第132話 ハマるピース(1)
「依然として『UE』反応はありません。魔術師は『処理』したと思って良いかと」
静馬がモニターをみて、獅子沢に報告した。
幽嶋は、イスに座り込んだ。いやはや、疲れた。
「佐渡、ハイド、麗。よくやった」
獅子沢は、そう言った。
作戦成功である。シャルハットは退けた。
「いやぁ、静馬クンのおかげですよ」『えぇ、このハイドもそう思いますよ』
「そんなことありません。私は提案しただけですから。成功させたのはハイド課長や
幽嶋さん、指令本部長のおかげです」
静馬は眼鏡をクイっとあげる。
「謙虚デスねぇ」
少し笑ってから、幽嶋は一度目を閉じた。
――仇は取りましたよ、左空クン。
この作戦には、既にこの世にいない功績者の影があった。
生物課調査班員、嵐堂左空。
――君が、魔術団と最初に交戦した。諦めずに戦い抜いたからこそ『
幽嶋が左空のために、やれることはやりきった。
――左空クン、君の戦いは無駄にならなかった。
幽嶋は目を開けた。
「麗。感傷に浸るのはまだ早い。ビルに戻れ」
獅子沢は淡々と幽嶋に命令を告げた。
「ハイハイ」
幽嶋は、獅子沢に背を向け、瞬間移動先をイメージする。
「……嵐堂の手向けは全てが終わってからだ」
獅子沢は、さきほどと変わらぬ様子で、それだけをぽつりと言った。
――……どこまでも強い人デスね。あなたは。
幽嶋は瞬間移動した。
獅子沢の命令であれば、命を捨てることになろうともためらわない。
◆
指令本部室に残されたのは、静馬と獅子沢だ。
「佐渡、坂巻は今どうなっている?」
「確認しましたが、やはり『UE』を放出し続けています」
現象課、指令部にとっての懸念事項。本人曰く、『共鳴』しているとも。
先ほどから変わらず『UE』を放出し続けている。普通なら燈太へ帰投命令を出す。だが、今回燈太が現場へ向かっているのは『お導き』があるからだ。
これがプラスに働くかもしれないと、前向きに考えるしかない。
「――やはり、魔術団の『儀式』に『共鳴』しているのか……?」
獅子沢はそう言った。
「……その可能性は低くないでしょうね。……燈太が初めて『UE』を発した日ですが、あれは魔術団が初めて『儀式』の『陣』を生成した日です」
そう、燈太を保護した日、対人課は魔術団の儀式を阻止すべく動いている。
「当時は、偶然と考えました。なぜなら、距離が数十km単位で離れていたからです。『UE』の共鳴はある程度の距離までしか及ばない」
「『共鳴』が発生するのは、『黒葬』が観測してきた最大の距離でも1km。どんな『UE』であってもそれ以上、離れれば『共鳴』は発生しない」
獅子沢の言うことはもっともだ。
だが、
「……しかし、この短期間でその前例を覆すケースが2件起きている」
「……」
獅子沢は黙り込む。
1件目は、『
2件目は、『アトランティス』と時を操作する『UE』。『アトランティス』発生条件は時を操作する『UE』との『共鳴』だ。
「2件とも、いうなれば世界全体に影響するような『UE』。今までの観測を大きく上回る『共鳴』効果範囲をしていてもおかしくはありません」
「ふむ……。予測通り、魔術団の『儀式』で使われている『UE』が時に関連するならば、坂巻の『UE』は……」
燈太の『UE』も時間操作に関わる『UE』なのだろうか。
そうだとすれば、距離が離れていても燈太の覚醒と魔術団の『陣』生成の間に『共鳴』があってもおかしくはない。
ただ、『
「佐渡。お前の見立ててではどうだ。これは早計か? ……ビルでは、様々な魔術師が存分に魔術を使っているだろう。その一つに『共鳴』している可能性もないわけではあるまい?」
少なくとも、ビルで『共鳴』しているのは確かだ。燈太がそう言っている。
その『共鳴』先は彼自身わからないと言っていた。
「……」
静馬は考え込む。
今日、静馬にはずっと
恐らく、燈太の事。引っかかりを覚えたのは、燈太が『共鳴』していることを知ってからだ。
そのことについて一度考えたかったが、本社に魔術師が現れたりと、時間を割くことが難しかった。
今ようやく、考え込める。
――なんだ。俺は何を忘れている。
静馬の頭の中を情報が錯綜する。
『共鳴』
『幽霊トンネル』
『
『時を操るUE』
――なんだ。思い出せ。
『魔術団』
『陣生成』
『アトランティス』
――……待て。アトランティス……。
『共鳴』
――そうだ。
『……わかるんです。これ『共鳴』してます、多分!』
――燈太は『アトランティス』で『共鳴』をしたと……
静馬の脳内に電流が走る。
「そうか」
点と点が。
「――つながった……」
静馬の中のパズル、最後のピースがハマった。
「佐渡……?」
全ての辻褄があってしまう。
静馬は獅子沢をみて、口を重々しく開いた。
「……獅子沢指令本部長。燈太の『UE』はほぼ間違いなく、時を操る『UE』です」
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