスの援護として誰が行くか。そろそろおれたちで決めないといけないな」


 Zクラスを排除するためにBクラスの援護が必要だ。

 黒色の制服を着たスロースはミリタスを見ながら、同じように周囲を見渡す。


「僕が行こうか?」

「あんたは無理よ。私が行くわ」

「おいおい、最強のオレの出番じゃないのか?」


 名乗り出るエンヴィーにストリアとグリードが食ってかかった。こんなことに時間を掛けている場合ではないと、プリーデが自身に注目を向かせるために二度拍手をする。


「ノアとルナ、あの二人はとてつもなく強い。ここは確実に安定して戦える人物二人の方がいいだろう」

「一対一ということやな。ならわいが…」

「お前でも無理だよ"単細胞"。私がやる」

「おおん!? なんやて!?」


 その挑発に乗ったラースがエンティアへと掴みかかった…が、それをミリタスは間に入って静止させた。


「プリーデの言う通り、あの二人は強者だ。ならば七つの大罪からはプリーデが、七元徳からは俺が出よう」


 プリーデとミリタス。

 この二人は七つの大罪・七元徳の中で最も強いと讃えられている二人組。そんな二人に文句を言いたげな人物も多少なりともいたが、それを言葉に出すことはなかった。 


「私たちは何をしていればいいの?」

「この教室でいつも通り時間でも潰していればいいさ」

「また暇になるのかぁ…」


 ラウストにプリーデがそう返答すれば、デュアルは退屈そうに机へ伏せてしまう。エデンの園が襲撃を受けたあの日以来、彼女らは一度も交戦をしていない。普通ならばさぞかし平和な日々、しかし彼女たちにとってそれはあまりにもつまらなさすぎた。


「ミリタス、勝算のほどは?」

「俺の心配よりも相手の心配をするべきだ」 

「まぁ、頼もしいですわ」


 アンティアに胸を張ってそう答えたミリタス。彼の頭の中で悪を滅することだけを考えている。何故ならミリタスは常に自信の信じる正義をかざして、目の前に現れる悪を打ちのめしてきたからだ。 


「プリーデくんは大丈夫なの?」

「あぁ、これぐらいどうってことない」

「わたしも行きたかったなぁ…」

「デュアルはこのクラスの砦だ。そう簡単に戦おうとしないでくれ」


 片手にアイスクリームを持ったグラトニーへプリーデはそう言葉を返した。そんな二人を他所にデュアルがぶつぶつと文句を述べている声が聞こえ、プリーデは彼女の元まで歩み寄りそう声を掛ける。


「でもわたしなら"一人"であの二人を抑えられるよ? そっちの方がコスト削減だと思わない?」

「コスト削減するのにもタイミングってものがあるんだ」

「そのタイミングはいつ来るの?」

「…いつかだ」

 

 殺し合い週間が始まるまで残り数時間―――時計の針は止まらない。

  

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