白と黒の大鷲  3

 夕暮れ。アパートから少し離れた竹林をザカザカと進んでゆく。


 黒と赤二色の竹林は心に余裕があれば浸れるのだろうが、俺と心咲の後をついてくる3人は不安そうだ。


 柊里なんかは、俺の手首が変身しかけてしまっているほど強くしがみついている。つまり生身だと怪我をしてしまっている握力ということだ。やばい。


「まー、みんな。そんな怖がりなさんな。この先に開けた場所があるんだよ。



……ほら、いい感じでしょ?」


 突然景色が開ける。そこは周りを竹の壁に囲まれた空間だった。空と竹しか見えない。世界から切り離されたように思えてしまう、不思議な場所。


「むかしね、心咲とここの竹を使って秘密基地作ろうとしたんだよ」


「完成間際に台風で全壊して挫折したっけか。懐かしいな」


「悲しっ!」


「でも秘密基地とかは憧れッスよね。俺も小学生の頃作りましたもん」


「いいなぁ。僕は習い事ばっかりでそういった遊びはできなかったから羨ましいです」


 心地よい風が吹き、空を仰いで立ち尽くす。


「ふぅ……何しに来たんだっけ……」


「うん……、いや2人を送ってくんでしょ!?」


「そんなこともあったなぁ……」


「もー!」


「……。さて、そろそろ行くぞ」


 空気に浸り、満足した俺と心咲は服を脱ぎ始める。


「えっ、キャッ!何!?」


「服着たまんまだと破れるからね。大丈夫、下は先に変身させてるから見えんよ」


「あ、そっか……」


 そう言いながらも柊里は背を向けた。




 


 服を脱ぎ終えてから声をかけるがこちらを向いた顔は赤い。俺も心咲も下半身は人の姿でないのに




 脱いだ服を袋に纏めて柊里に渡し、心咲は玲也と蒼馬に振り向いた。


「今から見ることは他言無用だから」


 そう言って完全な変身をする心咲に俺も続く。


「おー」


「え!えぇー!?」


「あぁ……だから……」


 柊里は前に1回見ているからか落ち着いているが、玲也なんかは仰け反って俺を見上げていた。しかし蒼馬は驚くと同時にどこか納得していたようだった。


『蒼馬、どうかしたのか?』


 変身を済ませた心咲が声を響かせる。蒼馬はその声にも少し驚いていたようだが話し始めた。


「あー、……アパートでレイを見るあなた達の目は、他の人と違っていて……。みんな、アルビノのレイを見るときはもっと好奇の目とかで見るんです。


 それで今、竜さん達はすごく珍しい幻獣種だったからレイを見ても驚かなかったんだなって」


「アルビノも十分珍しいとおもうけどね。玲也もきれいだけど大変なんだねぇ」


「時々聞かれるんスよ『日光に弱いんじゃないか』って。でも俺獣人だからか耐性あるみたいなんで特に苦労は無いッスね。


 それに人目を避けたければ立入禁止の森林とか入っちゃえばまず人はいませんし」


「……レイ、初耳なんだけど」


「げっ…」


 まぁ誰にでも秘密はあるよね。ただそれは後にしてもらおう。


『そろそろ行くぞ。もう真っ暗だ』


 夕焼けからの日没は早い。街の明かりが届かないここは既に真っ暗だ。


 その後、住所を覚えている蒼馬が心咲に、柊里と玲也は俺に乗ることになった。






●●●●






 誰もいない公園の木の陰に降りた俺達は、柊里から服を受け取って着ると、蒼馬の言う住所を頼りに進む。






「あそこか」


「そうです」


 着いたのは、入口を見てもわかるほどの高級感溢れるマンションだった。


「見たことあるぜここ」


「来たことあるからね」


 そんな2人を横目に、俺も壁やら天井やらを見回してみる。


「随分と稼いでるらしいな。すげぇ」


「俺達の貯金なら部屋1つくらい余裕で買えるぞ」


 実際住めると言われて考えてみる。





 ……庶民の俺には縁遠いところだな。


「玲也、蒼馬。父親部屋番号はわかるのか」


「はい」


「よし。んじゃ俺達の出番はここまでかな」


「そうだな。後はお前たちだけでいけるだろう」


「頑張ってねー!」


「「ありがとうございました!」」


 玲也と蒼馬はペコリ頭を下げた。インターホンの前に並ぶ2人を見て、俺達も背を向ける。


「じゃあ俺達も行きま…」


「うわぁ!!」


 背後から玲也の大きな声が聞こえた。


「どうしたの?」


 柊里が駆け寄って声をかけたが、


「ヤバイヤバイヤバイ」


 玲也は動揺を顕にし、蒼馬も顔が真っ青だ。


「ちょ、まじでどうしたん」


 とりあえず話せそうな蒼馬に尋ねると、ゆっくり口を開いた。


「……母さんが…先回りしていました……」

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