第47話 不正解
「……」
「どうしました、調さん」
「いや、どこかで聞いた名前だなと思ったんだがね」
「福田薫。……変わった名前ではないですからね」
「……全くだ」
調は福田という男に近寄った。
「君は私たちに対して、敵意はないかね?」
「……うん」
――
調は『
「はい」か「いいえ」でこたえられる質問をすれば、強制的にその答えを読み取るもの。この能力を前にして嘘をつくことができた人間はだれ一人として存在しない。
つまり、彼は嘘をついていない。こちらに敵意はないのだ。
「どうします?」
「私は、指令部に『極夜の魔術団』がここを突き止め、襲撃した事実を伝えに行く。
どうせ、本社へ戻るのだ。彼は私が安全な場所へ連れて行こう。ここにまた奴ら来ないとも限らん」
「了解しました」
「またここへ戻る。その間は一人にしてしまうが任せた」
導治は小銃のマガジンを新しいものに取り換えた。
「お任せを」
調は福田へ一歩近づいた。
「立てるかね? 今から安全な場所へ案内する。大丈夫、私たちは君の味方だ」
「……」
福田はゆっくりと立ち上がった。すぐにふらついたため、調が支える。
福田は目の焦点もどこか遠くをみていた。
「……大丈夫かね?」
「……」
調は福田を支えながら、本社へ向かうエレベーターへ向かった。
「はぁ。高いんだけどなぁ、これ」
導治は割れたグラスやら、酒瓶をみてそうつぶやいていた。
「あの……」
エレベーター内で、福田はやっと口を開いた。
「どうした」
「あそこで死んでいたひとたちって」
「あぁ……」
一般人にとって、目が覚めたときあたりに死体が広がっていれば、パニックも起こすし、衝撃的だろう。
「僕が……やったんですか?」
「は?」
福田の口からでた言葉をすぐには理解できなかった。
「何をいっている。君は関係ないんだ。落ち着きたまえ」
「そう……なんですね」
精神が参っているのか。
「君は人など殺したことはないだろう?」
「……僕は、してないっ!」
福田は唐突に声を荒げた。
――
当たり前だ。
人殺しなどしたことがあるはずがない。
あの惨状は彼の心に大きな傷をつけてしまったのかもしれない。彼も『極夜の魔術団』の被害者の一人である。
『極夜の魔術団』。ここ何か月かは動きがなかったことで、油断していた。まさか、本社の位置を突き止めているなど考えもしなかった。
これが予言にあった『油断してはならない。凶刃はいともたやすく臓腑を切り裂く』の指す出来事なのだろうか。であれば、襲撃は失敗に終わっ――
――
「……は?」
調は血を吐いた。
腹部が熱い。そして、強い痛みに頭を揺さぶられた。
手で腹を抑えると、指の先から手のひらまで真っ赤に染まった。
―—
調は腰のハンドガンに手を伸ばす。
それを妨げるかのように指が吹っ飛んだ。
振り返るとそこには、悪魔のような笑顔を浮かべる福田が立っていた。
「初めてじゃなくて悪かったなァ」
「バカな……」
どこで間違った。
何を間違えた。
「じゃーーーーーな!」
調の顔に複数の小さな穴が開き、疑問を抱いたまま意識を失った。
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