拾い猫 2
「ただいま」
「お邪魔しまーす」
須崎家に着いた俺達は呆れ顔の美里さんに迎えられた。
「学校は?」
「休んだ。ほら、通るよ」
心咲はあっさりとした態度で言うと、玄関に仁王立ちした美里さんを退けて家に上がった。
「まったく」
美里さんは諦めたように肩をすくめると表情を明るくさせて俺を、正確には俺の持っているタオルの塊を見た。
「で、それが子猫ちゃん?」
「そ。名前はナオね」
ここに来るまではずっと徒歩だったのでその間に考えたのだ。猫の『ニャーオ』の鳴き声を『ナーオ』として、そこから『ナオ』だ。
「見せて!」
「上がってからにしたら?ナオも落ち着いた場所に置いた方がいいだろ」
ナオを包んだタオルに手を伸ばしかけていた美里さんを心咲が背から呼んだ。
「あ、じゃあ上がって上がって!そして抱っこさせて!」
「居間着いてからねー」
須崎家は2階建ての一軒家でそこそこ広いお家だ。心咲の父がかなり稼いでいて、俺と心咲がハンターとして始めた時も金銭面や知識などでかなりお世話になった。
また、須崎家は父、母、姉、心咲の家族構成なのだが、全員俺と心咲が異常な獣人だということを知っている。
家庭に馴染めなかった俺は昔から須崎家にお世話になっていて、実の家族よりもこの人たちに育てられた、という意識が強い。
「うわぁーっ、可愛ぃー。あ、心咲、お茶出しなさい」
「えぇ」
文句は言いながらも従う心咲。外ではハイスペックなイケメンで通っている心咲がこんな姿を見せるのはこの家ぐらいだろう。
冷えた緑茶を持ってきた心咲と、美里さんにペット用品を買いに行く間ナオを見ていてほしいことを話した。
「いいよー。こちょこちょぱぁっ!もういっそうちの子にならない?ねーナオちゃーん」
····引き受けてくれるみたいだ。
ナオに夢中になっている美里さんを気にする様子も無く、心咲はテーブルに粉ミルクや使い捨てていいタオルなどを置いていく。
「あ、ミルク飲ませた後排泄させてないからそろそろだろ」
洗面所に移動した俺と心咲は、サイトの情報を見様見真似で行う。
「お、出た」
タオルについた小便を確認する。だが、
「····およ?」
タオルの表面には氷が付着していた。
「何これ、凍ってね?」
「凍ってるな」
「あれー、この猫ってなんて品種だっけ」
『灰色 猫』で調べるといくつか候補が出てくる。
「たぶんこれだな。ロシアンブルー」
家猫の一種のようで、しかし小便が凍るとは記載されていない。
「ナオを見つけた時、体温があったと言ってたな。あれは何度ぐらいだった?ピット器官で見たんだろ?」
「10度から20度の間くらいかな」
そう言うと心咲は呆れたように息をはいた。
「哺乳類はそんなに低い体温じゃ死んでるよ。少なくとも普通のはな」
「え、じゃあこの子って····」
「幻獣種だろうな。それも突然変異の」
幻獣種、それは1000年前の人類最繁栄期の科学に当てはまらない生き物のことを指す。例を挙げれば俺や心咲、この前の雲状雷虫なんかがそうだ。獣人は獣人として認識されている。
分類の仕方は色々あるらしいが、俺やナオは突然変異で、雲状雷虫は元々そういう生き物だ。心咲はおそらく別のものに当てはまるだろう。専門知識はないから詳しくはわからんが。
「で、お前はどうする?」
心咲は顔を向けずに聞いてきた。
発見された幻獣種は、危険だ、ということで国に回収され殺処分になる。人間から産まれると保護対象になるらしい。
答えは決まっている。
「そりゃね、飼うよ。こんなかわいい子殺させてたまりますか」
「そうか」
「それにこの子が殺処分対象だったら、俺達なんて討伐対象になるからね!」
俺達は間違いなく危険生物に当てはまるだろう。今まで何人か殺しているので、人道無視して速攻賞金首にされそうで怖い。
「間違いないな」
子猫のトイレを済ませた後美里さんにナオを任せて、俺達はペットショップへ行き買い物を済ませた。
それから、ナオはアパートではなく須崎家で飼われることになった。
俺達学生ではアパートにいられる時間が少ないので何かあったときに気付けない、というのが美里さんのもっともな意見だったが、本人の強い意志があったのは言うまでもなかった。
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