第62話 作戦の行方

 生物課長、幽嶋 れいは戦いを終え、指令本部へ戻った。


「おう、麗か」


 対人課長、玄間である。


「あー、こっちに戻ったんデスね」


 麗は指令本部室を見渡した。壁にぽつぽつとある血痕が目につく。何かが、こっちで起きたということだ。しかし、職員は既に働いているし、何しろ玄間がいる。

 つまり、壊滅には至らなかったものの、本部が攻め込まれた。

 これと、『極夜の魔術団』が無関係とは考えにくい。となると、幽嶋が向かった先の『UE』は陽動ということになる。


「これはこれは……。また随分……」


「そういうこった」


「……状況は?」


「見ての通りよ。例の魔術団の術師が一匹、地上から地面すり抜けて来やがった。俺が戻ってなきゃ指令部長サマやら、本社勤めの社員は皆殺しだったろうよ。どこいってた?」


「陽動にまんまと……。『極夜の魔術団』と交戦し、結界に閉じ込められてたって感じデス」


「……で、どうなった」


「恥ずかしながら、仕留めるには至りませんでシタ」


 結局、あのあと女を仕留めきることはできなかった。

 結界が解けた瞬間、煙は横に広く四散した。煙の総体積は決まっているらしく、広範囲で腰の高さほどの煙を展開したのだ。少し行けば市街地がある。ここで深追いすることは、一般人を巻き込むことになりかねない。

 よって、帰還を選んだのだった。


「収穫は?」


「ありゃ、腕利きデスね。無詠唱で魔術を行使してマシた。上位の魔術師が集まってるとみて間違いないかと」


「なるほどな、こっちに来たのもそうだった」


「あと、『極夜の魔術団』はなにやら儀式を行っていマシた。護衛は3人。正直、ただの陽動とは考えづらい気がしマス」


「……やっぱりな」


「というと?」


「なぁ、麗。俺はなんのために、外国そとに出てた?」


 玄間は、『極夜の魔術団』の支部を片端から潰してきた。そこに情報収集の意図があるのは言うまでもない。


「……『極夜の魔術団』が日本へ来た理由が判明した……と?」


「あぁ。俺は奴らの支部で興味深い資料をみつけた。トップシークレットのやつだ。大規模計画、その名も

 ――『プロジェクトR.S』」


 ◆


 南極大陸、ベースキャンプ。


「あ、幽嶋さん!」


 燈太のすぐ近くに幽嶋が突如現れた。


「本社が襲撃を受けたってガチっスか?」


 空だ。この時の空はいつもとは違い、表情に笑みは一切なかった。


「えぇ、本当デス。帰国していた天海……対人課長が対処にあたりマシた」


「課長が……。帰るっスよ!」


 空は紅蓮をみた。


「あぁ。課長が帰ってんなら、やりあうってことだろ? こっちは後回しにした方がいい」


『極夜の魔術団』について整理すると、


 燈太から『UE』が発生した同日、『極夜の魔術団』は日本で何か儀式を行っていた。そのことから、『極夜の魔術団』が日本に入国していることが明らかになったのだ。

 そして、今日。日本で二回目の動きを見せたということになる。


 今まで、対人課が動かなかったのは、潜伏先や目的が一切不明だったためである。相手は超常的な力を用い、NYで300人近くの死傷者を出したテロリストだ。

 被害を最小にするためにも油断はならない。


 その準備として、対人課長は外国へ赴き、支部を壊滅させてまわった。これは情報の獲得と、戦力の低下を目的としている。

 そして、現在、課長が帰ってきたという。

 ということは戦力的にも、情報量的にも動けるようになったということ他ならない。


 よって、空や紅蓮の言う『日本へ帰り『極夜の魔術団』の殲滅を優先する』というのは、もっともだろう。

 黒葬が襲撃されたとなれば、なおのことだ。


 だが。


「それは却下しマス」


「え?」


 驚いたのは燈太だけではない。


「幽嶋さん……、そりゃあないでしょう?」


「ほんとッスよ! 本社を襲っておいて『極夜の魔術団』を放置って正気じゃねぇッス!」


「言い方を変えましょう。却下だそうデス・・・・・・・


 紅蓮と空は顔をしかめた。


「……つまり、課長さんが『ダメだ』って言ってるんですか……?」


 燈太は幽嶋に問う。


「そうデス、大正解」


「はぁ?!」「マジっすか?!」


 紅蓮と空は二人とも声をあげた。


「電話がつながってマス」


 幽嶋は、ポケットからスマホを出し、スピーカーをオンにした。


『よぉ、2人とも』


 声は低く、なかなかオーラがある。まだ燈太は対人課長を見たことない。


『あと、誰だっけか。えー、燈太クン……だったか? そいつらが世話んなったな』


「え、いや、こちらこそ面倒を見てもらって……!」


『嘘つけ! どうせ、色々教えたのは別のヤツだろうよ!』


 電話越しだが、大笑いしているのが伝わる。


「まぁ、一番は調さんにお世話になりました!」


 なぜかピタッと、玄間の笑いは止んでしまった。


「おい! 課長! んなこた、どうでもいいんだよ! 却下ってどうゆうこった!!」


「ほんとッス! 時差ボケなんすスか?!」


『うるっせぇなぁ。グダグダ抜かしてねぇで、そっちに集中しろ。こりゃ命令だ』


 紅蓮と空は顔を見合わせた。


『説明は帰ったらしてやる。今はそっちが優先だ。お前らのそっちの仕事が色々必要・・・・なんだよ』


 こっちの仕事が必要……?

 アトランティス探索を急ぐ理由は、予言にこうあるからだ。


 ――最南の地にて、失われた世界が目を覚ます。そこで得るものは今後の組織をより強靭にするであろう。


 つまり、組織を強靭にし二つ目の予言にある、『白と名の付く集団』との戦いに備えるためだった。

 これに極夜の魔術団が関係している? 

 それとも、単に極夜の魔術団に対しても組織の強化が必要ということだろうか。


 察するに、紅蓮と空も理解してないようだった。


『じゃ、よろしく』


 電話は切れてしまった。


「だ、そうデス」


 本社が大変というのも理解している。

 しかし、燈太にとって『アトランティス』の調査は自分で志願したほどに興味があるのだ。モチベーションは変わらない。


「さあ、本社の準備が整い次第、作戦再開デスよ」


 そして、燈太は調に土産話をするという約束をした。それなりの成果をあげたいものだ。

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