第10話談話(上)


「あの!!!!!!さっきの『雷鳴らいめい』でしたっけ!!!!!落雷攻撃ですか!?!?!必殺技ですよね!?!?!」

「うわ、テンション高」


ビルを出て、破月さんが手配してくれた車に全員が乗り込む。車が出発した辺りで、我慢ができなくなっただろうトウジョーさんが、顔を赤らめるほど興奮気味に阿木斗さんへ質問した。


「ど、ど、どう言う原理であの技を出してるんですか???コマぶち抜きの一枚絵で絶対映える!教えてください!!!!」

「嫌だけど」

「えっっっっ」

「雷鳴の説明面倒くさいもんなー、レーカ」

「…私に振らないでくださいよ……。私もあれ、電気を使ってなんかするぐらいしかわかってないですよ」


以前、阿木斗さんがぽろっと話してくれた内容的には静電気で電流を流す…?みたいな感じらしいが、その辺りの仕組みはよく分からない。多分学校の授業の知識があれば、理解できるのだろう。ただ、生憎そんな授業を受ける前に私は吸血鬼になったので、原理の説明はできない。


「トウジョークン、ありゃぁ静電気で起こる放電だ」

「え?静電気って時々ぱちっとちょっと痛いやつですよね????あんな凄い事になるんですか!?!?!それだと僕、もう、ドアノブ怖くて触れません!!!!!!!!」

「普通はありえないから安心しろ、な?そんで少し落ち着け」

「アッ、ハイ」


道満さんは顔を真っ青に染めて震えるトウジョーさんを呆れながら、落ち着くような穏やかな声で宥めた。


私だって、今の時期に猛威を振るう静電気が、毎度あの威力で襲ってくるとか考えたくない。怖すぎる。


「静電気っつーのは、プラスに帯電したものとマイナスに帯電したものが接触すると起こる。本当はどっちも帯電したくねぇから、マイナスがプラスに突撃すんの。これが放電の簡単な仕組みな?」

「ふむふむ…」

「俺ら含め人体はプラスに帯電しやすいから、マイナスに突撃されて、痛え!ってなんだ。この痛みは体がプラスに帯電してた量分、痛くなる」


道満さんの説明にトウジョーさんと私は相槌を打つ。


「普通なら、大抵どんだけ溜まってもクソ痛え!ぐらいの痛みだけで済むんだが…そこにいんだろ?電気操れんのが」

「いえーい」


道満さんに冷ややな視線送られたにも関わらず、阿木斗さんはへらっと笑いながらピースをこちらに向けてきた。


「嬢ちゃんに鬼技使わせてたぐらいで、鳥羽クンにプラス帯電の静電気をしこたま送ってたろ。そんで、最後に足掻いてきたときに服でもマイナスチャージさせて放電ってとこか?」

「ま、そんな感じ」

「無極さんの観察眼かっけぇぇぇ!!!!これは強キャ…………あ"っっ、すいません!!!!思ったことが口から漏れました!!!!」

「トウジョークン本当君、見た目の割に元気だよなぁ」


道満さんの説明に私が1つ賢くなったなぁと思っていれば、テンション有頂天のトウジョーさんがはわわ、と自分の口を手で塞いだ。もう言葉は口から出てるから塞いでも遅いと思ったのは、秘密だ。それに、この人、心の声だけじゃなくて普通にうるさいんだなぁと確信した。


そんな話をしていれば、車は止まる。外を見れば、いつものご立派な屋敷の前だ。

運転手にぺこりと一礼して降りれば、一足先に降りていた阿木斗さんがくるりとこちらを見て、笑う。


「到着〜。俺の家によーこそ」

「えっっっっっ????家…?いえ…?」

「まぁまぁ、外は寒みぃし、入った入った!」


トウジョーさんが秘匿性を全く感じさせない屋敷の大きさに目と口をぽかりと開けれていれば、道満さんは話が長くなると言うようにトウジョーさんの背を押して、屋敷の中へと押し込んでいく。


「……吸血鬼って皆さん、お金持ちなんですかね?????」

「全員ってわけじゃないでしょうけど。………道満さんと阿木斗さんは、ヤク……地上げ屋さんっぽいので……」

「アッ、土地転がしが得意なフレンズ………」


客間に案内をしていれば、こっそりとトウジョーさんが私に話しかけてくる。血命同盟の人達は確かにお金持ちな印象は強い。


…まぁ、詳しくは私も聞いていないけれど、どうも阿木斗さんや道満さんは不動産系統のお仕事を時折人間に混じってやっているらしい。その系統の繋がりで道満さんに戸籍も作ってもらえたので、電気や水道、ガスも使える。…戸籍作れる不動産系統って絶対背後に龍が如くに出てきそうな人達いそうじゃない?


こそこそと私が返事をすれば、何かを察したかのようにトウジョーさんはどこか遠い目をした。何か思い当たる節でもあったんだろうか。


「レーカ、用意よろしく」

「…あぁ、はい。ブランデーだけでいいですか?」

「血と肉も」

「嬢ちゃん、俺、肉の味変わってんの食べたいけどある?」

「…ありますけど、ちょっと待っててください」


客室につけば、阿木斗さんはいつも通り自分の椅子に座り、道満さんとトウジョーさんも習って空いている椅子に腰を下ろした。

私は阿木斗さんと道満さんの注文に記憶を手繰りながら、用意をするために客室を出る。


私が向かった先は、調理室だ。人間の頃は特段料理に興味はなかったけど、吸血鬼になって趣味の1つになった気がするため、よくここに来る。阿木斗さんが一切この場を使わない為、私の城と言ってもいいだろう。


「ブランデーだし、おつまみはチョコでいっか……」


ごそごそとキッチンの下の収納スペース…殆どお酒の貯蔵庫となっている部分から、ブランデーとチョコ、そして調理された肉が食べたいと要望があったので未開封のベーコンジャーキーを取り出す。

これらは全て吸血鬼用に加工されている人肉やら血液を含む製品だ。こういうものを作ってくれる作り手がいるのは非常にありがたい。


ベーコンジャーキーの包装を開封すれば、薫製独特のぴりっとした匂いが漂う。

人数もいるし、多分食べ切れてしまうだろう。そう思って私は内容量の全てを準備したまな板取り出し、包丁で一口大の大きさに切る。切ったものを白いお洒落な皿に移せば、いい感じのお酒のおつまみになった。


「……今度もこれ買おう」


お酒の席に出せば、あっという間になくなってしまうだろうなぁと思って、私は一口だけ味見をした。

少し濃い目の味付けに、香辛料の香りや風味がとても美味しい。噛みごたえも中々で飽きない味だ。買う機会があれば、またストックしよう。


使ったまな板と包丁をテキパキと洗浄して、元の位置に戻す。そして冷蔵庫から真っ赤な液体の入ったワインボトルを取り出す。中身はワインじゃなくて血液だけど。

そして、全員分のグラスと料理と飲み物をキャスター付きのワゴンに乗せた。ワゴンは使う側になって分かったけど、1つあるとすごい便利。


ガラゴロガラガラ…とワゴンを引いて客間に向かえば、ドア越しにすごい笑い声が聞こえる。えっ、何?飲酒してないけどもう出来上がってるの?正直、とても中に入りたくない。…が、これを運ばなければならない。私は意を決して、扉を開けた。


「トウジョー、面白いけど友達いなかったでしょ」

「よく言われるし実際いなかったです!!!!!!!!」

「言ってて悲しくなんねぇのか、それ」

「悲しいですよ!!!!!!アニキィ!!」

「地獄か?」


私は目の前の惨状に思わず言葉が飛び出てしまったし、反射的に扉を閉めてしまった。

いや、話の前後も全くわからないけど、なんであの人達、暖房ついてるとはいえ、この真冬に上半身裸になってんの?私のいない間になにがあったんだ?

今、私が分かったのは、トウジョーさんが寂しい人っていうこととなんか3人脱いでることなんだけど。


「さっきのレーカの顔、マジ面白かった。スペースキャットレーカ」

「……理解の範疇、飛び越えてたんで」


私が理解を放棄した所で、上着だけを軽く羽織った阿木斗さんがケラケラと笑いながら扉を開ける。誰が宇宙猫だよ。


小さくため息をついてから、部屋の中にワゴンを運ぶ。他の2人はもう既に服を着直したみたいだ。


「悪い悪い嬢ちゃん」

「いや、流石に驚きましたけど、それだけなんで…。………薬物でもキめてたんです?」


楽しげに笑う道満さんを尻目に机にグラスと料理、お酒などを移していく。そのまま冗談で薬物案件か?と聞いてみれば、勢いよくトウジョーさんが首を横に振る。


「弁解させてください!!!!」

「…はあ」

「筋肉って描きにくいんですよ」

「…?………?????」


…????話の意図がよく分からない。なにが言いたいんだ、この人。

後ろから阿木斗さんの声にならない笑いが聞こえてきた。


「格闘漫画って日常系とかよりもムキムキなキャラ多く描くんですけど!!!!顔面偏差値高い筋肉キャラってすごくキャラメイク大変で!!!!おふたりにお願いして!!!!実際にイケメンマッチョの筋肉触って、手に感覚焼き付けようとしてたんです!!!!」

「……つまり」

「お触り会です!!!!」


デッサンとかじゃないんですね。

興奮気味に私に熱弁するこの人、本当に色々な意味で大丈夫かな。…大丈夫じゃないんだろうな。

 

「トウジョー、レーカの普段しない顔させる天才じゃね?」

「へへへへ…それ程でも……」


…他人を玩具にして楽しそうだなぁ、阿木斗さん。


「あぁ、これ、いい香りだな」

「……まぁ、いい奴らしいので」


わいわいと話に(汚い)花を咲かせている2人を他所に道満さんはブランデーを開けたらしい。慣れた手つきで、グラスを回し香りを堪能していた。いい値段だった気もするし、やはり安いものとは匂いが違うんだろうか。


「飲むかい?」

「度数高いって聞くし、遠慮します」

「残念だな…って、そういや、嬢ちゃんっていくつだっけ?」

「19ですよ。見た目は16で止まってるんじゃないですかね」

「……わっけぇなぁ」


道満さんにグラスを向けられたが遠慮をして、私も空いている椅子へぽすりと座る。

するとふと、思い出したかのように道満さんが私に年齢の話をしてくる。隠すこともないので、正直に答えれば一瞬の沈黙が生まれた。


「…………。禁断の恋、ありだと思います」

「うわ、顔がマジじゃん」


トウジョーさんがぽつりと呟いた言葉は真剣味を帯び過ぎてて少し引いた。


「ま、アイスブレイクもこんな所にして会議してくかぁ」


グラスとワインボトルを持った阿木斗さんが椅子に座り、口元を吊り上げる。アイスブレイクだっただろうか?と少し疑問に思いながらも、私は阿木斗さんの話を聞き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る