2:6 教皇は救世主と戯れる

「ノア~! もう夜中だよ~? 何でこんな場所まで連れてきたの~?」


 時刻は皆が寝静まっているであろう深夜の二時。

 私は無理やりノアに起こされた後に、制服へ着替えさせられ、寮の近くにある浜辺まで連れてこられていた。


「悪いなルナ。早めに確認しておきたいことがあるんだ」 

「確認したいこと~?」

「ああ」

 

 ノアは両手に二丁拳銃を創造し、私と向かい合う。


「俺たちがどこまで力を発揮できるかだ」

「ふぁ~…そういうことね~」


 私は欠伸をしながら黒色の大鎌を創造した。

 ノアは自分の実力を知るには、宿敵である私を相手にするべきだと考えたに違いない。なぜそう確信できるかと聞かれれば、私も実力を知るための手合わせには必ずノアを選ぶから。


「なら本気で行くよ~?」

「あんまり大きな音を立てないようにな。誰かに見られたりしたら大変だ」

「おっけ~」


 私は全身に創造力を通わせ、ノアの背後へと一瞬で移動する。

 そして、首元目掛けて大鎌を振り下ろした。


「相変わらず早いな」

「早いと思うのなら、これを受け止められるはずがないよね~?」


 ノアはすぐさまこちらへと振り返り、二丁拳銃でそれを受け止める。

 私たちにスタート…なんて合図はない。出会った瞬間、目が合った瞬間に殺し合いを初めてきた私たちからすれば、不意討ちを仕掛けることは当たり前だった。


「そこか…!」

「引っ掛かったね~!」


 ノアが私の大鎌を創造破壊しようと、持ち手と刃の間を狙って、発砲をして銃弾を撃ち込んだ。しかし私は創造破壊を誘うために、わざとそこの箇所の創造力を弱めていただけ。銃弾は弾かれ、私はノアの左脇腹に向けて蹴りを放った。


「…っと!」

「え~? 今の避けられちゃうか~!」

「あんな見え見えの罠に気が付いていないとでも思っていたのか?」


 ノアは視線を私の太もも付近に向ける。

 何があるのかと見てみれば


「もぉ~! その銃はほんとぉぉに厄介だなぁ~!!」


 創造力で強化をしていたはずの左脚が、いつの間にか銃弾によって貫通し、血液が足先まで伝って砂浜を赤く染めていた。


(…RexレクスReginaレギナ


 ――RexレクスReginaレギナ

 Rexレクスは王、Reginaレギナ女王の意味を持つ二丁拳銃。王は白色、女王は黒色を基調とし、現ノ世界の科学力とノアの知識によって開発された銃だ。私はこの銃と初めて対面したとき、「厨二病おつ~」とノアに挑発をしていたが 


「危なぁい…!?」

「お前ぐらいだぞ。この銃の弾丸をそうやって斬り捨てられるのは」


 その性能を知ってから煽りを入れられなくなった。

 何が厄介かと言えば、「あらゆる銃の動作が無音となり、込められた創造力を相手に感知させない」という点だ。弾丸を装填するときも、引き金を引いたときも音がしない。それに加えて、創造力も感知させない。


「褒めるなら少しぐらい手を緩めてくれないかな~?」 

「だったらお前もこれぐらい力を出せばいいだろ」


 大鎌を回転させながらノアの弾丸を弾き飛ばしていたが、確かにこちらもそろそろ何かを仕掛けないと大怪我しそうだ。


Lamiaラミア~!!」

「――っ!!」 


 私がそう叫べば、手元にあった大鎌は小さな鎌を次々と生み出して、ノアの元へと向かって行く。この黒色の大鎌の名は「Lamiaラミア」。"吸血鬼"という意味を持つ武器だ。 


「ノアぐらいだよ~? ラミアの攻撃から生き延びられるのは~」

「おかげさまで一度死にかけたことがあるからな…!」

「でもやっぱり私の武器よりノアの方が厄介だとおも―――」

「お前の武器の方が十分厄介だろうが…!!」


 ノアがその小さな鎌を撃ち落とさずに回避をしている理由は、このラミアの力にある。ノアのことを追い回しているラミアの小さな分身は「攻撃を受けるか、攻撃を与えるか」のどちらかが行われれば行われるほど、通う創造力が強化をされ、創造破壊を受け付けなくなっていく。

 

 それに加え、相手の創造した武器とラミアが接触をすれば、武器の創造力を吸収して耐久力や威力を劣化させることも可能となる。


(確かに…少しチートが過ぎるかもね~)


 破壊する方法はただ一つ。

 私の創造力を超える一撃を小型の鎌に撃ち込んで一撃確殺するか、このようにして避け続け、本体である私の大鎌を創造破壊するのどちらか。つまり、ラミアの力に抵抗できる者は私と同等か私以上の実力者のみ。


「だったら…」

「あっ」 


 ノアは二丁拳銃を上空へと投擲しながら小型の鎌をギリギリで回避する。

 その間際に弾丸を創造して無造作に宙へとばら撒いた。


「これでどうだ?」


 落下してきた二丁拳銃を両手で掴み、引き金を引いて左右に発砲をすれば、散らばっていた弾丸に衝突していく。その反動で散らばった弾丸は次々と発砲され、辺りに弾丸が飛び交い


「それどうやってやってるの~? 普通に考えてそんな技できないでしょ~」


 次々と小型の鎌を貫き、ラミアを止められる唯一の方法である一撃確殺による創造破壊を行った。ノアのラミアに対する対抗策はこの人の道を外れた技。しかも前世ではラミアとの初対面をした二日後に、この技を生み出してラミアによる攻撃をものともしなくなっていたのだ。


「お前はこんなクソみたいな世界に常識を求めるのか?」

「…それもそうだね~」


 私はラミアを両手持ちに変え、宙に浮かんでいるノアの懐へと接近する。

 そして、必殺である首狩りを試みた。

 

「ここまでその速さで来れるのも、常識内のつもりか?」

「これが私にとっての常識・・だから~」  

「そうか。お前に常識を求めようとすること自体が愚かだったな」


 ノアは二丁拳銃に創造力を込めて、空砲を鳴らし、その反動で私の首狩りを避けて地上へと着地する。


「それずるいよね~! 空を飛べるなんて卑怯だよ~!」

「現に空を飛んでいるやつがそれを言う権利はないぞ」 

「きゃ~! ノアにスカートの中を覗かれる~!」

「果てろ」

  

 私がわざとらしくスカートを押さえると、イラついたノアが第一キャパシティである再現トレースを発動して、二丁拳銃から撃ち出された二発の弾丸に氷と炎を纏わせ発砲した。私はそれを大鎌の一振りで弾丸もろともかき消す。


「今だから言えるけど、その能力って強いよね~。再現トレース…だっけ~? その能力があれば、努力をしなくても能力や技が無限に使えるんでしょ~?」

「…欠点もあるぞ」

「ふーん。欠点ってなに~?」

「お前が第一キャパシティを明かすのなら話してやる」


 私はノアの能力を知っていて、ノアは私の能力を知らない。

 それは不公平だと感じているのか、私の第一キャパシティを教えるように求めてきた。


「嫌だよ~。どうしてノアに私から能力を明かさないと――――」

神通力・・・、だろ?」

「―――!!」


 ノアのその言葉で私はニヤニヤと笑みを浮かべていた表情を真顔に戻してしまう。


「…あははー? あまりにも的外れで少し驚いちゃったよ~」

「的外れじゃない。お前と何百年も殺し合ってきて、ずっと不思議に思っていたんだ。どうしてお前から創造力だけじゃなく、別の類の力を感じるのかを」

「知らないなぁ~…」

「正体が掴めるまで今までずっと黙っていた。だが、お前が寝ているときに手を触れてやっと分かったよ」


 それはきっと布団掃除の日だ。

 あの日は普段よりも警戒心を解いて、眠ってしまっていた。


「――お前は神通力と創造力の二つを身体に備え持っているってな」

「……」

「創造力の変換なのかと一瞬疑ったが、あれは完全に自然体だった。お前の身体には生粋の神通力が流れている」

「…」

「その表情を見るに…図星らしいな」


 私は一体どのような顔をしているのだろうか。

 おそらく、誰にも見せたことのない顔をしているに違いない。


「…ノアの言う通り。私の第一キャパシティは神通力に関連している六神通ディヴァインって能力だよ」

六神通ディヴァイン?」

「うん。この能力は六種類の神通力が扱えるようになる力。空を飛んだり、遠くにあるモノの音や位置を把握したり…ノアの心を読んだり、ね」

「なら訓練の初授業の時に、心が読めるキャパシティだって嘘をついていたのは…」

「あれは本当にノアの心を読んだからだよ」


 ―――六神通ディヴァイン

 姿を隠したり空を飛んだりと、超能力が使用可能となる神足じんそく通。遠くにあるモノの位置を把握することができる天耳てんに通。人の心を読むことが可能となる他心たしん通。これらを使用して、私は殺し合いに挑んできた。


「お前は仏教徒なのか?」

「まさか。私が仏になれると思う?」

「…なれないな」

「でしょ~? 私の第一キャパシティも分かったんだから、早く戦いの続きを始めようよ?」


 私が大鎌を構えて、体内の創造力を高めると


「あぁ、すっかりと忘れていた。前世の話なら、自分の半身・・・・・に聞けばいいんだな」


 ノアも二丁拳銃を構え、体内の創造力を高めた。


「「――ユメノ使者」」

 

 そして二人で声を合わせて、ユメノ使者を呼び出そうとする。


「……」

「……?」


 しかし海岸に押し寄せる波の音が辺りに響き渡るのみで、ユメノ使者はまったく姿を見せない。私もノアも前世と同じ力の要領で、構えで呼び出しているため、お互いに何故ユメノ使者が現れないのかが分からない様子だった。偶々呼び出せなかっただけなのかと何度か「ユメノ使者」と声に出すが、どれだけ試しても無駄のようだ。


「…どうしてユメノ使者を呼び出せないの?」

「分からない。原因として考えられるのは、創造力不足か、ユメノ使者を呼び出せるまでの領域に達していないのどちらかだ」

「転生をしてそこまで落ちぶれていると思う?」

「いや、落ちぶれてはいないはずだ。能力も扱えるし、創造破壊、再生だって普段通り…」


 私は手に持っていたラミアを観察する。

 武器だって特別弱体化されているわけじゃなさそうだ。


「まったく見当がつかないな…」

「……」

 

 けれど、私の中ではある一つの憶測がユメノ使者を呼び出せないことで、また一歩確信へと近づいてしまっていた。確信へ変わる瞬間が百パーセントでいうなら、今現在は二十パーセントほどだろう。


「ルナ、どうしたんだ?」

「…ううん、何でもない。それよりももう帰ろう~? 三時過ぎちゃってるし~」

「そうだな。実力確認をした甲斐はあったし、そろそろ戻るか」

 

 月の光が明るく海上を照らす。

 私が見つめたその水平線の先は、果てしなくどこまでも、遠く遠くへと続いているような気がした。

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