第93話 再開と別れ
鋭い眼つきをした黒のスーツの男が歩いている。
その後ろを数人の男女が歩く。
目的地である『酒屋』に着くと、先頭の男はドアを3度ノックしこう告げた。
「――伊佐奈 紅蓮」
「なんの用で?」
「献杯のためのワインを取りに来た」
「白か? 赤か?」
「黒」
「ヴィンテージは?」
「1946年」
酒屋の扉が開く。
「裏口へようこそ」
酒場の店主、伊勢原 導治がそう言い、皆を迎えた。
「――そして、おかえり」
『アトランティス』調査隊帰還である。
◆
春奈は葛城の手配した車に乗って、『黒葬』本社へ向かっていた。
あの闘いは夢だったのか?
……いや、葛城がここへ来たのは、微少な『UE』を手掛かりにしたと言っていた。
となれば、戦ったのは、まぎれもなく現実。
あの男の所在が気になる。一人で逃げた?
いや、思いっきりぶんなぐった。絶対無事じゃない。
仲間が助けに来た? それだとなぜ春奈は無事なのだ。
「……部長が言うにはね、『
「あぁ、はい」
確かに「エクリプス」と男は呟いていた。
「『
「……はい」
「もう……無茶はしないで……ね」
「……すいません」
死体が消える。
……であれば、あの男は死んだのか。
◆
少女が気絶した後、『黄昏の1』ヴォルフは、『
その旨をすぐに『陣』生成組のシャルハットに電話で伝え、ヴォルフは少女を放置し、公園を後にしたのだった。
ヴォルフの極めた魔術の内の一つ、『
これは自身の分身を魔力により作り出すものである。
土煙の中、少女を殴ったときこの魔術を使い攪乱した。土煙が晴る前に、分身を消したため、少女からすれば瞬間移動をしたようにみえたかもしれない。最後に彼女の攻撃を受けたのも勿論分身だ。彼女が感知できるのは純粋な魔力の放出だけである。
筋は悪くなかった。
ハールトの『
しかし、想像以上であれど、ヴォルフの期待以上ではない。
あれをどう極めたところで、彼女がヴォルフのレベルまで上がってくることはないだろう。シャルハットあたりに『
所詮は駒を作る魔術だ。
――やはり、儀式を待つしかないか。
現在、ヴォルフを含む魔術団は、本命の儀式をすべく、車に乗ってある場所へ向かっていた。
「……ヴォルフさん」
シャルハットがヴォルフに声をかける。
「なんだ?」
「結局あの少女は殺さなかったんですよね?」
「あぁ」
「なんでです? 殺しても良かったのでは?」
「
「使い道ですか?」
「ハールトとシェパードを使う」
「……あぁ、なるほど。あなたも人が悪い」
◆
「着いたわ」
春奈が様々なことを考えている間に車は停まり、『barBLACK』から『黒葬』へと帰った。いつものマスターはいない。酒瓶も散乱している。
だが、帰ってきた。
帰ってこれたのだ。
エレベーターを出て、受付すぐの場所で春奈を迎えたのは、『アトランティス』から帰還したばかりの、
「……よぉ」
紅蓮だった。
「紅蓮……先輩」
こいつには言わなきゃいけないことがある。
「……色々あんたには言いたいことあるけど」
自分は復讐をしたのに、偉そうに説教垂れてきた事とか、そもそもそれを黙ってた事とか。
とはいえ、気を掛けてくれたこととか、春奈を止めてくれた事とか。
……おかえりとか、ただいまとか。
なんか色々言いたいことがある。ただ、全てを踏まえると、紅蓮に対してポジティブな感情よりもネガティブな感情の方が強い。
ゆえに、初めにやるべきことはただ一つ。
「とりまさ……」
春奈はニヤっと笑う。
それを見て紅蓮も察し、諦めたように右頬を春奈に向けた。
「あぁ……覚悟してる。お前が勝手に復讐したら俺がぶっ飛ばす約束だったからな」
「逆は言ってなかったけど、
――最初は、こいつを、紅蓮を一発ぶんなぐるって決めてる。
春奈は、一歩紅蓮へ近づいた。
ここまで色々道を間違えた。
でも、ここからまた、始めよう。
これからもまた道を間違うかもしれない。
でも、今はその道を正してくれる人がいる。
いつか、春奈が誰かの役に立つときが来るかもしれない。
春奈は拳を振りかぶり――
――爆ぜた。
◆
「あぁ、今だ」
『黄昏の5』シェパードはハールトの指示通り、
「『
爆破魔術を遠隔起動した。
対象は
_____________________________________
~補足~
レイパンドの時は、『
→ シェパードはドイツ出身なので、読みがドイツ語版なだけで同じ魔術です。
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