ナツネとコスモ 3
「・・・・・・・・・あれ?俺、生きてる?」
目を覚ましたコスモが、最初に口にしたのがそれだった。そして、それを口にできたことで自分が生きているという実感が湧いてきた。死ぬことを確信し、覚悟を決めていたので、なんとも拍子抜けだった。どうせなら最期くらいはカッコつけてやろうと思っていたのに、結局は助かった自分に滑稽さすら覚えた。
次に意識に上ったのは、無くした左腕の事。動かそうとするが、感覚がない。そもそも、腕を動かすっていうのはどうやるんだったか。まあ、感覚がないという事は、つまりそういう事なのだろう。
おそるおそる目視で肩のあたりを確認する。感覚からして腕を失くしているのは確実だが、それを目視で再確認する事によって、現実を受け入れようと思っての事だった。
「・・・んぇ?」
しかし、彼の決意は空振りに終わった。肩の先からは、しっかりと左腕が生えていた。
何度も何度も動かせないそれを確認するが、間違いなく自分の腕だ。子供の頃に受けた予防接種の痕もあるし、右腕と見比べても、肌の色や腕の太さなどに違和感はない。ただし、肩から二の腕へと差し掛かる辺りに縫合した痕が見えた。
・・・まさか、腕を丸ごと縫い付けたのだろうか?だとしたら、腕が動かせないことにも納得がいく。皮膚を繋げただけでは、動くはずがないからだ。
とりあえず上体を起こそうとしたが、その試みも空振りに終わった。首、右腕、それに胸部と腹部。さらには両足にまで金属の枷が付けられていた。どうやら、ベッドに固定されているらしい。
「え!?何これ!?」
パニックを起こしたコスモは、右腕の枷を外そうと足掻くが果たせない。彼の頭に浮かんでいたイメージは、何かの映画で見た実験体となった人間だった。今の彼と同じ様に拘束されたその人は、生きたままで薬物を注射されたりして、最終的には死んでしまった。自分をあの映画の登場人物と重ね合わせることで、彼は恐怖のあまりに暴れていたのだった。
そんな彼を、部屋に入ってきた一人の女の子が止める。
「落ち着いて、コスモ君!ここは病院よ!!」
「うぁ・・・?」
聞き覚えのある声に、暴れるのを一旦やめてそちらへ首を曲げるコスモ。そこにいたのは、推測通りナツネだった。
「今は絶対安静!その左腕がくっつくまでは時間がかかるの!だから動いちゃいけないの!それで、やむを得ず拘束する形になっちゃってるの!理解できる?」
「・・・。・・・・・・。・・・わかった」
コスモはしばらく虚空を見つめた後、そう返事して焦点をナツネに戻した。
「知ってる範囲で説明するね。今は切断された神経や筋肉や骨を、魔術の力でくっつけようとしている最中みたい。安定させるまでは、まだ丸一日くらいかかるって。その後は、骨折の時みたいに腕を吊っている期間が一週間ほど。感覚が戻ってある程度動かせるようになるまでは、さらに二週間くらいかかるって」
「・・・もう一度、動かせる?」
「うん、動かせるって。治療に当たってくれた魔術師さんが言ってた」
「そっか。すごいな、魔術って・・・」
「・・・でも、一度完全に斬れちゃったものを、魔術の力でどうにか接合しただけだから、以前ほど力は入らないし、激しい動きもできないだろうって」
「・・・つまり、剣や盾を握る事は・・・」
「左腕では無理ね。重くない物を持ったり投げたりできるくらいには、回復するとは言ってたけど」
「・・・そっか」
「・・・ごめんね。私の所為だよね」
「いや、俺のせいだよ。俺の実力が足りなかったからこうなったんだ」
コスモは、半分見栄で、残り半分は気遣いでそう言った。
「私、コスモ君が治るまでは毎日お見舞いに来るから!リハビリとかも、できることがあったら手伝うから!!」
「いや、いいよ。そこまでは・・・」
「ダメ。ここは譲れない。私なりのケジメなの」
強い声でそう反論されれば、コスモもそれ以上何も言えなかった。それに、可愛い女の子が毎日見舞いに来てくれるというのは、内心飛び跳ねたいくらいに嬉しかった。
「・・・そういえば、君がここまで運んでくれたの?」
青少年らしい興奮がようやく冷めたコスモは、現状で一番の疑問をぶつけた。
「まさか。私にそんな力はないよ。笛の力で助けてくれる人達を呼び寄せて、運ぶのに協力してもらったの。切り落とされた左腕も、パーティの中にいた魔術師さんが冷凍保存したまま持ってきてくれたんだよ?」
「・・・そっか。なら、その人たちにもいずれ礼を言わないとね」
後日の話になるが、彼らを助けたパーティは、その出来事の話を酒場でしていた。相手は、酒飲み仲間である別のパーティだ。
「・・・へぇ。それじゃあ、笛の音に誘われて向かった先には、腕を落とされた重体の少年と、その傍で泣きながら笛を吹く少女がいたってかい?」
「信じられないかもしれないが、本当の話だ。あの光景を見たときは、状況が理解できずに困惑したのを覚えてるよ」
「だろうな。情景を想像してみたが、不謹慎ながらシュールな絵面しか浮かばねえや」
「実際には、一刻を争う緊急事態だったんだがな。色々とインパクトが強すぎて、死ぬまで忘れられそうにねえやぁ」
「だろうよ、なっはっは!」
まさか、自分達が酒の肴にされているとは思わない二人だった。
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