6:2 第四殺し合い週間『開幕』

「…わざわざそっちから殺されに来てくれるとはな」


 第四回殺し合い週間が始まるまで残り十分程度。

 ノアたちはBクラスの教室がある三階まで足を運んでいた。


「俺たちはこの時を待ちわびていた。お前たちを殺せるこの日を」


 ディザイア・フール・ワイルド・ネクロ・デュラン。敵となる五人はノアたちと向かい合う。二ヶ月前よりもレインたちが鍛え上げられていることにディザイアたちもその気迫で勘付いていた。


「無理だ」

「…何?」

「お前たち"程度"じゃ俺たちは殺せない」


 余裕綽々なディザイアにノアはそう言い放つ。

 彼が強気に出たことで、ディザイアたちの警戒心もより強まった。緊迫感が空気中に混じり合い、どちら側も一ミリたりとも身体を動かそうとしない。



「「……」」


 

 そこからお互いに何も言葉を発しなくなった。

 静けさに包まれる中、Bクラスの教室から秒針の音がはっきりと聞こえてくる。刻一刻と過ぎる時間、それを噛みしめながらひたすらにその時を待つ。


「赤の果実、必ずこの世界を平和に…」

「お前たちが救って、くれ…」


 炎堂蓮也、氷吾斗真の最後の言葉が脳内に何度も何度も木霊する。特にレインとリベロの頭の中では頭痛がするほどまでに繰り返し再生されていた。


(もし仮に…)

 

 秒針の音がピタリと止まる。時間の進む速さが急に減速したように感じ、その視界の先にはディザイアが黒色の特殊な形をした剣を創造している姿が目に入った。


(ここで負けるようものなら…)


 ノアも両手に二丁拳銃を創造し、それらを逆手持ちへと変える。ディザイアはそれを見るとその場から駆け出し、ノアたちの方へ向かってきた。ノアもまた迎え撃つために床を強く蹴って走り出す。 


(それこそ誰も…) 


 ゆっくりと進む時の流れ。それを感じ取っているのはノアとディザイアのみ。徐々に縮まる距離に両者とも得物を握りしめる力が強くなる。


(誰も…)

 

 すぐ目の前まで接近すると、ノアの二丁拳銃が下から振り上げられ、ディザイアの黒色の剣が上から振り下ろされた。手を抜いているわけでもないのにも、衝突し合うまでとてもゆっくりと近づいていく。



(――救われない)

 

  

 ノアの二丁拳銃とディザイアの黒色の剣が触れた瞬間、校内に狂った鐘の音が響き渡った。それを合図に時の流れは少しずつ元に戻り始め、


「…っ!?」


 鐘の音をかき消すほどの金属音と衝撃波を周囲に発した。

 第四殺し合い週間の開幕。ノアとディザイアは鍔迫り合い状態から睨み合う。


「笑えるな。お互いに同じことを考えていたなんて」

「一緒にするんじゃない。俺はお前のように殺すことを生きがいとしていないんだ」


 ノアは振り下ろされている黒の剣を自身の右側へと滑らせるように受け流し、左手に持っていた銃で剣に数発撃ち込んで刀身を真っ二つに折った。それを見たディザイアは柄から手を離すと、ノアから距離を取る。


「私もいるからね~」


 距離を取ろうと飛び退いている最中に、ルナがディザイアへと逆に距離を詰め左脚で回し蹴りを叩き込む。それをディザイアは右腕で受け止めたが、その威力に耐え切れずそのままフールたちの元まで吹き飛んでしまった。


「ちょっとぉ? ディザイアぱいせん大丈夫ですかぁ?」


 フールがゲラゲラと笑いながら倒れているディザイアを煽る。


「俺に喋りかけるな」

  

 そんなフールに対してディザイアは睨みを利かせながらその場に立ち上がった。ルナが全力でディザイアを蹴り飛ばしていなかったことで、すぐに立ち上がることが可能なほどの軽傷で済んでいるようだ。


「…"銀髪"の言っていた通り、お前とそこの金髪は俺の手に余りそうだな」


 ディザイアが上の階を見上げて何かを待っている。

 ノアとルナはそれに気が付いていたが、気にすることなく再びディザイアへと攻撃を仕掛けようとした。



「だから――お前たちの相手は俺じゃない」


 

 が、上の階の天井が突き破られ、煙が辺りに立ち込めその動きを止める。ノアとルナは大きく穴の空いた天井から誰かが覗き込んでいることを察知し、煙が晴れるまで穴の先を見上げていた。


「遅いじゃないか。一体何をしていた?」

「すまない。こんなに早く交戦するとは思っていなかった」

「…頼むぞ、"Sクラス"」

「安心しろ。ここから巻き返してみせる」


 煙が晴れ、二人を見下ろしていた人物たち。黒色の制服に茶髪、白色の制服に黒髪の男子生徒二人。ネームプレートにはPrideプリーデMilitasミリタスと刻まれている。


「お前たちはBクラスに手を貸すのか?」

「この先どちらが脅威となるかを考えた時、間違いなくお前たちだと考えた結果だ」


 ミリタスはそう言いながら片手をかざすと、白色の球がディザイアとノアの間に生み出され、辺りに眩い光を放ち始めた。


「…あれって」


 創造力が更に更にと増幅すればするほど、白色の球は小さく凝縮していく。何をしているのかを探ろうとルナはそれをしばらく見つめ、


「……!? みんな、下がって!!」


 ノアたちへと避難するように指示を出したが、


「――制裁だ」


 ミリタスがそれを待つはずもなく、その光の球は溜めに溜め込んだ創造力を爆発させ、辺り一帯に大爆発を巻き起こした。



◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「…ここは」


 ルナは目を開ける。立っていた場所はどこかの空き教室。大爆発に巻き込まれたはずだと辺りを探っていれば、


「実際に爆発なんて起きていない」


 ミリタスが教室の隅から姿を現した。


「じゃあ、単に私たちを離れ離れにしただけってこと~?」

「半分正しくて、半分間違っている」


 ルナは第一キャパシティである六神通ディヴァインを使用して、天耳通で校舎内の至る所を確認し全員の位置を把握する。 


「…そういうことね」

『おい、聞こえるか?』

「ノア…!」 


 全てを理解したと同時にジュエルコネクトからノアの声が聞こえてきた。ルナは急いで耳元のボタンを押さえて反応をする。


『ルナか? 今どこにいる?』

「多分、本校舎の五階の空き教室。ノアは?」

『俺は本校舎とは別の西校舎の三階に飛ばされた』 

「それよりも大変だよ! みんなが――」

 

 何を理解したのか。

 ルナがそれを口に出そうとした時、別の人物からジュエルコネクトへと連絡が入る。


『ノア君!』 

『ヘイズさん? どうした?』

『どうしよう…! 一緒にいるのがリベロじゃなくて…ブライトちゃんと私の前にワイルド君がいる! 作戦とは全然違う組み合わせに…』

  

 そう、それは元々作戦で立てていた各々の交戦相手が全くの見当違いだということ。ヘイズの連絡が入れば次々と別々の人物から連絡が入ってくる。


『俺はヴィルタスと一緒だ。目の前にはデュランがいる』

『私は作戦通りファルサと一緒ですね。ただ…相手はフールですが』

『ぼ、僕のところは敵が誰もいないよ! で、でも一人だから早く合流して!』

『…ということは、ネクロもまだ接敵していない状態か』


 ヘイズ・ブライトの相手がワイルドへと変わり、ティア・ファルサの相手がフールへと変わる。グラヴィスとネクロの二人は未だに鉢合わせしていないようだ。


『グラヴィス。お前は今どこにいる?』

『え、えっと…本校舎の三階に…あっ!?』

 

 ノアの質問に答えている最中、グラヴィスが何かヤバいものを見つけたかのような反応をする。 


『どうしたのですか?』

『うわぁぁああっっ!!』

『グラヴィス、グラヴィス!! ルナ、お前が一番グラヴィスと近いはずだ! すぐに救援を…』

「それは少し厳しいかな…。だって私の前にはミリタスがいるから…」


 そこからグラヴィスの通信は途絶えてしまう。

 本校舎の三階。そこから最も近いのはルナだが、なんせミリタスがそれを許してはしてくれない。


『俺も目の前にプリーデがいるから厳しいんだ。誰か手が空いているやつはいないのか?』

『おーい』

「…ベロくん?」


 最後に連絡を入れてきたのはリベロ。

 もしや助けに向かえるのではないかとわずかに期待を込めていたが、


『ちょーっと、まずいことになったぜー』 


 その報告はどうやらあまり良くない類のようで、リベロの声色から焦りを感じられた。


『オレは今レインと一緒にいるんだけどさー』

『誰かと接敵はしているか?』

『それがなー…』


 場所は体育館。

 そこでレインとリベロは最も接敵してはならない人物と顔を合わせていた。


『"ディザイア"なんだよなぁ…』

 

 ディザイア。

 本来はルナとノアが相手をするべき強者。


「あははっ…最悪だね…」 

 

 どう考えても最悪なスタート。

 ルナはそんな不運を笑うことしか出来なかった。  

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