第99話 侵略者

 『黒葬』指令本部室。

 『演算装置ハイド』の監視、現場指揮、一般人への対応。やらなければいけないことが多くあり、指令部員は皆あわただしく動いていた。


 そんな指令本部室の壁はきらきらと、そう青色・・に光っている。


 『オリハルコン』である。


 『アトランティス』で得た物は、『UE』の拡張公式と『オリハルコン』の二つ。

 『お導き』では、これが組織を強靭にするだろうとあった。『白』の組織、すなわち『白夜の魔術団』との戦いにおいてこれが役に立つと獅子沢らは踏んでいる。


 といっても、前者においては既に使用し、成果を出した。微少『UE』を捕捉し、魔術団が儀式を開始する前に、動き出すことに成功したからだ。

 後者の『オリハルコン』だが、これの扱いには非常に困った。

 発見後から『黒葬』本社の強化に充てることは決めていたので、輸送中に簡単な加工を済ませ、急ピッチで指令本部の壁に貼り付けた。『オリハルコン』は金属に近く、加工がしやすかったのが幸いだ。これで、透過による強襲などは防げるはずだろう。


 問題は、ビル突入組に持たせるかにある。

 あれは、『超現象保持者ホルダー』の能力を無効化する。下手をすると、自滅を招きかねない。例えば、玄間に持たせれば逆に弱点を作ってしまうことになるだろう。

 静馬の見解では、『オリハルコン』が魔術師に接触すれば、魔術の行使を中断させることは可能。しかし、発動後の魔術に関しては大きなアドバンテージを見出すことはできないという。

 『オリハルコン』は『超現象保持者ホルダー』の能力を消すことはできても、『UE』は消すことができないからだ。『UE』に対しては弾くのみとなる。

 例えば魔術で飛んできた火の玉に『オリハルコン』をかざしても火の玉は消えないのだ。


 よって、『オリハルコン』を突入組の誰に持たせるべきかは、静馬に一任した。

 現象課、佐渡静馬は『超現象保持者ホルダー』を忌み嫌っている。故に、その扱いに対し誰よりも慎重であり、率先して『超現象保持者ホルダー』を研究してきたからだ。『オリハルコン』に対しても、『アトランティス』の現場や幽霊トンネルなどで人一倍触れてきている。適任だろう。


 ただ、静馬と共に今一番、頭を悩ましていることは、坂巻――


「――獅子沢部長!」


 突然、葛城の声が指令本部室に響く。


「どうした?」


「『黒葬』本社入り口、『barBLACK』付近で『UE』観測です!」


 獅子沢は舌打ちをした。

 このタイミングとなれば魔術師に違いない。

 念のため、想定はしていたが、儀式をほっぽり出して本社へ来るとは。全くもって、嫌な手を打ってくる。


「仕方あるまい。タイミングを見て、幽嶋を呼び戻せ」


 今の指令本部室には、『オリハルコン』がある。前回の強襲のようにここで大暴れを許すようなことはないだろう。しかし、ここ本社は『黒葬』の中枢。

 出来る限り被害を出さぬことが目標。明日以降『黒葬』が動けなくとも『UE』が関わる事件は待ってくれない。

 ビルの戦力を割くのは不本意だが、それはあちらも同じこと。……もはや、幽嶋というワープ持ちを引き留める作戦とも、とれるような動きだ。癪だが乗らざるを得ない。


「葛城、最低限の人数を残し、他の社員は裏口から避難させろ。奴らが知っているのは『barBLACK』の入口のみだ」


「了解しました!」


 ◆


「さぁてと」


 シャルハットは『barBLACK』の扉を 『届きえぬ向こうルーチェ・ムーロ』で破壊した。透明の壁を生み出す魔術。これは距離さえ離れていなければ、どこにでも・・・・・生み出せる。

 扉に対し垂直かつ、貫通するかたちで壁を生み出せば無論、扉は切断される。以前、これを人体に使うことで忍者を殺害した。


「今の魔術行使で、あっちも気付いたでしょうね……」


 ここからがシャルハットの仕事だ。


 案外、早く暴れられそうで暇をせずに済んだ。

 というのも、シャルハットが動くのは、儀式が始まって数十分後くらいだと思っていたからだ。だが、先ほどヴォルフより『黒葬』がビルに現れたという連絡を受けた。儀式は始まってまだ数分。対応が早くなっているのは、偶然か。それとも、何かあっちが変わったのか。まあシャルハットには関係ないことだ。

 暇な時間が減ったのは良いことである。


 ――さて、瞬間移動の『内包者』をここで待つか……。


 バーに入り、散策しているとトイレでエレベーターの乗り口を見つけた。なかなかシュールな光景だ。


「……それとももっと『深い所』で待つか」


 シャルハットは「楽しめる方」を優先する。

 彼は魔術でエレベーターの扉を破壊した。


「遊びに行きましょうかね。片っ端から殺す感じで。そうすればすっ飛んでくるでしょうし……」


 エレベーター内、床に穴をあける。見下ろすと、下まではかなり距離があるようだ。落下すれば即死は免れないだろう。

 そこで、『届きえぬ向こうルーチェ・ムーロ』を使い、疑似的な階段を作りだし、シャルハットは駆け降りて行った。


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とんでもない書き忘れを発見しました。


『プロジェクトR・S』の意味についてです。「R・S」は「Rising Sun」を表しており、ゼフィラルテ復活を意味します。その答え合わせをしていなかったので94話、冒頭玄間のセリフで『プロジェクトR・S』について言及しました。説明としてこれだけなので読み返す必要はないと思います。


本当に申し訳ないです。

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