第132話 ハマるピース(1)

「依然として『UE』反応はありません。魔術師は『処理』したと思って良いかと」


 静馬がモニターをみて、獅子沢に報告した。

 幽嶋は、イスに座り込んだ。いやはや、疲れた。


「佐渡、ハイド、麗。よくやった」


 獅子沢は、そう言った。

 作戦成功である。シャルハットは退けた。


「いやぁ、静馬クンのおかげですよ」『えぇ、このハイドもそう思いますよ』


「そんなことありません。私は提案しただけですから。成功させたのはハイド課長や

幽嶋さん、指令本部長のおかげです」


 静馬は眼鏡をクイっとあげる。


「謙虚デスねぇ」


 少し笑ってから、幽嶋は一度目を閉じた。


 ――仇は取りましたよ、左空クン。


 この作戦には、既にこの世にいない功績者の影があった。

 生物課調査班員、嵐堂左空。

 

 ――君が、魔術団と最初に交戦した。諦めずに戦い抜いたからこそ『皆既食エクリプス』の札の性質が見つかったんデス。そして、君が燈太クンを助けた。その結果こうして静馬クンに伝わり、シャルハットを退けた。


 幽嶋が左空のために、やれることはやりきった。


 ――左空クン、君の戦いは無駄にならなかった。


 幽嶋は目を開けた。


「麗。感傷に浸るのはまだ早い。ビルに戻れ」


 獅子沢は淡々と幽嶋に命令を告げた。


「ハイハイ」


 幽嶋は、獅子沢に背を向け、瞬間移動先をイメージする。


「……嵐堂の手向けは全てが終わってからだ」


 獅子沢は、さきほどと変わらぬ様子で、それだけをぽつりと言った。


 ――……どこまでも強い人デスね。あなたは。

 

 幽嶋は瞬間移動した。

 獅子沢の命令であれば、命を捨てることになろうともためらわない。



 指令本部室に残されたのは、静馬と獅子沢だ。


「佐渡、坂巻は今どうなっている?」


「確認しましたが、やはり『UE』を放出し続けています」


 現象課、指令部にとっての懸念事項。本人曰く、『共鳴』しているとも。

 先ほどから変わらず『UE』を放出し続けている。普通なら燈太へ帰投命令を出す。だが、今回燈太が現場へ向かっているのは『お導き』があるからだ。

 これがプラスに働くかもしれないと、前向きに考えるしかない。




「――やはり、魔術団の『儀式』に『共鳴』しているのか……?」




 獅子沢はそう言った。


「……その可能性は低くないでしょうね。……燈太が初めて『UE』を発した日ですが、あれは魔術団が初めて『儀式』の『陣』を生成した日です」


 そう、燈太を保護した日、対人課は魔術団の儀式を阻止すべく動いている。


「当時は、偶然と考えました。なぜなら、距離が数十km単位で離れていたからです。『UE』の共鳴はある程度の距離までしか及ばない」


「『共鳴』が発生するのは、『黒葬』が観測してきた最大の距離でも1km。どんな『UE』であってもそれ以上、離れれば『共鳴』は発生しない」


 獅子沢の言うことはもっともだ。

 だが、例外・・がある。 


「……しかし、この短期間でその前例を覆すケースが2件起きている」


「……」


 獅子沢は黙り込む。

 1件目は、『皆既食エクリプス』と幽霊トンネルの平行世界移動『UE』。

 2件目は、『アトランティス』と時を操作する『UE』。『アトランティス』発生条件は時を操作する『UE』との『共鳴』だ。


「2件とも、いうなれば世界全体に影響するような『UE』。今までの観測を大きく上回る『共鳴』効果範囲をしていてもおかしくはありません」


「ふむ……。予測通り、魔術団の『儀式』で使われている『UE』が時に関連するならば、坂巻の『UE』は……」


 燈太の『UE』も時間操作に関わる『UE』なのだろうか。

 そうだとすれば、距離が離れていても燈太の覚醒と魔術団の『陣』生成の間に『共鳴』があってもおかしくはない。

 ただ、『超現象保持者ホルダー』の覚醒に必ずしもきっかけがあるわけではない。燈太の覚醒が『共鳴』によるものかはわからないのだ。


「佐渡。お前の見立ててではどうだ。これは早計か? ……ビルでは、様々な魔術師が存分に魔術を使っているだろう。その一つに『共鳴』している可能性もないわけではあるまい?」


 少なくとも、ビルで『共鳴』しているのは確かだ。燈太がそう言っている。

 その『共鳴』先は彼自身わからないと言っていた。


「……」


 静馬は考え込む。

 今日、静馬にはずっと引っかかり・・・・・があった。だが、何が引っかかているのかがわからない。何かを見逃している気がするのだ。

 恐らく、燈太の事。引っかかりを覚えたのは、燈太が『共鳴』していることを知ってからだ。

 そのことについて一度考えたかったが、本社に魔術師が現れたりと、時間を割くことが難しかった。

 今ようやく、考え込める。


 ――なんだ。俺は何を忘れている。


 静馬の頭の中を情報が錯綜する。


 『共鳴』

 『幽霊トンネル』

 『超現象保持者ホルダー

 『時を操るUE』

 

 ――なんだ。思い出せ。


 『魔術団』

 『陣生成』

 『アトランティス』

 

 ――……待て。アトランティス……。


 『共鳴』


 ――そうだ。


 『……わかるんです。これ『共鳴』してます、多分!』


 ――燈太は『アトランティス』で『共鳴』をしたと……


 静馬の脳内に電流が走る。


「そうか」


 点と点が。




「――つながった……」




 静馬の中のパズル、最後のピースがハマった。

 

「佐渡……?」


 全ての辻褄があってしまう。

 静馬は獅子沢をみて、口を重々しく開いた。


「……獅子沢指令本部長。燈太の『UE』はほぼ間違いなく、時を操る『UE』です」

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