名倉響の初日
図書委員長という肩書を持った女の子に、諸君はどんなイメージを持つだろうか。
メガネをかけた、気弱で引っ込み思案な少女か。あるいは、他人に興味を見せない本の虫か。
名倉響は、そういったイメージからほんの少し外れている。
活字中毒な点は、確かにステレオタイプと言える。しかし、好奇心旺盛で、本でわからないことがあれば、積極的に人に教えを乞うタイプでもある。順序としては、知識欲が強かったが故に活字中毒になったというのが正しい。
そんな彼女は、スタート地点にリヴァーヴェル魔術連合国を選んだ。彼女の保有スキルに沿った選択ではあったが、同時に知識を尊ぶ国風だと聞いていたからでもある。彼女にはぴったりだと言えるだろう。
彼女が最初に行ったことは、魔術を学べるという学園に入園申請をすることだった。
ここは、魔術の才能のある若者を迎え入れ、無償で学ぶことができる学園だ。
講義や実践を名のある魔術師や魔導師が行っており、予約さえ取れば無償で教えを受けることができる。
それ以外に制約は一切なく、例えば入園申請だけして、それ以降一切学園に行かないといったことも可能だ。(事務員に負担をかけること以上の意味はないが)
無事に入園申請を受け付けてもらえたヒビキは、続いて書店へと赴いた。
といっても、ただの書店ではなく、魔術に関連する文献のみを扱う書店だ。
いくつもの文献の中から彼女が選んだのは、詠唱魔術の基礎と魔術陣の基礎をまとめた二冊の本だ。
詠唱魔術は、発動までに詠唱という手間を挟まねばならないものの、他の方法に比べて大規模な魔術を行使できる。一方で魔術陣は、あらかじめ紋様さえ描いておけば、魔力を流すだけで即発動するというスピードが売りだ。この二つを習得することで、状況によって使い分けるというのがヒビキの考えだ。
続いて、学園の講義と実践のプログラムを確認し、詠唱と陣に関わるプログラムを予約していく。
それも、片っ端から。講師によって人気不人気があるようで、いくつかは満員の為にあきらめざるを得なかったが、それでも一週間で十四もの講義と実践を予約し、ようやく彼女は満足した。
ヒビキが人生で最も充実を感じるのは、未知が既知になり、また新たな未知を発見する瞬間である。
学ぶことにゴールはない。何かを学ぶということは、新たに学べるものを見つけることだと彼女は考えている。そんな彼女にとって、書籍限定とはいえ絶対記憶の初期スキルを得ることができたのは、僥倖と言う他ない。
宿を取り、案内された部屋へ入るなり、ヒビキは机へと直行した。テイクアウトした簡単な夕食を傍らに置き、彼女はすぐさま分厚い本を開く。
本を汚さないよう、細心の注意を払いながら食事を読書を並行させる。熟読する必要はない。文字さえ余さず追っていけば、本の内容はそのまま頭に入るのだ。咀嚼するのは、知識を全て脳内に詰め込んでからでいい。
その後、ヒビキは明け方近くまでかかってようやく全ての文章に目を通し終えた。
そして、そのまま机へと突っ伏して静かな寝息を立て始めるのだった。
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