第44話 衝突
幽嶋は自らの能力でまず南極に飛んだ。
「あ、課長!」
生物課研究班長の藤乃静華が幽嶋に駆け寄った。
「ただいまデス」
「ほ、本社は大丈夫なんですか?!」
「本社はなんらかのトラブルで通信ができなくなっていますが、無事デス。問題は都内で『UE』反応が出たことデスね。私はそっちに行きマスので皆さんはここで待機を」
「うおー! 良かったッス」
「燈太クンは変化ないデスか?」
「『共鳴』はあれからもう起きてないです。身体に異常もなければ、能力に変化もないみたいです」
「りょーかいデス。ハイドさん、通信回復までこっちは任せマス」
『このハイドにお任せを』
「では」
幽嶋が次に向かうのは都内で『UE』が観測された場所だ。
◆
都内にある小さな森。
木々に囲まれたそこにいるのは赤いローブを纏った『極夜の魔術団』の7人である。
「もう少しで『陣』が完成する。『黄昏部隊』ども、しっかり見張っとれよ」
髭をもじゃもじゃ生やした『暁の1』がそう言った。
『暁の6』ハールトはあまりこのジジイが好きではない。というか嫌いだ。
『暁部隊』にはハールト以外若い者はいない。儀式魔術に秀でている者は歳寄りに多いのだ。
そして、『極夜の魔術団』でみれば幹部だが、『暁の6』の番号からわかる通り『暁部隊』では一番下っ端である。この頭の固いジジイに従っているのは嫌気がさす。
それに比べ『黄昏部隊』は戦闘が専門ということで若い衆が多い。
『黄昏部隊』の使うような魔術の才があればよかったなとつくづく思う。
『陣』の生成を手伝いながらそんなことを考えていた。
「――あぁ、魔術師さん達でしたか、ナルホド」
「?!」
突如として現れたその男は少し遠くの木の上からハールト達を見下ろしていた。
銀髪に片眼鏡をかけた男。『黒葬』の人間か。しかし、魔力を使って5分も経っていない。あまりにも早すぎる。瞬間移動のとかそういった類の『魔術内包者』だろう。
男は消えた。
直後、バチンという大きな音が後方で鳴り響く。
「ま、流石に無防備ってわけじゃないデスよね」
振り返るとそこには焼け焦げている石が落ちていた。男は投石し、その石に『黄昏の4』の魔術が炸裂したのだ。
もし、男が無警戒でこちらに近寄って来れば石と同じ運命を辿ったのだが、そうもいかなかった。なかなか油断ならない男だ。
「『
『黄昏の6』が叫ぶ。
『黄昏の6』と男は消えた。
「増援が来る前に、終わらせるぞ」
『暁の1』がそう言った。
◆
『
「『黒葬』だよなぁ? お前!」
長い黒髪の女性だった。顔立ちからして日本人ではなさそうだ。
「えぇ、そんな感じデス」
「ここから出たきゃ―—」
「えぇ、私かあなたのどっちかが死ななきゃ出れないんデスよね。もしくは一定の時間が経過すること……でしたっけ?」
「……どこで知った? それ」
「えー、確かベルリンだったと思いマスよ」
「は?」
「連れとあなた方の『極夜の魔術団』ベルリン支部を叩き潰したときそこにいた魔術師に使われたんデス」
「あぁ……、同志ぶっ殺しまくってんのはテメェか……」
女はそれに関して怒った様子はない。
「こっちからも一つ。私の部下が最近行方不明でして。知りまセン?」
女は少し考え、くつくつと笑い始めた。
「知らねぇなぁ、特徴は何かないか?! 例えばさぁ、
「……」
「残念ながら私じゃないけどさぁ! 仲間にぶっ殺したやつがいたわ!」
「……ナルホド」
「お? なんだ冷静だな」
「よく表情に出にくいって言われマスね」
左空は部下として、とても優秀だった。
そして、生物課としてふさわしい優しい心の持ち主だった。
課長として誇れる部下だった。
「さて――
そろそろ出たいんで死んで頂いても?」
「そうこなくちゃなぁ!」
相手の使う魔術は未知数。
日本に来ている魔術師は『極夜の魔術団』の中でも最高クラスのはず。魔術師を何度か相手したが、侮ってよい相手ではない。冷静に対処する。
「――『黒葬』執行部生物課長、幽嶋麗。さぁ、害虫退治の時間デス」
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