第76話 少年とオカルト(2)
次の日、信介は行方不明となった。
深夜に家を抜け出し、『UFO山』へ出かけた信介はそのまま朝まで帰らなかったのだという。
燈太はもちろん信介を心配した。大切な友人だ。親友だ。危ない目にあっているんじゃないかと思い冷汗が出た。
しかし、同時にこんな気持ちも存在していた。
信介は何か証拠をつかんだのではないかと。
UFOの噂がある山だ、信介は宇宙人にさらわれたとか。いわゆるアブダクションだ。つまり、信介はオカルトを証明するべく何か証拠をつかむため帰ってきていないんじゃないか。
そうだ。
信介はそういう奴だ。
燈太と違って、頭もいいし凄い奴だ。
信介は特別だ。大丈夫だ。信じる。
「転落死……?」
2日後。信介は遺体で見つかった。
クラスは騒然とした。クラスメイトが亡くなったのだ。
しかし、教室で一番動揺したのは燈太であることは間違いない。
「嘘だ……」
頭がおかしくなりそうだった。
なんで、止めなかった。なんでついていかなかった。
「……は?」
燈太の次に気が気でなかったのは真だ。
口論は朝だったし、なぜ信介が山にいたかを皆知っているわけではない。しかし、当事者は別だ。真だって頭が良い。信介が山へ行った原因は、自分の口論であることはすぐわかるだろう。
多分、真はパニックになっていたのだろう。気が動転してこう口走った。
「――ば、バカじゃねぇの?」
燈太は抑えられなかった。
真に殴りかかった。胸倉をつかみ、殴り、押し倒し。
燈太は涙を流しながら、怒った。
感情が抑えきれなかったのだ。八つ当たりに近かったのかもしれない。
信介が死んだこと。信介の死を侮辱されたこと。
そして、決定的だったのはオカルトがないことを心の底で認めてしまったことである。それが悔しかった。
今まで、信介としてきたことが全部水泡に帰した気がして。今までのことが全て無駄だったというように。
燈太は信介を特別視していた。頭が出会ってきた人の中で一番良かったし、燈太を巻き込むのは信介だったから、燈太とは違う特別な人間だと思っていた。そんな彼もオカルト関係なく足を滑らせれば死ぬ。
燈太にとって、親友の死は非日常的なもので衝撃的なものだ。
しかし、その死は圧倒的に『平凡』。
――オカルトなんてない
――都市伝説なんて嘘っぱちだ
――かわいそうに
信介の死は燈太に対し、残酷なほど現実を叩きつけた。
燈太は『熱』を失った。
◆
「――で、お前超能力を信じてるんだったな?」
『黒葬』と出会った日。紅蓮はそう言った。
調の能力で、燈太が超能力を信じていることが見抜かれたのだ。
そう
もうそんなもの信じないと思っていたはずなのに。信じているのか。
――いや、わかっていた。捨てきれていないのは。
オカルトはあった。
噂が全部ホントかはわからない。それでもやっぱり『それ』はある。
全てが無駄じゃなかった。信介との日々は。
――信介。
燈太は『黒葬』に入社するかを迫られた。
『未知』の実在で、ほんの少しだけ、燈太も信介も救われた。あの日々が全部無駄じゃなかったから。
しかし、信介が事故で亡くなったことは変わらない。燈太はそれを教訓として、もう『未知』から手を引くべきだ。
オカルトを信じずに普通に生きていれば、信介が事故に合うこともなかった。挑発を受けて挑んだこととはいえ、『UFO山』に行ったのは二度目。一度目でもああなる可能性はあった。
もし『黒葬』に入社すれば燈太は、信介と同じ道をたどるかもしれない。『未知』に手を出すというのは結局、そういうことだ。『黒葬』は更に危険度は高まるだろう。
――お前は、全部を後悔しているか。
中学三年生。当時14歳の子供。大人は信介のことを、幼稚な理由でバカなことをしたと思うだろう。かわいそうな子だ、と。子供の浅い考えで起きた愚行。
でも。
――俺達は本気だったんだ。
あの事故を肯定するわけじゃない。命を懸けてるわけじゃなかったし、あの死は割り切れるものじゃない。
それでも、信介は本気だった。その想いは否定したくない。
この決断を信介は止めるだろうか。
―—俺は『黒葬』でまた『未知』を追い求める
信介。見守っててくれ。俺は探求を続ける。
あの日々は俺にとって、輝いていたから。
◆
「やります!」
燈太は幽嶋にそう言った。
覚悟は決めている。
アトランティスに最後の謎を解く。
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