第46話 強襲
「行くぞ!」
ヨハンはそう声をあげた。
ヨハンは『暁部隊』や『黄昏部隊』に属していないこの下っ端の魔術師達の小隊長である。
今この時まで、皆ある指示を待っていた。
『黒葬』本社強襲の指示である。
『陣』の生成を行っている二か所に『黒葬』社員と思われる人間が現れたという連絡を受けた。もちろん目視にて、本社から『bar BLACK』から出る人間も確認している。
本社は手薄。
――『黄昏の3』から突入の許可が下りた。
「陽光よ、どうか私にご加護を」
これは『極夜の魔術団』における、祈りの言葉である。
ヨハンを含めた魔術師達が声を揃えて口にした。
――ある一人を除いて。
「アーメン。
――南無三。
――それは意味あい違くね?」
福田という殺人鬼もいた。
「……ヨハン隊長。大丈夫なんですか? あんな奴いて」
「……あいつが信頼できずとも、人数は多いほうが良い。それで我らの悲願が達成できるならな」
「……そうですけど」
「すべてはゼフィラルテ様のためだ。やる気をだせ。それに、あいつは連絡ひとつで死ぬ」
殺人鬼三人には当たり前だが
ヨハンを含む魔術師計8人は『黒葬』本社入り口と思われるバーへ向かう。
『暁の6』ハールトの魔術で『器』を分けた少女の位置は確認できる。少女はいつもここを出入りしていた。ハールトによると、このバーに入ってすぐに何かで凄い速さで移動しているらしい。
「『bar BLACK』はこの階段の下が入り口だ。詠唱開始」
魔術師は各々詠唱を開始する。
ヨハンは巨大な火の玉を出す魔術の詠唱を行った。
「突入準備!」
ドアの前へ進む。ドアには「closed」と書かれた看板がかかっていた。ドアの前に来てわかったがかなり頑丈にできている。
――魔術で破壊するか?
しかし、それでは再詠唱の必要がでてくる。
ヨハンはドアを一度ノックした。
「まだやってないよ」
ドアの向こうから声が聴こえる。
「……酒を売ってくれないか? 近くで酒屋をやってるんだが、割っちまったんだ」
ダメ元だ。開けばラッキー開かねばまたこじ開けるだけのこと。
「それは本当か?」
なぜか、声が変わった。向こうには最低2人いるらしい。
「当たり前だろう!」
沈黙が流れる。
「……隊長、破壊しますか? なんとかできると思いますけど」
「……そうす――」
その時、ガチャリと鍵が外れる音がした。
ヨハンはすぐにドアノブに手を掛け、思い切り扉を開いた。
――人が見えたらすぐに魔術を行使し、敵を排除する!
中は普通のバー。
男が二人カウンター越しに立っていた。
その男達は自動小銃を構えていた。
「ッ?!」
「ようこそ、黒葬へ」
ヨハンの魔術が発動するより早く弾丸が放たれ、その一発は彼の頭部を直撃した。
◆
――
自動小銃AK-47から放たれた弾丸は、赤いフードを被った魔術師達へ襲い掛かった。
――彼は同時に、
「ようこそ、黒葬へ」
――対人課、伊勢原鑑心の息子でもある。
先頭に立っていた男の頭を吹き飛ばした。倒れる直前出現した炎の塊があらぬ方向へ飛んでいく。
「防御魔術展開!」
突如、土でできた壁が入り口付近に出現した。気にすることなく導治、助っ人に来ていた調は引き金を引き続ける。
壁は数秒のうちにボロボロになった。
「調さん、リロードどうぞ」
「すまんね」
調は、バーカウンターへもぐりリロードを行う。
「死ねッ!!!!」
導治もバーカウンターへもぐりこむ。
「テーブルごと吹っ飛ばせ!」
魔術師が何か、カウンターテーブルへ何かをぶつけたようだが、これは特注であり、AKの弾丸ですら通すことはない。
調へ合図をする。
導治はグレネードを放った。
後方で大きな爆発音がした。次の瞬間には立ち上がり、侵入者へ向かって発砲する。
魔術師は入り口を離れ階段側へ身を引いたようだ。
しかし、もう階段から地上へ出ることはできない。
「おい! シャッター閉まってんぞ!」
扉の向こうで声が聴こえる。
『黒葬』に喧嘩を売った以上生きては返せない。
「……調さん、足音からして、生きてるのはあと4人くらいかと」
「ドアの向こうにいるお前! そこで隠れてるのは4人かね?」
「言う訳ねーだろ! 死ね!」
調の問いかけは、罵倒で返された。
「耳がいいね、導治さん」
「どうも」
調には質問の真偽がわかる能力がある。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
魔術師の一人が影から獣のような声をあげ、現れた。
「残り3」
男は眉間を正確に撃ち抜かれ倒れた。
1時間前、本社内と入り口の『Bar BLACK』間で連絡が取れなくなった。導治がここを離れるわけにもいかないため、待っていると、父と飛鳥がやってきた。曰く、『UE』のせいで社内の連絡系統にトラブルが起きているとのこと。
その後、調がやってきた。
こちらは、指令部長の指示だという。
調と共に待機していると外の監視カメラに赤いフードを被った人影が映っていた。そして、調の能力によって奴らが嘘をついていることを確認し、手際よく処理した。
一つ驚くべきことは、調曰く、指令部長のその采配は勘だったらしい。
『黒葬』内で、指令部長が敏腕であるということは周知の事実だが、やはり『黒葬』の指示系統のトップということだけある。その実力は計りしれない。
「あぁ、導治さん。一人は残しておいてくれ」
「了解しました」
残りの魔術師が出てこないため、これでは埒が明かない。
導治はバーカウンターを飛び越え、扉の向こうへ出た。
「――またのご来店をお待ちしております」
魔術師が手を突き出し何かを放出するより早く、2人の顔面を弾丸は貫通した。
残った一人に対し、導治は銃を向ける。
「動いたら殺す」
目の前にいる男を捕虜に選んだのには理由がある。
この男は戦意をみるからに消失していた。
頭を覆い隠すように地面にうずくまり、嗚咽をもらしていたのだ。
「……ぐすっ」
調が小銃を構え、こちらへやってきた。
「……何がどうなってるんだよぉ」
男はそう鼻声で言った。
「どこだよぉ、ここ! なんで人が……!」
「?」
導治は調と顔を見合わせた。
よくみるとこの男はローブを着ていない。
「……また僕が……僕のせいで……」
男は意味不明なことをつぶやいていた。
「……もう一人、生かすべきでしたかね?」
「いや、演技かもしれない。何、聞けばわかるのだよ」
導治は一歩下がった。
「お前は『極夜の魔術団』の魔術師だな?」
「……はぁ?! 意味わかんないよ!」
調は顔を曇らせた。
「『黒葬』へ、用があったんだろ?」
「コクソー?! だから、わかんないって――おえっ!」
男はうずくまり、嗚咽を漏らしながらそう喚き散らした。
「……どうしました?」
「……本当に違うらしい」
「魔術師で間違いでしょう? 氷柱やら火の玉やら出てましたし」
「うむ、殺した連中は魔術師で間違いないと思うがね……。お前、ここに来るまでの記憶がないのか?」
「何がなんだかわかんないよぉ!!」
やけに口調も幼い。
「どうです?」
「……記憶がないことは事実だ」
「魔術で操られた一般人ということです?」
「……その可能性が高い。君、名前は?」
「――福田
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