4:2 初代救世主は七代目と実戦訓練をする
「実戦訓練? お前は正気か?」
「いや~…だってそれぐらいしか候補生の為になることないだろ?」
デコードが七代目に聞き返すが、どうやら本気のようで俺たち救世主候補生を見渡しながら、
「実戦訓練したい人は名乗り出てくれ。七代目救世主の俺からアドバイスしてやれるぞ」
七代目は挑戦者はいないのかと声を上げる。デコードはもう彼を止められないと察したようで「どうにでもなれ…」と片手で頭を押さえながら半ば諦めていた。
「私たちにあんたとの実戦訓練は必要はないわ。Zクラスの生徒でも見てあげたら?」
ストリアは七代目にそんな意見を提案する。
七代目は「そうするか」と言って、俺たちの方を見た。
(ストリアのやつ、俺たちに手の内を晒させるつもりだな)
こんな場で実戦訓練など行えばこの場にいる生徒たちにどんな戦い方をするか、どんな能力を使うかがバレてしまう。ストリアはそれが分かっているうえで、Zクラスへと七代目の注目を誘導させたのだ。
「んじゃあ俺がやろうかな!」
最初に名乗りを上げたのはビートだった。まさかビートが実戦訓練に挑戦しようとするのは意外も意外だ。それに加えやけに自信に満ち溢れながら手を上げているが…。
「いいねぇ! やってこいビート!」
「やっちゃえビートくん!」
若者特有のノリで背中を押すパニッシュと、小学生染みた応援をするハリー。それを見ていれば何となくビートが名乗り出た理由に察しが付く。
「…彼は単に目立つために手を挙げただけですね」
「ここはそういう場じゃないと思うんだけど…」
ティアとブライトが空気の読めないビートたちに苦笑いをしていた。注目の的になりたい若者が、調子に乗って公然の場で何かしらを披露する。ビートはそれと変わりないことをしていた。
「いいぞー! かかってこい!」
ビートはグローブを創造し両手に装着する。Zクラスは赤の果実のメンバーたち以外、大して注目もしていなかった。その為、ビートが近接格闘型だということも知らなかった。
「うわー…なんか子供みたいなノリだからすぐに負けそーだね」
「ステラ、お前も子供みたいなノリをよくして――」
「うん??」
「ナンデモナイ」
そんなやり取りをしていれば、ビートと七代目の実戦訓練が始まる。
「いつでもいいぞ」
「よっし! 行くぜー!」
先手を取ろうとしたのはビート。
七代目の元まで拳を構えながら全力疾走し、ワンツーを何発も繰り出す。
(…思ったよりも機敏に動けるんだな)
ビートは本来の身体能力が高いからか創造力を通わせずとも、Cクラスレベルとは対等に戦える実力は備わっていた。創造力を通わせることを覚えれば、更に素早く、相手の懐へと潜り込むことが出来るのだが…。
「ぐぉっ!?」
「動きはいいね。後は創造力を上手く扱えるように練習した方がいいぞ」
七代目はある程度ビートの動きを観察するとその拳を片手で受け止め、宙へと軽々放り投げた。
「あはははー!! あいつ、空飛んだよ!」
「うるせぇぞー!」
地面に背を打つ姿を指差しながら、ステラが腹を抱えて大笑いをする。ビートの同盟メンバーもそれぞれ笑いながら、彼のことを笑いものにしているようだ。
「次の挑戦者は誰かいるか? 誰でもいいぞ」
「…それなら私が――」
「俺がやる」
レインが名乗り出ようとするのを遮りながら、代わりに俺が挙手をして七代目の元まで歩み寄る。手の内が少ない赤の果実のメンバーがこの場で戦うことはどうやっても避けたい。その為には手の内が多い俺が七代目に実戦訓練を挑み、この特別授業が終わる時間まで耐えるのが最善の選択だ。
「おー、いいぞ」
俺は七代目と向かい合い、軽く礼をする。
「実戦訓練、お手柔らかにお願いします」
「君は手加減なんて必要なさそうだけどな」
「違う意味で必要なんですよ、七代目」
お互いに一定の距離を取って、戦闘態勢に入った。
七代目の救世主の実力がどれほどのものか。それを一度測ってみたいとは思っていたが、こんな状況でその機会が巡ってくるとは予想だにしていなかった。
「いつでもいいよ」
「…それでは、お言葉に甘えて」
ノアの最初の一撃目は単純な攻撃。
手榴弾を左手に創造し七代目に向かって放り投げるだけ。
「もしかして俺って君に甘く見られてる?」
七代目はそう言いながらノアとの距離を詰めて、身体を掴もうと手を伸ばす。
「それはこっちのセリフだ」
しかしノアが左手を後ろへと引くと、七代目の背後に飛んで行った手榴弾がこちらへと戻ってきた。
「糸に括り付けてあったのか…!」
ノアは投擲した手榴弾に透明な糸を結ばせておいたのだ。七代目が相手にしているのは紛れもないただの
「…君は――」
七代目はニヤリと笑みを浮かべ、手榴弾に指先を向ける。
「――戦い慣れているんだな」
それはまるで閃光。
七代目の姿が消えたかと思えば、手榴弾は光の塵となりノアの背後に立っていた。
(これが速度変化か…流石に速すぎるな)
ノアでもこれは初見で捉えることは不可能。引っ張っていた糸が軽くなったことで何となく創造破壊をされたことには気がつけたものの、そこからどこへ消えたのかは少しも分からなかった。
「君を侮り過ぎたせいで第一キャパシティを使っちゃったけど…。これは俺の勝ちかな?」
「……」
彼の背後を取っただけで五代目は完全に油断をしている。
七代目はノアのことを候補生としてしか見ていないらしい。
「勝ち…ですか」
ノアは両手を上げて降参する素振りを見せ、
「――お前なら分かっているはずだ。相手を
「…っ!?」
七代目に遠慮なく直言すると、二つほど閃光手榴弾を足元に落とし七代目の視界を塞ぐ。周囲にいる生徒たちも眩しさのあまり、手で視界を隠してしまっていた。
(…創造力の気配で)
ノアも創造力で敵の気配を探知が可能だが、七代目救世主もそれを扱うことが出来る。この技を使用するには実戦を何百、何千と積まなければならない。これは知識で覚えるというよりも、身体で覚えるしか方法がないのだ。
(自分の創造力を辺りに撒き散らしているのか…!?)
ノアは七代目に気配を探知されないようにわざと創造力を周囲に漂わせていた。この創造力の探知を知る者はその技を扱うことが可能な者だけ。七代目は「そんな馬鹿な…」と視界が戻るまでその場から光速で移動をしようと足を踏み出したが、
「チェックメイトだ」
カチッという音が聞こえると共に、ノアが七代目の前に姿を現した。一体何が起こったのかと七代目は元に戻った視覚で、自分の足元を見下ろしてみる。
「"地雷"…?」
そこには足を離した瞬間に爆発をする地雷が周囲に設置をされていた。
「その第一キャパシティ、自分に付与するには二歩足を踏み出さなければ発動できない類ですよね?」
ノアは七代目の第一キャパシティには何か弱点があるのではないかと観察をしていたのだ。初代救世主としての経験上、どんな第一キャパシティにも必ず欠点が存在するという見解を彼は持っていた。
「…凄いな。どうしてそれが分かったんだ?」
「手榴弾を糸で引き寄せた時ですよ。七代目は焦っていたから気が付いていなかったと思いますが…その場でなぜか足踏みしてましたからね」
「…能力の欠点を、あんなに一瞬で?」
レインは驚嘆のまなざしでノアの横顔を見つめる。それもそのはずで、長年兄である七代目と暮らしてきた彼女自身もその欠点など見破ることなど出来なかったからだ。
「そこまでだ。そろそろ授業終了の時刻になる」
デコードがノアと七代目に声を掛ける。
特別授業の時間が終わりとなれば、ノアは七代目の足元にある地雷を光の塵と変えた。
「あのさ、二歩以上歩かないと発動できないことが欠点でも…地雷を踏みながら逆の足で足踏みをすれば光速で移動が可能じゃないの? そうすればあの状況だって何とかなったんじゃ…」
「いいえ。ノアは力量で七代目救世主様に勝とうとしたわけじゃありません。情報の探り合いで勝とうとしたのでしょう」
「じょうほーの…さぐりあい…?」
「…ノアは私たちに『相手の弱みを一つでも握れば、戦況は有利になる』と言っていた。多分、私の兄もそれを理解していたから下手に動けなくなっていたんだと思う」
ティアとレインが首を傾げているステラに説明をした通り、ノアは時間を稼ぎつつ自身に有利な戦況へ持ち込もうとしていたのだ。傍から見れば"引き分け"か"ノアがやや押していた"、という光景に見えるが…。
「ノア君が七代目様に使ったものって…手榴弾とかだけだよね?」
「うん…ノアがどれだけおかしいのか改めて分かったよ…」
ヘイズとブライトが二人揃って、ノアの強さに往生してしまう。
ノアは手榴弾一つ、閃光手榴弾二つ、そしていくつかの地雷。それに対して、七代目は第一キャパシティを使用して欠点を見つけられた。どちらが実質勝利を収めたのかは一目瞭然だ。
「いい実戦訓練だったよ。最後に君の名前を聞かせてくれないか?」
「Zクラスに所属しているノアです。僕もいい実戦訓練になりました」
「それなら良かった」
七代目救世主とノアはお互いに良い経験となったと言葉と握手を交わした。
「なぁ、もしかして君は――」
ノアの顔を見ながら何かを言いかけ、開いていた口を閉ざす。
「…どうしました?」
「何でもない。気にしないでくれ」
ノアは視線を逸らした七代目の顔が曇っていることに気が付く。
何を言いかけたのかも気になるが、それよりもノアは七代目救世主に聞きたいことがあった。
「七代目、あなたの名前を聞かせてくれませんか?」
「ん、俺の名前? それは言ってもいいのか?」
「はい。七代目はこの殺し合いに参加をしていないので、大丈夫だと思いますが…どうですかデコードさん」
「構わない…が、それはすべて七代目。お前の自己責任となる」
七代目はデコードに忠告をされると「それぐらいはいいけどな」と返答し、
「俺の名前は
ノアに自身の名をそう伝えた。
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