貴族令嬢アメリア、ユニークスキル『モニタリング』でお姉様を監視します!

中谷キョウ

短編

「ごめんなさい殿下!」


放課後の校舎裏。聖樹の下でわたしは大きく頭を下げた。


「そうか……僕の何が気に入らないんだいアメリア? 今日、僕はキミのために1000本のバラを用意したよ。誕生日にはキミのために大きなケーキも用意したし、豪華なディナーにも招待した。いったい、僕の何が気に入らないんだい? なぁ、アメリア」


全部。


そう言おうとしてわたしはその言葉を呑み込んだ。

相手は学園内屈指のイケメン王子様。くっつけば玉の輿で彼に恋する学生も多い。


けれど、彼はサイアクなクズだ。


今日だって、人気の少ない放課後の校舎裏に呼び出しておきながら周りには観客を用意している。


原因は言わずもがな彼の用意した1000本の赤いバラだ。朝からこれ見よがしに赤いバラを持ってきては今日告白することをペラペラ、ペラペラと話まくっていたのだ。


そのおかげで慎ましくなるはずだった告白劇がいっきに周知のものとなった。


それだけではない。

誕生日にくれた大きなケーキ。たしかに美味しかったけど、デカデカとわたしの名前と似顔絵を描くのはやめてほしい。


ケーキに包丁が入るたび、なんとも言えない気分になる。豪華ディナーも大変だった。ただでさえ大きなケーキを無理矢理食べさせられた後のフルコース。


わたしに太ってくれといわんばかりだ。

あの時はいろいろ理由をつけて逃げ出したのでことなきを得た。


いくら王子だからといって。

いくら玉の輿だからといって。


コイツと結婚することだけはありえない。


それにわたしには……。


「ごめんなさい、わたしには好きな人が……いるんです」


そう好きな人がいる。

気高くて美しい白鳥のようなわたしの憧れ。あの人以上に好きな人はいない。


「そうか……すまなかったな……キミの気持ちも知らずにこんなことして」


さすがは外面イケメン。


こんなに野次馬がいる前では本性は出せないようだ。


でも、わたしは知っている。

このクソ王子がどれだけ腹黒なのか。


わたしの親を丸め込め無理矢理婚約を取り付けようとしたことも。


家まで馬車で送ると言いながらいかがわしい場所へと連れていこうとしたことも。


わたしは知っている。


婚約や強硬策が無理だと悟った彼が次にしたのはプレゼント攻撃。それも大量に周囲へ見せつけるように。そのひとつがあの誕生日ケーキフルコース事件だ。


そして、その最後に全員の前での告白だ。

見せつけるように登校時に赤いバラを持ってきて。王室の印で封じられた立派な手紙をわたしの下駄箱へ入れた。


それもこれもわたしが告白を断りにくくするための布石。


正直、うんざり。


こんなクソ王子のためにわたしのプライベートが削られるなんて我慢ならない。


だからここでハッキリとクッキリと断ってやったのだ。


ザマァミロ。


王子はプライドが高くナルシストだ。

だから、今日ここで断られるなんて思いもよらなかったはずだ。


実際、笑顔を浮かべてはいるが口元は歪んでいる。


プライドがズタズタになったのだろう。


ああ、スッキリした。


これでこの王子も諦めてくれるだろう。

わたしはその日、満面の笑みで帰宅した。


***


「王子様振ったんだって?」


大親友のリリーがそう言葉を漏らしたのは帰宅後の我が家でのことであった。


リリーはわたしにとって唯一の大親友だ。

家族にも言えないような秘密を打ち明けられることができるただ一人の親友。家同士の付き合いもあって小さい頃からよく遊んでいる。


そんな彼女にはもちろんあのクソ王子の話はしてある。


「うん、知ってるでしょ。わたしがめーわくしてるって。せいせいしたんだから」

「あー、でも勿体ないんじゃないの? 玉の輿だよ。玉の輿。アメリアは可愛いんだから絶対、王子様尻に敷けるって」

「イヤよ。あんな王子なんてそれにわたしには……」

「好きな人がいる。でしょ。ああもう! アメリアの好きな人って誰よ! わたしにも教えてくれないなんてヒドいよ!」

「リリーごめんって。わたしだってホントはリリーに相談したいんだよ」

「とか言っていつも結局、教えてくれないじゃん」

「あはは……」


わたしの好きな人。

それはリリーにも言えないとても素敵な人。

言ったら多分、リリーだってあの人のことを好きになってしまうだろう。


「あら、二人とも盛り上がってるわね」


ちょうどいいタイミングでお姉様がやってきた。


わたし以上に可憐なバラが似合うわたしのお姉様。今日も笑顔が素敵だ。


「あ、シシリアさん。聞いてくださいよ。アメリアったら、あの王子様のこと降ったんだよ」

「ええ、わたしの学年にもウワサになってましたわ。アメリア、せっかくのチャンス棒に振るなんてホントに何を考えてるの」

「それがアメリアったら好きな人がいるみたいなんですよ」

「ちょっと、リリー!?」

「へぇー、アメリアに好きな子ね……ね、ね、お相手はどなた? 家柄はたしかなの? はっ、もしかして庶民?」

「それがシシリアさん。アメリアったらわたしにもその人のこと教えてくれないんですよ」

「ええ!? こんなに可愛いリリーちゃんにも教えないなんて……わかったわアメリア。貧民街出身の方なんでしょ。お父様とお母様は私が説得するからお姉ちゃんには教えなさい」


フワッとバニラみたいな香りが広がる。


とても優しいわたしのお姉様。

お姉様には申し訳ないのだけどわたしが好きなのは貧民街出身のお方ではないのです。


そして、決してお姉様にわたしの好きな人を教えるわけにはいかないのです。


はにかみながら追求をやり過ごす。


「あー! アメリアったらまたやり過ごすつもりね! 今日こそはアメリアの好きな人教えてもらうんだから!」

「ふふっ……リリーちゃん。よしなさい。アメリアだって秘密にしたいんだよね」


さすがはお姉様。リリーと比べて人間が出来ている。


「ぶぅー、シシリアさんアメリアに甘すぎですよ」

「いいじゃない。大切な妹なんだから」


「じゃあ、シシリアさんはどうなんですか?」

「あ、わたしもお姉様の好きな人、気になります!」

「ふふっ……『お姉ちゃん秘密』よ」


そう言って今日もお姉様ははぐらかす。


わたしと同じようにお姉様も想い人は秘密にしている。


ウワサでは同じ騎士科の先輩と仲が良いって聞いたけど、お姉様は否定している。


お優しいお姉様のことだから、想い人は誰かと婚約でもしていて伝わらないように隠しているのでしょう。


可哀想なお姉様。

でも、こんなに素敵な笑顔を浮かべるなんてやっぱりお姉様はすごい。


「もう、二人とも秘密多いよ!」

「いいじゃない。それにリリーみたいに学校でラブラブしたくないもん」

「ラブラブって……私とアイツは親が決めただけの婚約者だって! いつも言ってるでしょ!」

「ふふっ……騎士科のグレン君だっけ?」

「ええ、お姉様。グレン・ラーガス。家は騎士公だけど昔から王国に仕えている由緒正しい名家ですよ」

「いいわね、お昼はいつもグレン君と二人で?」

「いえ! 違います! いつもアメリアと一緒に食べてます」

「でも、たまにグレン君来るよね。もちろんリリーとイチャつきに」

「イチャついてないよ! アイツが体裁がどうのこうの言うから仕方なく読んでるだけなんだから!」

「お姉様。ご覧の通りリリーはツンデレなんです。だから、許してやってください」

「ちょっとアメリア!」

「あら、ツンデレ……とても可愛らしくてよ」

「ほうら、お姉様もそう言ってるんだから認めなさいよ」

「もう! アイツとは本当にそんなんじゃないんだからね!」

「はいはい、わかったわかった」


まったく、リリーの照れ隠しにも困ったものだ。

二人っきりが恥ずかしいからってわたしを含めるなんて、グレンが可哀想。


「失礼しますお嬢様方、そろそろご夕飯のお時間です」

「あら、もうこんな時間だわ。リリーちゃん、今日はウチで食べていくの?」

「ごめんなさい、シシリアさん。そうしたいのは山々なんですが、今日は両親と約束がありまして……今日は失礼します」

「残念。ならまた今度遊びに来た時にね」

「はい!」


リリーはいつも遊びに来るため今度というのは明日かもしれない。

大親友のリリーと食べる食事は楽しいからわたしも楽しみだ。



***



夕飯が終わりお風呂も終わえて、パジャマとなったわたしはフカフカのベットへダイブした。


学校へ行ってる間に太陽の光を浴びていたシーツはヌクヌクしててこのまま寝落ちしたい。


でも、まだ寝たらダメだ。

今日もわたしの日課をしなければ。


廊下に使用人がいないことを確認し、机に向かう。


「ぐへ、ぐへへ……」


あ、ダメだ。淑女としてあるまじき声を漏らしてしまった。


いくらこの日課が楽しみとはいえ口に出してしまうのはダメだ。


愛用の水晶を取り出して魔力を流し込む。


すると水晶にお姉様が映った。


これは半年前にわたしに発現したユニークスキル『モニタリング』だ。


水晶やガラスなどに特定の人物の周辺を映し出す素晴らしいスキル。


特定のひとりしか映し出せないけど、録画機能と解析機能が付いているためすごく便利だ。


「ああ、お姉様。今日も美しいです」


パジャマ姿のお姉様が自室で本を読んでいる。

わたしの前では決して見せないであろう可愛らしい笑み。


お姉様はわたしとか家族の前ではいつも凛々しく振舞っているけどひとりでいるときはいつも緩んでいる。


今日はお姉様お気に入りの少女向け小説だろうか。


タイトルをチェックしてみるとお姉様が3日前の夕方にご友人と書店で買われた流行りの小説だった。


今日読まれているということは明日にはこの話題がいける。


こっそりと買っていた同じ小説を棚から取り出してわたしも読み始める。


お姉様は今、32ページ目。同じページをめくって同じようにわたしも読み進める。


お姉様と同じお紅茶を入れてお姉様と同じバラの香りがするアロマを焚く。


ああ、お姉様と同じ時を過ごせるなんてすごく素敵。


お姉様はわたしの前ではいつも大人ぶって、紅茶にはミルクも砂糖も入れず小説も難しいものを読む。


だから、こうしてお姉様のお部屋を覗いてお姉様の可愛らしい一面を観れるなんてすごく幸せ。


一日で一番楽しみな時間。

こんな時間がいつまでも続いてほしい。


そう、わたしの好きな人はわたしのお姉様。


世界で一番素敵なわたしの大切な人だ。



***


グレンとの待ち合わせはいつも決まって家の前にある木の下だ。


「グレン! 遅いじゃない!」

「ご、ごめん! リリー! 今日は父さんが朝食に遅れちゃって……」

「言い訳は後で聞く! ほら、さっさとしないとアメリアが行っちゃうでしょ!」

「(アメリアと一緒に行きたいなら、約束すればいいのに)」

「何か言った?」

「い、いや。なんでもないよ」


グレンは騎士科でも優等生なのに気弱だ。いくら親同士が仲良いからって結婚まではしたくない。


だけど、これでも私も貴族令嬢の端くれ。望まない婚約者だろうが関係ない。体裁だけでもどうにかしなきゃいけない。


だからいつもグレンと一緒に登校している。


貴族令嬢が歩きで登校なんて危険だけど、王都の治安の良さとグレンが護衛に付いているおかげでなんとか親を説得できた。


あれもこれもアメリアと登校したいがためだ。


アメリアの住む屋敷は学校からほど近く、アメリアとシシリアさんは徒歩で登校している。


私が住んでいるような中流住宅地とは違ってとても安全な場所なので、あの辺りに住む学生は貴族であっても徒歩で登校することが多い。


「リリー、いたよ」


グレンと歩いて学校に向かっているとアメリアの姿が見えた。


隣にはシシリアさんがいて、仲良く何か談笑している。


「グレン、昨日の情報!」

「あ、うん……」


グレンは有能だ。

配偶者としてではなく友人としてだけど。とても優秀。


今日も私のためにアメリアの情報を用意してくれる。


「貸して……なになに、昨日の夜は一昨日買った小説を読んだのね」


最近流行りの小説だ。

私も昨日入手して既に読破している。


お値段はそれなりにするし、アメリアより遅く買ってアメリアより早く読まないといけないけど、アメリアと同じ話題をするためには致し方ない。


「ちょうど告白シーンくらいかな」


グレンの使い魔である白カラスのヤルタは過去起きた事象を日記化することができる。


魔力と体力の消費は半端ないらしいけどグレンも良いって言ってるから便利に使わせてもらっている。


あくまで日記だから詳細が書いてないことも多いけどそこは気力と根性でカバーする。


昨日読み進めたのは102ページ。物語の主人公が好きでもんくぃ男の子に告白されるシーン。キリが良いからそこで止めたのであろう。


そこまでわかれば後は大丈夫。自然な流れで会話に入れる。


「グレン、これからアメリアたちと行くからちょっと離れてなさい」

「はいはい」


呆れつつも私の命令に従ってくれるグレン。やはり、持つべきものは従順で優秀な幼なじみだ。


「おっはよーアメリア! リリシアさん」

「あ、リリーおはよー」

「あら、リリーちゃん。今日も奇遇ね」


奇遇なんて言うけどこれは計算だ。

アメリアたちの朝食パターンを事前に調査し、確率の高い時間に通学路へと向かう。


約束するのは恥ずかしいけど、大体同じ時間に登校しているだけなら気軽だ。


「二人で何話してたの?」

「あ、お姉様と小説の話してて……」


やっぱりだ。


二人とも流行の小説の話をしている。

リリシアさんはいつも難しい本を読んでいるイメージだけど、話せば以外と幅広いジャンルの本を読んでいる。


アメリアの前では聞き手側に回りがちだから、ここは私がアメリアに話題をふってあげないと。


「あっ! あの小説ね。私も読んだよ」

「そうなんだ! お姉様も読んでいるようでして、まだ途中だから続きが気になるって話をしてたんだ!」

「ええ、友達に勧められて読み始めてみたら、とても面白くて。リリーちゃんはどうだった?」

「私もまだ途中なんですが、とても面白いです! アメリアも途中?」

「うん、半分くらいかな」

「私もそれくらい! 告白のところ」

「わぁ、奇遇だね! わたしも同じところ! 」

「ふふっ……実は私もその告白のところなの。みんなあそこで一区切り入れるみたいね」


成功だ。

昨日、眠いのをガマンして全部暗記した甲斐がある。


私たちはそのまま小説の話に花を咲かせた。


***


「ねぇ、そんなにアメリアと一緒にいたいんだったら。学校も約束して行けばよくない?」


授業合間の休憩時間。

いつもの密会をしていたとき、グレンがふいにそんなことを呟いた。


「ダメよ。だって、グレンは知ってるでしょ。私の気持ち」


私はアメリアのことが好きだ。


同性だけど愛している。


「でもさ、だからって僕を隠れ蓑にするのはやめてほしいんだけど……」


グレンのクセに生意気なことを言う。


グレンは私にとってアメリア以外で信頼できる友人だ。


親同士は結婚させるつもりがあるみたいだけど、私にはそんなつもりはサラサラない。


グレンにもそのことを言って承諾してくれているし、今さらなんと言おうが関係ない。


私はアメリアが好き。


愛している。それこそ、出会った時から。


一目惚れだった。


お人形さんのように透明な肌に流れるような金色の髪とクリッとした瞳。


愛嬌のある顔から溢れる笑顔は格別で私もついつい釣られて笑顔になってしまう。


私はアメリアのことが大好きなのだ。


でも、アメリアは私のことをただの友人だと思っている。


もしもこの気持ちを伝えてしまったら今の関係が壊れてしまうかもしれない。


だから、こうしてグレンと密会をしながらアメリアとの適切な距離を保っているのだ。


ちなみに今日の議題はランチについてだ。

小説の話に花を咲かせた私たちはランチの時間に続きを話そうと約束した。


リリシアさんもいるから二人っきりではないけれど久しぶりのランチ会だ。


いつもはアメリアがグレンと食べなよって言って遠慮するから今日は本当にラッキーだ。


「ふヒヒ……今日のランチはアメリアと一緒」

「リリー、ヨダレが出てるよ」


おっといけない。

淑女にあるまじきことをしてしまった。これではアメリアに嫌われてしまう。


緩んだ頰を引き締めて教室へと戻る。


今日のランチが楽しみで仕方がない。



***



「うふふ……まったく、計画通りだわ」


タロットカードを1枚めくると悪い魔法使いの逆位置。これは良いことが起きるという吉報の兆しだ。


「あれ? リリシア様、またタロットしてるの?」

「ええ、趣味ですから」

「それじゃあ、今日も占ってくれる?」

「いいわよ」


ニッコリと笑って世話好きなクラスメイトとの会話を謳歌する。


私のタロット占いはウソをつかない。いつも未来を暗示してくれる魔法のスキルだ。


今日もタロット占いのおかげでうまく二人を誘導することができた。


可愛い妹であるアメリアはあの監視スキルで流行の小説を買い、アメリアをさらに監視しているリリーちゃんも同じ小説を買う。


(本当に計画通りだわ)


これでリリーちゃんとランチする名目が得られたわ。


『お姉様』と私を慕ってくれるアメリアの気持ちもリリーちゃんが婚約者のグレン君じゃなくてアメリアのことを好きなのも知っている。


けれども、私はリリーちゃんのことが好きなの。


初めてアメリアが家に連れてきたあの日から。

ずっとリリーちゃんのことが好き。


リリーちゃんがアメリアを好きってことは最初から感じていたけど……この気持ちだけは止められない。


(ふふっ……リリーちゃんとは少しづつ仲良くなればいいのよ)


だって、未来を占えるタロットスキルは間違いないのだから。



***



「あっ……お姉様やっと来た! こちらに座ってください!」

「ふふ……じゃあお邪魔するわね」

「もう、アメリアったら。狭いんだからもっと詰めてよー」

「ごめんねリリー。あ、お姉様は大丈夫ですよ。わたしが詰めますから」

「大丈夫よアメリア。そんなに気を使わなくても。これでもあなたのお姉ちゃんですからね」

「お、お姉様……ありがとうございます!」

「それよりもリリーちゃん。あなたのお弁当、美味しそうわね、ひとついただいていいかしら」

「はい! どうぞどうぞ! 実は今朝作ってきたんですよ。アメリアも食べてみて」

「リリー、すっごく美味しいよ! ですよねお姉様!」

「ええ……とても美味しいわ……一生食べてたいくらい」

「あははっお姉様ったら大げさなんだから。あ、でも本当に美味しいよ! ありがとねリリー!」

「リリシアさんもアメリアもありがとう。また作るね」

「うん! また食べたいな」

「そういえばあの小説だけど――って思うの」

「お姉様もそうですか! わたしもそうじゃないかって思ってたんですよ! やっぱりお姉様はステキです」

「アメリアだってスゴイよ。私なんて最初の手紙の意味わかんなかったもん」

「ふふっ……なんだか早く続きが読みたくなってしまったわ」

「リリシアさん、わかります! あの後の展開がすごく気になってしまいます」

「あら、じゃあ今晩も続きを読もうかしら」

「わ、わたしも今日の夜読みます!」

「なら、明日もランチ会しましょうよ」

「いいね」

「どこまで読むか決める?」

「そうねぇ、なら……」


アメリア、リリー、リリシア。

3人はそう笑い合う。


彼女たちの偏愛が実るのかどうか。

それはまた別のお話。

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