白と黒の大鷲  5

「お前達家出したと聞いたが、まさか母さんにそんなことを言うなんて……。

 親に向かってなんてことを言うんだ!」


 最悪のタイミングで登場したのは玲也と蒼馬の父親だった。


「あーあ」


 思わずこぼしてしまう。


「父さん!ち、違うんだよ。俺達は…」


「母さんはなぁ、仕事で忙しい俺と違ってずっと側で育ててきたんだぞ!?それなのに…」


 これには心咲も苦笑いだ。


 玲也は必死に弁解しようと言葉を並べるが、そのどれもが遮られ、父親は怒りを加速させていく。


 父親がツカツカと玲也に詰め寄り、そして、手を振り上げた。


 手の早い両親だ。


 蒼馬は頼みの綱の父親があてにならず呆然としている。玲也は詰め寄られた際に萎縮して怯んでしまっていた。


 しょうがない。




●●●●




 構えられた平手に、玲也は身を竦めた。


……しかし、恐れていた衝撃は一向に襲ってこない。


 顔を上げるとそこには、


「さすがに見てらんないかなー」


 父親の腕を掴む、竜の背があった。


「なんだ君は!?これはうちの家庭の問題だぞ!」


 騒ぐ父親に目もくれず、竜はマンションの出口に向けて顎をしゃくった。


「…っ!!」


 玲也は蒼馬の手をとると、父親の真横を駆け抜けてゆく。


「あっ!っ、おい離せ!!」


 当然竜はその手を緩めない。後ろで回り込んで抜けようとする母親は、片腕で進路を阻む。


 大の大人に睨まれようとも竜はどこ吹く風、ただこの2人を逃さぬようを立ち塞がっていた。


「玲也と蒼馬の父親ですね?2人から話しを聞きました」


 いつの間にか、心咲が父親のすぐ隣に立っていた。


「あの子達はそこの母親に虐待を受けていたそうです」


「は?何言ってんだ!みんなはいつも仲良く…」


「振る舞わされていた」


「黙んなさい!!」


 母親がヒステリックにがなり立てる。だが心咲はそれを無視して続けた。


「始めは玲也を差別していた。白くて気持ちが悪いからと。しかし玲也が歳を重ね美しくなると、蒼馬を追いやろうとした。

 そんな環境に2人は堪らず逃げ出した。あの子達は……」


 そこで心咲は言葉を止めると、父親に体を向けた。


「父親のあなたに助けを求めに来ていたのですよ」


「な……なんで……」


「嘘よ!!」


「あの子達の名誉の為に一応伝えておきました」


 竜と心咲はその場を後にする。頭を抱える父親と、狂ったように叫ぶ母親を残して。




●●●●




「お前性格悪いなー。知ってたけど」


「ポジティブに考えろ。真実を教えてやっただけだ」


「否定はしないのな」


「受け取った情報をどうとらえるかはそいつ次第だろ。お、いたぞ」


 マンションを出た俺は、心咲と始めの公園へ戻ってきていた。


 あの場から逃げていった玲也と蒼馬は、柊里に連れられここに戻ってきていたのだ。


 今は3人揃ってベンチで肩を寄せ合い泣いていた。


「柊里まで泣いてる」


「グスッ……つられて……」


「…そか」


 女性は男性よりも共感しやすいらしい。そのせいだろうか。


「まぁ、なんだ。お前らも、その……ドンマイ」


 痛い。


 心咲と柊里の視線が刺さってくる。それしか言うことが無いのかと、めっちゃ責められている。


「あ…………うん」


 とりあえず口をパクパクさせてみたが、なにも出てこなかったので、黙って玲也と蒼馬が落ち着くのを待つことにした。


 針のむしろになりながらしばらく。嗚咽が落ち着いたのを見計らって話しかけた。


「…なぁ、お前ら今後どうする?」


「……どうも、できないッスよ……」


 玲也はうつむいたまま呻いた。


「じゃあさ、ウチ来ない?」


「「?」」


「あのアパートに住んでみないかなって。仕事を手伝ってもらおうと思ってる」


 以前、柊里が引け目を感じた点を考慮して、今回は予めタダではない事を先に挙げてみる。


「学校とかには行けないけど、どう?」


 次は蒼馬に聞いてみる。


「でも…悪いですよ…」


「行く所無いんだろう?それに今俺達は人手が欲しいんだ。住み込みで働くと考えてみよう。どうだ?」


「だいじょーぶ!実はあたしもつい一週間前からお世話になってるんだよ?」


 心咲に続いて柊里もプッシュする。


 玲也と蒼馬はそれぞれしばらく考え込んでいたが、やがて顔を見合わせると頭を下げた。


「「よろしくお願いします」」


「うし!ドーンと頼りな!」

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