July Holiday
4:1 候補生は救世主の授業を受ける
月が移り変わり、すっかりと季節は夏となった。
金鳥の陽射しがじりじりと地上を照らし、ルナの額から汗が流れ落ちる。
「あついぃぃぃ! 死にしょぉぉぉ!!」
「…何で夏服に着替えなかったんだお前は?」
七月へと移行すれば制服の衣替えの時期となり、今まで着ていた冬服とは別に夏服の着用が許可をされた。それなのにルナは夏服を着ずに冬服のまま今日という日を迎えていたのだ。
「だってぇぇ~! 時間がなかったんだもん~!!」
「自分の部屋に一度でも帰らなかったお前が悪い」
ルナはずっと俺の部屋に居候をしている。
その為、自分の部屋に一度も帰っていない。制服の移行期間を知ったのは今朝、しかもルナは二度寝をしたせいで遅刻しかけていた。そんな理由が積み重なり、夏服を取りに行けなかったのだ。
「…案外通気性はしっかりとしているんだな」
この夏服は各自の部屋のクローゼットの中に入学当初から置かれていた。言わずもがな救世主側は白色を基調とした夏服、そして教皇側は黒色を基調とした夏服だ。
「ノア―! こっちだよー!」
「おー! ルナはこっちだぞー」
正門前まで辿り着くと校庭の右側に救世主の候補生たちが、その逆側に教皇の候補生たちが固まっていた。俺はブライトに、ルナはリベロに呼ばれ、俺はルナと別れてブライトたちの元まで向かう。
「わざわざ二手に別れるんだな」
「…あくまでも救世主と教皇は敵同士。私たちが感覚がおかしいだけ」
「それもそうか」
数分ほど待っていると、教皇側の方にBクラス担任のメテオ先生、救世主側に
「救世主候補生は私に続け。会場まで案内をする」
「教皇候補生は俺に続けよー!」
本校舎を挟んで左右それぞれに専用の会場があるらしい。俺たちはデコードに案内をされるがまま、七代目救世主が待つとされる会場へと連れられて行く。
「そういえば…七代目救世主は女なのか?」
「違いますよ。七代目救世主様は男性です」
「ほぉ、少し楽しみだな」
「ノア…? まさかだとは思いますが同性に…」
「マジなトーンでそれを言うな」
その会場とやらはすぐに到着した。
七代目救世主が訪れるということで、盛大な舞台でも用意されているのかと思えば、
「…七代目はこのエデンの園に歓迎されているのか?」
そこはただの平地。
こんな場所に現ノ世界を象徴する七代目救世主を呼ぶのだろうか。
「何もないことに驚いた者もいるだろうが、これを望んだのは七代目
デコードに俺の声が聞こえていたのか、このような平地が会場となっているワケを救世主候補生たちに説明をした。変に着飾りたくない…ということは随分と謙虚な救世主のようだ。
「それで?
「ここだぞ」
Sクラスのストリアが辺りを見渡しながらそう声を上げれば、彼女の背後にいたずらな笑みを浮かべた男性が立っていた。何だアイツは、と俺はその人物を見て苦笑するしかなかったが、
「…お前はもう少し救世主らしくしてくれないか? 私をがっかりさせないでくれ」
「えっと? このエデンの園でお前はデコードって呼ばれてるんだっけ?」
「ああ、その通りだよ。
(…あいつが、七代目
デコードとの会話でそのふざけた人物が七代目救世主だということを知り、見る目がすぐに変わった。
「救世主様って…ああいう人だったんだ」
「…いつの間にあの子の後ろに立ってたんだろ?」
「それが光速の救世主と呼ばれている所以だと思うぞ」
ストリアの背後に突如現れたのは移動型の第一キャパシティを使用したから。光速となれば人間の眼には捉えられない。七代目はその能力のおかげで、
「それでは、救世主様の第一キャパシティは光速で移動が可能となる能力なのですね」
「…いや、それは違う」
光速で移動が出来るだけのキャパシティだとするなら、周囲の生徒たちは軽々と吹き飛んでいるはずだ。それなのに七代目は音や風を立てることなく、ストリアの背後に立っていた。光速で移動する能力…というよりは速度を操れる類のものなのかもしれない。俺がそうティアたちに説明をすると、
「…私の兄の能力は
俺の憶測にレインが言葉を加えて、より詳しくそう説明してくれた。
「七代目、時間は限られている。さっさと特別授業とやらを始めてくれ」
「分かった分かった。んじゃあ、まぁ始めるよ」
デコードに催促をされた七代目は頭を掻きながら、俺たちの注目が浴びやすい場所へと移動する。
(ペルソナ、いつの間にあんなところへ…)
その最中に白色のローブに仮面を付けたペルソナが、少し離れた場所に立っていた。あれだけ目立つ格好だというのに、今のところ俺以外誰も気が付いていない様子だ。
「んで、改めて自己紹介するよ。俺は七代目救世主、七代目とでも
「…?」
七代目の自己紹介を聞いていれば、背後から視線を感じたため振り返ってみる。
「…何か用ですか?」
そこに立っていたのは銀髪の美少女という言葉に相応しい女子生徒。胸元には
「いえ、此方には気にせず救世主様のお話を…」
「そんなこと言われてもですね…。こうも背後に立たれていると気になって気になって仕方がないんですよ」
「そうですか。なら、あなたのお隣に失礼しますね」
ローザという女子生徒はレインと俺の間に割り込んできた。
明らかにレインが不機嫌かつ殺意をローザに向けている。
「俺が特別授業を開くことになったのはいいんだけど…何か話すことあったっけなぁ…?」
「アナタはノア…ですか?」
「…そうですが?」
「でしたら此方に敬語は必要ありません。もっと肩の力を抜いてもいいのですよ?」
「……お前、レーヴダウンに所属していただろう?」
何を話そうかと悩んでいる七代目救世主を傍観しながら、こちらの警戒心を解こうとしてくるローザに向かって俺はそう尋ねた。
「…何故そのような考えをお持ちで?」
「Cクラスは全滅、Bクラスの救世主候補生も全滅。お前のクラスはSクラスかAクラスのどちらかと考えられる」
救世主の候補生は一回り見渡しただけでも、人数が教皇に比べてもかなり少ないことが分かる。Cクラスの生徒はいない、Bクラスの生徒も勿論いない。この場にいるのはZクラス、Aクラス、Sクラスの三クラスだけ。Zクラスはあり得ないとして、可能性としてSクラスかAクラス。
「お前は俺が今まで見てきた生徒の中でずば抜けて強い。それも
「…此方がかつて四色の蓮だったとでも言いたげですね?」
「違うのか? こうやって一人で歩き回っても問題がないほど自分に絶対的な自信があるんだろう?」
Sクラスの七元徳といえども、こうも敵が周囲にいれば警戒心を絶やさずに七人で固まっている。それなのにローザは一切警戒することもなく好き勝手に歩き回り、敵の本陣ともいえるZクラスに接近をしてきた。そんなことが可能なのは――自分一人でもこのZクラスを崩壊させることが出来る者だけ。
「ふふっ…アナタには特別にお教えしましょう。確かに此方は七代目救世主様を支える四色の蓮でした」
ローザは何が嬉しいのか、微笑みながらそう自身の正体を明かす。
「…だと思ったよ」
「アナタの噂は兼ねて伺っています。Cクラスを圧倒し、今度はBクラスと一戦交えるそうですね?」
「その噂はどこで聞いた?」
「風の噂、ですよ。此方の耳へ自然と聞こえてくるのです」
――不気味な美少女。
誉め言葉と悪辣な言葉を組み合わせたかのような存在。俺が最も嫌い、最も相手にしたくないと思える種類。この先、そんなローザを相手にしないといけないのかと考えると急に肩の荷が重くなった。
「そんなアナタに期待を込めて、此方が一つ助言をしてあげましょう」
「…助言?」
ローザが微笑みながら俺の右肩を両手で掴み、つま先立ちをしながら俺の耳元へ口を近づけると、
「――四色の蓮だった者たちはこのエデンの園にいます」
「……」
そう告げ口をして、右耳を優しく舐めてきた。
「では…此方は応援していますよ?」
ローザは後方へと下がり、どこかへと歩いていく。四色の蓮がローザ以外にもこのエデンの園にいるという情報。それが真なのか偽なのか。
「…あの銀髪女と何を話していたの?」
「世間話だよ」
レインがローザと何を話していたのかを聞いてきたため、俺は適当に世間話とはぐらかす。
(…四色の蓮が、紛れ込んでいるのか?)
俺は顔を上げて何を話しているのかと七代目を見てみる。
しかし、未だに話の内容が決まっておらず特別授業を始めていないようだ。そんな七代目の姿をデコードは溜息を付きながら眺めている。
「あ、それじゃあ…」
そして、七代目は何かを閃き特別授業の内容をこう口にする。
「――実戦訓練でもするか!」
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