2:13 第二殺し合い週間『探索』

「…ブレイズ!」

「フリーズ様!」

「君たち…」


 ブレイズとフリーズが私たちによってZクラスまで連れて来られると、そこには縄で縛られたCクラスの生徒たちが教室の隅に寄せ集められていた。


「ルナさん…!」

「ヘイズちゃん、Cクラスの生徒たちはどうだった? 何か問題起きたりした?」

「ううん。暴れ回ろうとしたこと以外は問題なかった」


 レインたちが気絶させたCクラスの生徒たちをヘイズとファルサの二人で拘束し、引きずりながらロッカーの中を伝ってZクラスまで連れていく。無殺生という言葉通り、Cクラスの生徒たちは誰一人として怪我を負っていなかった。


「まさか本当にボクたちの仲間も無事だとはね」

「…疑ってたの?」

「当たり前さ。このエデンの園で信頼できるものは自分と同じクラスの仲間だけだったからね」


 フリーズはレインにそう言葉を返し、Cクラスの生徒たちの前に立つ。


「君たち、聞いてくれ。ボクとブレイズはこのZクラスを信頼して、一時的な協定を結ぶことにする」

「きょ、協定だって!? フリーズ正気かよ!?」

「あぁボクは至って正気だ。正気だからこそ彼女たちを信頼するんだよ」

「フリーズ様…! こいつらはZクラスですよ!? いつか背中を刺されてもおかしくは―――」

「よく考えてみてくれ。ボクたちは完全に敗北した。それなのに一人も殺さずして、このように生かされているんだ。これが信頼を築き上げる何よりの証拠だとは思わないかい?」


 私は未だに目を覚まさないノアの隣に腰を下ろした。

 最初は反発を買うであろうこの協定。フリーズはそれを上手くまとめ上げようとしているようだ。この先の行く末がやや心配だったが、フリーズに任せておけばCクラスの問題は解決することだろう。


(もう朝の六時なんだ…。時間は経つのが早いなぁ)


 少しだけ初代教皇としての過去の自分を出してしまった気がする。 

 そのせいで変に疲れてしまった。


(…ちょっと、眠いかも) 


 フリーズの声が教室に響き渡る中、徐々に意識が遠くなり、私は眠りについてしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「……」

「レイン? どうしたの?」

「金髪女が寝てる」 


 あれほどの化け物でも、疲労と睡魔には勝てないようだ。

 寝込みを襲えば殺せるのではないか、そんなことをふと考えた瞬間


「――!」


 金髪女は目を開き、こちらに視線を向けてきた。

 どうやら彼女は良からぬ考えを察知して、目を覚ますことが出来るらしい。


「A型とC型の皆さん。お疲れ様です」

「あぁ、B型のお前たちもな」


 偽の壁を創り出していたティア、グラヴィスの二人が私たちの前に顔を出す。二人は「突然リベロが偽の壁に穴を空けて、教室の中に飛び込んでいった」と作戦外の行動を起こしたリベロに対して愚痴を溢していた。

 ファルサはCクラスの生徒たちが怪我をしていないかを確認しているようだ。


「リベロ、作戦通りに動いてもらわないと困ります」 

「悪かったってー。ほら、この通り反省してるからさー?」


 リベロは両手を合わせて申し訳なかったという姿勢を見せる。

 誰がどう見ても反省をしているとは思えないが、ティアは溜息を付きながら「次からは気を付けてください」と今回の件を許すことにした。


「……?」

「ん? どうしたんだグラヴィス」

「あの…ステラって子が教室にいないけど…」


 グラヴィスの言う通り赤毛のステラの姿が見当たらない。

 しかもそれだけじゃなく、同盟メンバーのモニカたちも教室内に姿はなかった。

 

「トイレじゃねー?」

「だとしても、わざわざ五人で行きますか?」

「それなら…違う教室に行っちゃった、とか」


 全員が口を閉ざす。

 その可能性しか考えられない。ルナにあれだけ脅され、馬鹿にされれば、あの幼稚な思考回路を持つステラは居ても経ってもいられずに何かしら行動を起こす。


 ―――もしその行動が、Zクラスから出ていくというものだったのなら…。


「すぐに探しに行こう!! あの五人が他のクラスと出会ったりしたら…!」

「待てブライト! ルナとノアがいないと危険だ。俺たちは作戦があったからこそ、こうやって上手く交戦することが出来たんだぞ?」

「でも、このままじゃステラたちが…」

「…じゃあ探しに行くとして、あなたはどうやって他のBクラス、Aクラス、そしてSクラスたちとノープランで戦うの?」


 ステラたちが既に殺されている可能性だってあり得る。

 それなのにわざわざ教室を離れ、未知の領域へと身を投じる必要性はないではないか。


「そ、それなら…ルナを起こせばいいだろ?」 

「ダメだよ、全然目を覚まさない。もしかしたら、意識を失っているのかも…」


 グラヴィスの意見にルナの容態を見ていたヘイズがそう答えた。

 こういう問題が生じたときに限り、頼れる二人が揃って意識不明など冗談でも笑えない。試しに先ほどと同じような殺してやろうという殺意を抱いたが、ピクリとも反応をしなかった。


「二人が目を覚ますのを待つしかないんじゃねー? オレたちは何もできねーし」

「それが一番いいと思う。私たちはBクラス以上の情報を得ていないから」

「そんなの、待ってられないよ…!」


 ブライトはロッカーの中に飛び込んで、隣の教室から外へと出ていく。

 そんな無茶な行動を起こすとは私たちも予想だにしておらず、すぐに止めることが出来なかった。


「ブライト…!!」

  

 ウィザードが呼び止めようとしたがもう遅い。

 ブライトは廊下を走って、ステラたちを探しに行ってしまっていたのだ。   


「…これで、私たちにとってもただことじゃ済まなくなった」

「放っておこーぜ。あいつが勝手に飛び出したんだからさ」

「こうなったら放っておけません。ブライトは私たちと同じ同盟メンバー…大切な仲間ですから」

「…あぁ、それもそうだな」


 結局こうなるのかと私は模擬刀を片手に創造する。この同盟に入っていても、私が得するのはあの眼鏡の人物から戦い方を学べることだけ。本当なら今すぐにでも同盟を脱退してやりたい。


「俺とティア、レインとリベロ。この組み合わせで探すことにするぞ」

「はぁー!? オレも行くのかよー!?」

「…チップが欲しいのなら、これは良い機会でしょ?」

「おー! それもそうかもなぁ…」

「決まりだ。グラヴィスはあの壁を壊されないように見ていてくれ。ヘイズはファルサの手伝いをするんだ」


 ウィザードは残るメンバーにそう指示を出すと、私たち三人を連れて隣の教室に繋がっているロッカーを通って、廊下へと足を踏み出した。


「…廊下はこんなに静かだったのか?」


 殺し合い週間とは思えないほどの静寂さ。

 私たちはそれを不気味に感じながら、廊下を突き進んでブライトの行方を捜す。


「別れ道ですね」


 私たちの前に現れたのは二階へと続く階段。

 Cクラスの教室がある階だが、現在CクラスはZクラスにいる。要はBクラスが下の階に降りてこない限りは、無人の状態だということ。


「私たちが二階を探す。あなたたちは一階を探して」

「おいおい? お前正気かよー!」

「分かった。俺とティアはこのまま一階を探してみる。何かあったらジュエルペイで連絡をくれ」

「…了解」


 ウィザードとティアは引き続き一階の探索を、レインとリベロは上の階を探索することにした。


「二階の方が危険だってことぐらい、お前も分かってるんだろ?」

「…ステラたちが二階にいる可能性が高いってこと。あなただって分かってるでしょ?」

「さぁなー? オレは頭が悪いから全然わからーん」


 リベロのお気楽な表面の裏に、張り巡らされている思考。私もそれには気が付いている。私たちの気を抜かせようとしているのか、それとも本当の自分を隠したいだけなのか…。


「やべー…雰囲気ホラゲーじゃね?」

「…気を抜かないで」


 時刻は早朝、太陽光はそれなりに窓から差し込む。

 しかしまだ日が完全に上り切っていないせいで薄暗い。二階の教室は一階の教室よりも不気味だ。


「こういうホラゲーってさ。化け物にバレたら終わりなのに、人を探すときって何故か大声をあげるよな。あれってよくよく考えてみたけど…主人公バカじゃね?」

「…ペラペラ喋る奴ほどよく死ぬのは知ってる」

「おいおい、怖さを紛らわせるための冗談だってー。そんなイライラしないでくれよー」

 

 こちらに一方的に話しかけてくるリベロを適当にあしらいながら探索を進めていると


「……!!」

「…泣いている声か?」


 嗚咽のようなものが聞こえてきた。

 よく耳をすませば、それに交じりすすり泣く声に近いものも聴こえてくる。


「敵と遭遇したら、あなたは防壁で援護をして」 

「へいへーい。お前もちゃんと敵を気絶ぐらいさせてくれよー?」


 嗚咽の聞こえた方向へと進めば進むほど、その音は大きくなり、水滴が水たまりに落ちるような音も聞こえてきた。校内の水道管でも殺し合いの影響で破裂したのかと、慎重に慎重に歩を進める。


「…この曲がり角の向こう」

「お前が先に顔を出せよ。何かあってもオレが防壁を創ってやるからさ」 

「…あなたが口に出すとまったく信頼出来ない」


 私はリベロと視線で合図をし、その曲がり角から模擬刀で居合の構えを取りながら飛び出した。


「―――」


 その光景を目に入れたことで、声を失ってしまう。驚くことも、呼吸をすることさえ忘れてしまった。リベロさえもその光景には、目を丸くして硬直してしまっている。


 ――そこに広がっていた光景。

 それは、ペンキが塗りたくられたかのように真っ赤に染まる廊下の行き止まり。そこで紅に染まったステラが私たちに背を向けながらその場に座り込んでいる姿だった。

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